馬場あき子が『寒気氾濫』について「一冊すべて秀歌」とつぶやいていたのを、『隕石』を読みながら思い出した。現代の俳句をあまり読んでいない私から見ると、『隕石』はほとんどが秀句に思えるし、歌とは異なる俳句の世界をしっかり構築しているように思える。それでもやっぱり詠まれているのは渡辺さんの世界だ。
それにしても〈あたたかをハンス・コパーのくちもとへ〉と〈ゆふおぼろ絣のひとのゐずまひの〉の二句の落差にはちょっと驚いた。前者は放尿を詠んだと思われるが、こういう句が俳句的なのかな、いのちの温かさと切なさがあって好きである。しかし古風な(あるいは古風を装った)絣の句も好きである。
しかし俳人からみたら全く違う感想になるのかもしれない。ネットで俳人の方が褒められる『隕石』の句をみると、私がよいと思う句とはあまり重ならないからだ。そこで、よい句というのではなく、好きな句をあげさせていただく。書き出して眺めてみると、やはり短歌的な選びなのかもしれない。またエロティックな印象の句を多く選んでしまったようだ。
てふてふや石の口からいづる息
牛の尻ぶろぶろとひるがすみかな
挿木してどこへも行かせたくはなし
さくら森乳暈(ちがさ)のいろにふくらめる
瀝(したたり)の一滴一滴に余震
青山河ををへし大父(おほちち)に
万緑や円空どこにでも彫りて
前世にも前世ありキャベツ剥く中に
ろくぐわつのをんなうごけば沼うごく
日ざかりにあッと人生を消さる
旻天に置く一本の紙縒(こより)かな
うろこ雲なくししものの億倍の
雨月の夜捲る日本霊異記を
太陽のくしやみいちめんまんじゆしやげ
吐く息の白さがこのごろの誇り
初めてブログ拝見しました。
渡辺さんの俳句、ウエットで有機的なところが魅力的ですね。短歌と読み比べてみたらおもしろそうだと思いました。
渡辺松男さんの句集、ほんとうに魅力的ですね。