数年前に猫を撮影し、耳と額と頰の部分に虎の模様を貼り付け、それ以外は猫を使い、虎を見たことがなかった時代の絵師の味を出そうと考えた『月に虎図』だが、竹も区内のささやかな竹林を撮影し、竹の子は季節を待って、八百屋の店先を撮影した。つまり寒山拾得以前に豊干の乗る虎を作っていた、ということで、その時の個展とは無関係であったが、我慢が出来ず作って出品した。しかし正直いうと、猫はマタタビの力を借りてもまったく思った通りにはなってくれず、これから豊干、寒山と拾得と寝ている『四睡図』など作る必要があることを考えると、作った方が良いのかな、と少々ウンザリではある。子供の頃、『ジャングルブック』の猛獣が人間の眼を畏れる場面を真に受け、上野動物園で、虎やライオンと睨めっこした私であるから、虎は知っている。それを知らないフリして作るのは面倒である。