かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

知人の小説『異郷之情』

2013年11月03日 | エッセー




 大学時代の友人の夫君である日高隼人氏が文芸社から『異郷之情』という小説を出版された。私の友人は、大学卒業後すぐに日本語教師として台湾に赴任し、長く滞在していた人である。それで、小説の舞台である台湾にまずは興味を覚えて読み始めた。
 『異郷之情』は、主に1970年代の台湾が舞台で、古い時代の台湾という私にとって未知の国の社会事情や風俗が活写されている。また、猥雑な台湾の小路に住む人々の暮らしや、まだ貧しかった日本の都会や田舎の生活もリアルに描かれている。読みながら、台湾のにおい、日本の都会や田舎のそれぞれのにおいが正にただよってくるようであった。出逢った一人一人との細やかな交流が、私のこころを暖めてくれた。何よりも台湾人である「劉兄」の人物像が魅力的で、国を超えた人間の魂の交流が熱く語られている。たいへん面白く、いただいた晩から一気に読み上げた。
 しかし、小説をいただいたのは、まだブログを始めていなかった5月のことで、まことに時期遅れになってしまったがここに紹介させていただく。主人公は日台合弁会社の駐在員として台北に赴任するところから始まって、紆余曲折、台湾の田舎町やフィリピンなど放浪することになる。これ以上具体的な内容に触れると、読む意欲を削ぐかもしれないからここでやめるが、興味を持たれた方はぜひ自分で読んで、『異郷之情』の世界を味わってほしい。
 以下にプロローグの一部を引用させていただく。

 他の人と同様、私も人生の途上で、様々な人と出逢い、そして影響を受けてきた。その中に、民族が違うにもかかわらず、私の心を支え、私に未来を与えてくれた人物がいる。私はその人物を、敬意と親しみを込めて『劉兄(リユシオン)』と呼んでいた。
 彼は、異郷の地、台湾の人である。
 台湾は日清戦争から日本の敗戦に至るまでの五十年間、日本の統治下にあった。台湾人でありながら日本人として育ち、日本の敗戦によってまた台湾人となった台湾の人々。歴史に翻弄(ほんろう)された台湾の同胞同様、劉兄もまた戦争に翻弄され人生を狂わされてしまった。

────   中略 ───── 

 これは、戦争によって人生を狂わされた一人の台湾人と多感な青年期を激動期の台湾で過ごした一人の日本人青年との、出逢いと友情、そして二人の人生の物語である。

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