かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

もしもし、小樽警察です

2013年10月28日 | エッセー

 数年前、横浜に住む私のケータイに「小樽警察です。お宅の息子さんが……」という電話が入った。夕方、勤めから帰って駐車場に車を止めたところだった。「救急車で病院に運ばれました。」と続いた。半信半疑だったが、「生きているんですか?死んだんですか?」と聞いた。向こうは「生きている息子さんからこの電話番号を聞いて掛けています。命に別状はありません。」と言った。
 小樽港近くのコンビニで倒れて救急病院に入院しているという。
①後で病院の医師から電話がある。
②コンビニの商品棚が倒れて、商品にも被害がありそうだから、電話して補償について話し合ってくれ。
③コンビニに息子さんの車が止めたままになっているので、保険会社と連絡を取って、病院の駐車場にレッカー移動してくれ。

 間もなくして、劇場版オレオレ詐欺みたいに医師と名乗る人から電話があった。
④検査の結果、格段の異状は見つからないので疲労による貧血だったと思われる。明日退院させるが、車で帰すのは病院の責任上困るの で迎えにきてほしい。
⑤本人は今検査室にいるが、そのうち電話させる。

 大学院生の息子は一ヶ月前横浜の自宅を出発して、北海道にフェリーで渡った。先生や仲間達を乗せて宿から研究現場に毎日100キロの距離を往復していた。入院の前日、研究は無事終わったから、明日はフェリーで舞鶴に行くよ、と電話があったばかりだった。(舞鶴港から祖父母が住む綾部に寄る予定だった。)
 本人に電話してみる、という知恵がこの時思い浮かばなかった。ここが詐欺にひっかかるネックかもしれない。この時は、かつて小樽で警察官をしていた知人を思い出して電話し、事の真偽を確かめて欲しいと頼んだ。知人がすぐに動いてくれて事実であることが判明した。

 事実と知って、それからが忙しかった。
○その日の夜出港の小樽~舞鶴間のフェリーをキャンセルする。
○翌日の小樽~大洗間のフェリーを予約する。
○親戚に息子の迎えを依頼する。(翌日はどうしても休めない仕事が入っていた。)
○親戚の乗る飛行機のチケットを予約する。
○コンビニに電話して謝罪、明日まで車を置かせてくれないか交渉する。(若い声の店長さん、たいしたことはないから補償は全く必要ない、駐車場は広いので退院まで駐めてもらっていいですよ、と暖かい返事をいただいた。)
 
 夜中になって息子から電話が入った。院の仲間をJRの駅に、指導教授を飛行場にそれぞれ車で送って小樽港の近くまで来た。コンビニで下着を買おうとして目の前が真っ暗になって倒れた。気がついたら病院のベッドだったという。

 後から考えると不幸中の幸いというか塞翁が馬というか、車を駐めてからコンビニで倒れたというのは非常にラッキーだったと思う。もし先生達を乗せた高速道路で事故を起こしていたらどうなったろう。自分だけが死ぬならまだいいが、先生や仲間達が亡くなったりしたらどうなったろう。また対向車を巻き添えにしていたら、どうなったろう。そう思うと静止した状態で倒れたのは何といってもラッキーだった。
 
 もっとも娘はよくこんなふうに言う。「あの時のママの慌てようったらなかった。あれじゃ、コロっとオレオレ詐欺にひっかるよ」







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