徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

ヒルドイドの功罪-2

2017年09月28日 12時51分31秒 | 小児科診療
 少し前に「ヒルドイドの功罪」と題してブログに書きました。
 注意喚起目的でこちらにも書かせていただきます。

 私が勤務医時代にアレルギー学会で「保湿剤はヒルドイドが良い」と聞いてきて導入したのが約20年前。
 その後どんどん使われ始め、現在では保湿剤のスタンダードになりました。
 しかしこのヒルドイド、薬価が高いのが玉に瑕。
 100gで3000円近くするのです。
 ジェネリック医薬品も販売されていますが、2/3程度までしか安くならず、かつ使用感はオリジナルが勝っています。

 そのことを知ってから、ヒルドイドの代わりになる保湿剤を探して探して・・・現在は軟膏タイプのプロペト、クリームタイプの親水クリーム、液体タイプのベルツ水にたどり着きました(“保湿剤”を塗り比べてみました)。
 すべて500gで1000円程度です。
 あ、頭皮だけは適当な代替品が見つからなかったのでヒルドイド・ローションを処方しています。

 その間、ヒルドイドの評価は高まる一方で、メディアの影響もあり美容目的で処方を希望する患者さんも増えてきたらしい。
 保険がきくから3割負担で手に入るという感覚ですね。
 そして、
「ヒルドイドの処方が医療費を圧迫しているのではないか?」
 と囁かれ始め、現在も喧々ガクガクの議論中です。

 紹介記事の文中で「治療目的は保険適用だけど、美容目的は保険適用外とすべし」は的を得た意見だと感じました。

■ ヒルドイドの美容目的の処方はなくせるか
 熊谷信:薬剤師
2017/9/27:NIKKEI DI online
 ヒルドイドソフト軟膏をはじめとした、ヘパリン類似物質を含む製剤の美容目的での使用が話題になっています。8月に一般紙で大きく報じられたのを機に、ネット上でもそれに対して様々な意見が述べられています。
 元になったのは厚生労働省が公表している「NDBオープンデータ」。2014年と2015年のデータを比較すると、ヒルドイドソフト軟膏やビーソフテン油性クリーム(現ヘパリン類似物質油性クリーム「日医工」)などは対前年比で軒並み増加しています。また、性・年代別に見ると、20~50代の女性で増加していることも分かります。
 もちろん、このデータから「女性が美容目的に使ってけしからん!」とは断言できません。とはいえ、「ヒルドイド」でウェブ検索をしてみると、「美容クリーム」「アンチエイジングクリーム」といった紹介がなされていたりします。
 経験がある方もいらっしゃるかもしれませんが、薬局で大量に処方され、「本当に全て病気の治療に使うのかな?」というようなケースに遭遇します。中には、体にはヒルドイドソフト軟膏を、顔にはビーソフテンローションを、なんて使い分けている人も(ビーソフテンローションは白濁しておらず、本当に化粧水みたいなのですよね)。
 処方してもらう患者さんにしてみたら「ちょっと出してください」、そして処方する医師も「まあ、少しくらいなら」と、お互いに罪悪感はないのかもしれません。処方を断ろうものなら、医師に対して患者の間で「あの先生は」と悪評が付くなんて話も聞きます。
 ご存知の方も多いと思いますが、OTC薬でもヘパリン類似物質を含む製品はあります。しかし普通は、医療保険を使った方が自己負担は安くて済むのですよね。これはヒルドイドに限った話ではありませんが、「それなら医療機関で出してもらおう」という意識が働くのは無理もありません。
 薬剤師としては、窓口で患者さんに説明(説教?)をしたい気持ちはありますが、「美容目的であれば医療保険を使うべきではありません。自由診療扱いで処方してもらうか、OTC薬を買ってください」と言うのは、身もふたもないですが、まあ難しい話です。ではどうしたらよいのでしょうか。
 2014年度から、予防目的でうがい薬のみが処方された場合は、処方料や調剤料、薬剤料などを算定できなくなりました。また最近では、湿布薬が1回につき70枚までと制限されたのは記憶に新しいところ。ヘパリン類似物質も、これと同じ運命をたどることになるのかもしれません。
 個人的には、添付文書の保険給付上の注意に「治療目的で使用した場合にのみ保険給付されます」と、明示したらよいのではないかと考えています。タミフル(一般名オセルタミビルリン酸塩)を予防目的で使用する際には、保険が使えないことが添付文書に記載されているのと同じですね。ヒルドイドでも、意外に効果があるのではないかと思っています。
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アセトアミノフェン(解熱剤)も不足

2017年09月28日 07時54分21秒 | 小児科診療
 アセトアミノフェンは、商品名:アンヒバ®座剤、カロナール®、コカール®など解熱剤として小児科診療で日常的に使用している薬です。
 先日、アセトアミノフェンの原料が中国産であることを隠していた製薬会社が問題になりました。
 そのあおりを受けたのか、アセトアミノフェン製剤が不足する事態になりそうです。

■ アセトアミノフェンとアスピリンが在庫切れへ
2017/9/27 富永 紗衣=日経ドラッグインフォメーション
 ファイザーとマイラン製薬はこのほど、アスピリン「ホエイ」とアセトアミノフェン「ファイザー」原末の500g包装品について、2017年10月中旬頃には在庫がなくなり、卸へ出荷できなくなる可能性が高いと発表した。原薬を調達していた山本化学工業(和歌山市)の供給停止が続いており、再開時期が未定のため。
 アスピリン腸溶錠100mg「ファイザー」とセラピナ配合顆粒(一般名サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩)も山本化学工業から原薬を調達しているが、これらについては当面供給可能としている。
 山本化学工業は国内大手の原薬製造業者であり、アスピリン(表1)やアセトアミノフェン(表2)、サリチルアミド、ゾニサミド、エテンザミドなどを製造し、多くの医薬品の原薬調達先となっている。しかし今年5月に原薬製造の変更手続きを怠ったことが判明。その後、全ての原薬の供給を停止した(関連記事:アセトアミノフェン原薬メーカーが業務停止に)。
 アスピリンについては、厚生労働省が山本化学工業に、アスピリン原薬のMF(原薬等登録原簿)を変更登録するよう指示した。その薬事手続きが終了するまで当分の間は、アスピリンの供給停止が続くため、ファイザーだけでなく健栄製薬やシオエ製薬など、複数の製薬会社がアスピリン原末を欠品とすることを発表している。
 また9月22日にはあゆみ製薬が、カロナール(一般名アセトアミノフェン)細粒50%、同細粒20%、同坐剤小児用50について今後、品薄状態になる可能性があると発表した(関連記事:カロナール細粒が10月中旬にも品薄状態に)。
 9月26日現在も、山本化学工業の供給停止は続いている。この状況が長引けば、他の医薬品も在庫切れとなる可能性がある。

★ 以下の文章で青色表示は当院で採用している薬品です。ま、まずいですね。

表1 山本化学工業の原薬を使用しているアスピリン製品
(各製薬会社のリリースより)

・アスピリン「ケンエー」
・アスピリン シオエ
・アスピリン「日医工」
・アスピリン「ホエイ」
・アスピリン「メタル」
・アスピリン「ヤマゼン」
・アスピリン「ヨシダ」
・アスピリン原末「マルイシ」

表2 アセトアミノフェン含有製品とその原薬調達先
(編集部調べ)
※ 2017年6月時点の原薬調達先について、●:山本化学工業、○:その他の会社、▲:非公開で示した。

【原末】
●アセトアミノフェン<ハチ>
●アセトアミノフェン「ファイザー」原末
●アセトアミノフェン「ヨシダ」
●アセトアミノフェン原末「マルイシ」
●アセトアミノフェン「JG」原末
○カロナール原末
○ピレチノール

【細粒】
●カロナール細粒20%、同50%
○アセトアミノフェン細粒20%「タツミ」
○アセトアミノフェン細粒20%「トーワ」
○アセトアミノフェン細粒20%「JG」
○アセトアミノフェン細粒20%(TYK)

【錠】
●アセトアミノフェン錠200mg「JG」、同300mg (他社原薬を含む)
●アセトアミノフェン錠200mg「NP」 (他社原薬を含む、※1)
○アセトアミノフェン錠200mg「タカタ」
○アセトアミノフェン錠200「タツミ」
○アセトアミノフェン錠200mg「テバ」
○アセトアミノフェン錠200mg「トーワ」
○アセトアミノフェン錠200mg(TYK)
○カロナール錠200、同300、同500
○コカール錠200mg
▲アセトアミノフェン錠200mg「マルイシ」、同300mg

【ドライシロップ】
●コカールドライシロップ40%
●コカール小児用ドライシロップ20%
●アセトアミノフェンDS小児用20%「タカタ」
○アセトアミノフェンDS小児用20%「トーワ」

【シロップ】
○アセトアミノフェンシロップ小児用2%「トーワ」
○カロナールシロップ2%

【坐薬】
●アセトアミノフェン坐剤小児用50mg「日新」、同100mg、同200mg
●アセトアミノフェン坐剤小児用50mg「JG」、同100mg、同200mg
●アセトアミノフェン坐剤小児用50mg「TYK」、同100mg、同200mg
●アルピニー坐剤50、同100、同200
●アンヒバ坐剤小児用50mg、同100mg、同200mg
●パラセタ坐剤小児用50、同100、同200
●カロナール坐剤小児用50
○カロナール坐剤100、同200、同400

【注射薬】
○アセリオ静注液1000mg、同1000mgバッグ

【配合薬】
●PL配合顆粒
○幼児用PL配合顆粒
●SG配合顆粒
●ペレックス配合顆粒
●小児用ペレックス配合顆粒
●トーワチーム配合顆粒 (他社原薬を含む)
○セラピナ配合顆粒 (サリチルアミドは山本化学工業、※2)
○サラザック配合顆粒 (サリチルアミドは不明)
○マリキナ配合顆粒
○ピーエイ配合錠 (サリチルアミドは山本化学工業、※2)
○カフコデN配合錠
○トラムセット配合錠

※1 原薬の一部を山本化学工業から調達していたが、現在(9月26日時点)は調達先を変更し、製造販売を継続している。
※2 サリチルアミドは山本化学工業から、アセトアミノフェンは他社から原薬を調達していたが、現在(9月26日時点)はサリチルアミドの調達先を変更した上で製造販売を継続している。
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インフルエンザワクチン不足(2017/18)

2017年09月27日 06時04分43秒 | 小児科診療
 毎年なんだかんだで振り回されるインフルエンザワクチン。
 もう慣れてしまいました(^^;)。

 今年は「足らない」そうです。
 当院もどれくらい入荷するか不明なため、予約が始められない状況です。

 そういえば、日本脳炎ワクチンも数ヶ月前から入手できず、予約停止状態が続いています。
 先日、群馬県と医師会によるアンケート調査があり、「供給数は足りているが、偏在していることが不足感の原因」との結論でした。
 では手に入らない状況が続いているのはどういうことなんでしょう?


■ インフルワクチン不足、予約できない医療機関も 今年度の製造量、昨年度の使用量以下に
2017年09月26日:MedPeer News編集部:朝日新聞
 インフルエンザが例年よりも早く流行する兆しが出ている中、一部の地域でワクチン接種の予約ができない事態が起きている。厚生労働省が今年度のワクチン製造量について、昨年度の使用量を下回ることを公表した後、医療機関から卸売販売業者への発注が急増したとみられ、入手できなかったり、例年並みの数量を確保できなかったりする医療機関が相次いでいる。
 厚労省によると、今年度の予想製造量は2528万本。2010年度以降で最少の製造量となった昨年度よりも250万本以上減る見通しで、昨年度の使用量よりも114万本少ない。厚労省は「昨シーズンと同等程度の接種者数を確保できる見込み」としているが、ワクチンの供給が滞り、入手が困難な地域が増えつつある。
 例年10月ごろから患者の予約の受け付けが本格化するが、こうした地域の医療機関の担当者は「ワクチンを確保できず、いつから予約ができるようになるのか分からない」「確保できた本数が例年より少ない。しばらく入手できそうもない」と悲観的だ。
 ワクチンの地域偏在などに備え、厚労省は若年層よりも重症化する危険性が高い65歳以上の高齢者、60歳以上65歳未満で日常生活が制限される障害を持つ人らへの接種を優先する方針だ。
 厚労省は、世界保健機関(WHO)が9歳以上の小児や健康な成人は「1回注射」が適切であるとの見解を示していることを踏まえ、13歳以上の接種については、「医師が特に必要と認める場合を除き、『1回注射』が原則」とし、13歳以上の接種回数を抑え込みたい考えだ。
 ただ、ワクチンの添付文書には、13歳以上の接種条件として1回注射と併記する形で、「1-4週間の間隔を置いて2回注射する」と記載されているため、「1回注射」がどこまで浸透し、ワクチンの使用量を減らせるか見通せない。
 全国的に昨年より早く患者報告数が増えており、すでに流行期に入った地域も出てきた。厚労省は都道府県などに対し、卸売販売業者と医療機関の在庫状況を3日間程度で把握できる体制の構築を要望。また、医療機関に対しても、昨年の使用実績を上回らないようにすることに加え、「必要以上に早期の、または多量の納入を求める予約・注文を行う行為は厳に慎むこと」としている。


<追記> 
(2017.10.8)

■ 製造株途中変更の影響で今シーズンはインフルエンザワクチンが不足へ〜厚労省がインフルワクチンの原則1回接種を要請
2017/10/5 古川湧=日経メディカル
 厚生労働省は9月15日、季節性インフルエンザワクチンの供給についての通知を発出した。今シーズン使用するワクチンの製造予定量が昨年度使用量を下回っていることから、例年以上に効率的にワクチンを使用することを要請している。この通知を受けて日本医師会は9月21日、都道府県医師会の感染症危機管理担当理事宛に事務連絡を発出し、医療機関などへの周知を呼びかけている。
 通知では、13歳以上の者がワクチン接種を受ける際に、医師が特に必要と認める場合を除き、接種回数を原則1回にすることを求めている。国内で流通しているインフルエンザワクチン製剤の用法用量は全て「13歳以上の者については、0.5mLを皮下に、1回またはおよそ1~4週間の間隔をおいて2回注射する」となっており、13歳以上にワクチン接種を1回で行うことは適応の範囲内であることを強調している。
 1本に数回分の薬液量がある製品については、当日中に全て使用するなどの注意事項に配慮しつつ、効率的に使用するよう求めた。また、昨シーズンはシーズン終盤でワクチンの返品があったことから、必要以上に多量の予約・注文は行わないよう要請するとともに、今シーズンに返品を行った医療機関などは公表する可能性があると警告した。
 インフルエンザHAワクチンの2017年度製造株は5月時点でA/埼玉/103/2014(CEXP002)が選定されていた。しかし、同株の増殖効率が昨シーズンのワクチン株と比較して約3分の1と著しく悪かったため、A/香港/4801/2014(X-263)に変更。株の変更によりワクチンの製造開始が遅れたことで、製造量不足が生じたとみられる
 7月31日時点における製造見込み量は約2528万本(1mLを1本に換算)で、昨年度の使用量である2642万本を下回っている。ただし、上記のような対策(13歳以上への1回接種など)が十分に講じられれば、昨年度と同等程度の接種者数を確保できる見込みという。


季節性インフルエンザワクチンの供給について(2017.9.15:厚生労働省)
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2017/18シーズンのインフルエンザ流行の主役は?

2017年09月23日 15時01分58秒 | 小児科診療
 今シーズン(2017/18)は9月現在、すでにA型インフルエンザが一部で流行し学級閉鎖が始まっていると報道されています。

 インフルエンザは毎年流行しますが、その中身は微妙に違います。
 インフルエンザにはA型が2種類とB型が2種類あることは、近年よく知られるようになりましたが、毎年の流行はその比率が異なるのです。
 たとえば、
 2015/16シーズンの流行の主役は、AH1pdm09亜型(A/H1N1pdm09)
 2016/17シーズンはAH3亜型(A/H3N2)でした。
 だいたい、AH1pdm09とAH3が交互に流行の主役を担うパターンです。

 すると、順番から行くと今シーズンはAH1pdm09が来ることになりますが・・・ 日経メディカルの関連記事を紹介します。

■ 流行ウイルスはAH3? それともAH1pdm09?
今季インフルエンザで気になる3つの懸念
2017/9/8:日経メディカル:三和護=編集委員
 暦上、9月4日から今季のインフルエンザシーズンが始まった。日本での昨シーズンまでの流行状況や南半球の今シーズンを見ると、流行の主流となるウイルスはAH1pdm09亜型あるいはAH3亜型の可能性が浮かんでくる。それぞれに懸念事項があるが、加えてワクチン接種率の低下という問題も浮上しそうだ。
 例年、暦上は第36週から翌年の第35週までの1年間がインフルエンザシーズンとなる。スタートした2017/18シーズンでまず気になるのは、流行するインフルエンザウイルスがどのタイプになるかだ。

AH3とAH1pdm09が交互に流行
 国立感染症研究所がまとめているレビュー「今冬のインフルエンザについて (2016/17シーズン) 」を読み返すと、昨シーズンは、シーズン中に検出されたウイルス全体に占める割合が85%と、AH3亜型(A/H3N2)が流行ウイルスの主流だった。AH3が主役だったのは、2014/15以来となる。
 1つ前の2015/16シーズンは、AH1pdm09亜型(A/H1N1pdm09)が主流(全体の48%)で、近年はAH1pdm09とAH3が交互に流行の主役となってきた。この経験則に立つなら、今シーズンはAH1pdm09が主流の番となりそうだ。
 主流になっていないが、B型も無視はできない。2016/17シーズンの後半には、B型の流行も見られた。2017年第9週から検出されるB型ウイルスが増え始め、第13週以降は流行が下火になっていたAH3を上回っていた。なお、B型にはビクトリア系統と山形系統がある。その比を見ると、1.6対1でビクトリア系統が多かった。
 感染研のまとめはこうなる。

 (1)2015/16シーズンは、AH1pdm09亜型を中心にB型(両系統とも)など複数のインフルエンザ・ウイルスが同時に流行した。
 (2)しかし、2016/17シーズンは、AH3亜型による流行の早い立ち上がりが見られた。その後もAH3が主流のまま推移し、シーズン後半まで流行ウイルスの大部分をAH3亜型が占めていた。
 (3)傾向としては、2014/15シーズンと同様だった。

オーストラリアではAH3が主役
 ところが、既に今シーズンの流行が始まっている南半球の状況を見ると、経験則に立つAH1pdm09主流説には疑問符が付いてしまう。
 オーストラリア政府が発表した「Australian Influenza Surveillance Report No 07」によると、同国では、昨シーズンを上回る勢いでインフルエンザが流行している。2017年の1月から8月18日までに、確定症例は前年同期のほぼ2.5倍の9万3711人に上った。年齢階層別で見た感染者数は、80歳以上が最も多く、それには及ばないものの5~9歳にもピークが存在している。
 流行しているウイルスは、AH3亜型が主流だ。2017年1月から8月21日までに検出されたウイルスの亜型を見ると、全体の628件中、AH3が322件(51.3%)、AH1pdm09が154件(24.5%)、B(山形系統)が136件(21.7%)、B(ビクトリア系統)が16件(2.5%)となっている。
 南半球で流行したウイルスは、必ずしも北半球での流行の中心に座るわけではない。しかし、これだけ多くの人が世界中を行き交うようになった現代にあっては、人の移動とともにウイルスの拡散も容易になる。つまり、北半球の流行ウイルスを予想する上で、南半球の流行状況は大いに参考にすべきなのだ。
 結局のところ現時点では、今シーズンは、AH3主流説がやや優位と見るべきではないだろうか。

AH3で思い浮かぶワクチンの鶏卵馴化の壁
 流行ウイルスのAH3主流説をとった時、まっさきに思い浮かぶのが、「鶏卵馴化による抗原変異」だ。ワクチンの基になったインフルエンザウイルス株と、実際に流行したウイルス株の間で抗原性が一致していたとしても、ワクチン製造のためのウイルスは鶏卵で作るため、その過程で抗原性が変化することがあるのだ。
 これまでも度々、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスが発育鶏卵に馴化するという難題に直面してきた。例えば、2012/13シーズンにAH3亜型が流行したときは、ワクチンに選定した株と実際に流行した株で抗原性の一致率は高かったものの、製造したワクチン株と流行株との一致率は低下していた。つまり製造過程において、ワクチン株が馴化という洗礼を受け、その抗原性が低下していたのだ。この教訓からAH3のワクチン株に、馴化の影響を受けにくい株を選ぶなどの工夫が行われるようになっている。
 しかし2度あることは3度あるもので、昨シーズンは、また「鶏卵馴化による抗原変異」が起こり、流行株と抗原性が乖離するという傾向が認められた(図1)。流行したウイルス(分離株)の9割以上が、ワクチン製造株に対する抗血清との反応性が低下しており、ワクチン株と流行株の抗原性相違が推定されたのだ。つまり、流行の主流だったAH3に対して、ワクチンは期待された効果を発揮できなかった可能性がある。

 果たして、今シーズンはどうなるのか。

図1 2016/17シーズン流行株のワクチン株抗血清との反応性(感染研「インフルエンザウイルス流行株抗原性解析と遺伝子系統樹、2016年12月28日」より)


AH1pdmならインフルエンザ脳症の多発に留意
 仮にAH1pdm09が流行の主流となった場合、何が懸念されるのか。それは、子どもたちのインフルエンザ脳症やインフルエンザ肺炎の多発リスクではないだろうか。
 近年では、2015/16シーズンが思い返される。インフルエンザ脳症の患者が200人を超え、前シーズンから倍増したのだ。感染研が公表した感染症週報(2016年第13週)によると、この時点でのインフルエンザ脳症はシーズン累計で202例となった。報告時の死亡例は計12人だった。死亡報告の割合は2009/10から14/15シーズンの6.8%よりは低かったが、5.9%に上った。
 新型インフルエンザ(A/H1N1pdm2009)が発生した2009/10シーズンには、319例のインフルエンザ脳症が報告されている。以降は、80例、88例、64例、96例と推移し、2014/15シーズンは101例が報告されている(図2、IASR 2015;36:212-3.)。

図2 インフルエンザ脳症の報告数の推移(2014/15まではIASR 2015;36:212-3.より作成。報告遅れの症例数も含む)


 専門家によると、新型インフルエンザ(A/H1N1pdm2009)が季節化して以降、AH1pdm09ウイルスの性状はそれほど変わってはいない。つまり、AH1pdm09流行時には新型インフルエンザ発生時のように、特に免疫のない低年齢層にインフルエンザ脳症やインフルエンザ肺炎のリスクがあることを念頭に置いておくべきだろう。

ワクチン接種率が低下傾向、2015/16は41.5%に
 3つ目の懸念事項は、ワクチン接種率が低下傾向にある点だ。8月末に2015/16シーズンの接種率が公表されたが、全体で41.5%だった(図3)。前シーズンの45.8%から4.3ポイントも低下した。



 2015/16シーズンは、インフルエンザワクチンにとって画期的な変更が行われた年だった。これまでの3価(抗原の種類がA型2種類、B型1種類)から4価(A型もB型も2種類)に改良され、カバー範囲が広がった。
 しかし予期せぬ事態も起こってしまった。それはワクチン接種料金の値上げだ。4価へ増えたことに対応するため、インフルエンザワクチンの製造コストはアップ。販売価格にも影響が及んだ。
 接種率の低下にワクチン料金の値上げがどれだけ影響したのかは、定かではない。が、全く影響しなかったとも言い難い。この低下傾向が続かないよう、原因の解明を急ぎ、有効な手立てをとらないといけない時期に来ている。
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全国で検出される同一遺伝子O−157の謎

2017年09月17日 11時21分01秒 | 小児科診療
 販売されている惣菜を食べて感染が広がった病原性大腸菌O-157。
 しかし「でりしゃす」という販売店以外でも同じ遺伝子の大腸菌が検出されているのです。
 これは一体どういうこと?

■同じ遺伝子型のO157、11都県で確認...感染源まだ特定できず
2017年9月14日 読売新聞
 総菜販売店「でりしゃす」の総菜を食べた人たちと同じ遺伝子型のO157の感染者が今年8月以降、埼玉、群馬両県を含めて少なくとも11都県で確認されている。
 同一の汚染源から拡大した可能性が高く、厚生労働省は今月1日、都道府県などに詳細な調査を求めたが、いまだに汚染源の特定には至っていない。
 神奈川県では、7月30日~8月9日に平塚市と大磯町の18~80歳の男女7人が感染。食事をした場所などに共通点はなく、「でりしゃす」との関連も確認されていない。一時、入院した人もいるが全員が快方に向かっているという。
 滋賀県では、8月9日に米原市内の料理店の仕出し弁当を食べた20歳代の女性2人と、同店の男性従業員の計3人から検出された。県が食材の仕入れ先を調査しているが感染ルートは特定できていない。
 厚労省は感染ルートについて〈1〉汚染源の食品・食材が流通している〈2〉感染者が調理するなどして人から人に感染が広がっている――などを想定しているが、担当者は「時がたつ中で、感染源を特定するのは難しくなっている」と話す。

過去にも死者
 O157が原因の集団食中毒は、過去にもたびたび発生し、死者も出ている。堺市では1996年、学校給食を食べた児童ら9500人以上が食中毒症状を訴え、女児3人が死亡。当時小学1年の女児が、2015年に後遺症で亡くなった。
 02年に宇都宮市の病院と併設の老人保健施設で給食に出されたあえ物が原因の集団食中毒では、死者が9人に上り、12年には札幌市の食品会社が製造した漬物を食べた8人が死亡、16年にも東京都と千葉県の老人ホームで同じ給食会社が提供した食材が原因で計10人が亡くなっている。
 また、11年には焼き肉チェーン店で生肉のユッケを食べた客計181人が食中毒を発症。富山、福井両県の計5人が死亡し、被害者からは、腸管出血性大腸菌「O111」が検出された。


 私の記憶では、病原性大腸菌による集団感染が問題になったのは1990年(27年前)埼玉県のしらさぎ幼稚園の井戸水を介したものが最初です。
 32名が入院し、12名が重症となり、2名が死亡しました。
 その時初めて「溶血性尿毒症症候群」(HUS)という病名を知りました。
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1回飲むだけの抗インフルエンザ薬が将来登場します。

2017年09月14日 18時50分46秒 | 小児科診療
 現在使用されている抗インフルエンザ薬は「ノイラミニダーゼ阻害薬」というメカニズムが共通しています。
 しかし、他のメカニズムによる抗インフルエンザ薬も開発されています。
 その候補の一つを扱った記事を紹介します。
 「ウイルスの増殖に必要なRNA複製過程の最初の反応(mRNAの合成開始)を阻害」する画期的な薬剤です。
 
■1回飲めば治療は終わり…塩野義製薬が開発するインフルエンザ治療薬は何がすごいのか
2017/08/17: AnswersNews
 塩野義製薬が開発中の新規作用機序を持つ抗インフルエンザウイルス薬「S-033188」が、臨床第3相試験に成功しました。2017年度中に国内で承認申請を行う予定で、2018年度の発売が見込まれます。
 1回の経口投与で治療が完了するという、既存の抗インフルエンザウイルス薬とは全く異なる特徴を持つ同剤。大型化が期待されています。
細胞内でのウイルス増殖を防ぐ
 「S-033188」は「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬」と呼ばれる新規作用機序を持つ薬剤。1回の経口投与で治療が完了するという、既存薬にはない特徴で注目を集めています。
 塩野義製薬の発表資料をもとに、「S-033188」とノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ)、ポリメラーゼ阻害薬(アビガン)との作用機序の違いを図にまとめました。

S-033188の作用機序(キャップエンドヌクレアーゼ阻害薬)

 「S-033188」は、インフルエンザウイルスが細胞に侵入したあと、ウイルスの増殖に必要なRNA複製過程の最初の反応(mRNAの合成開始)を阻害します。これによりウイルスは増殖に必要なタンパク質を合成できなくなり、細胞内でのウイルスの増殖を抑える仕組みです。一方、ノイラミニダーゼ阻害薬は細胞内で増殖したウイルスが細胞外に遊離するのを阻害しますが、細胞内での増殖そのものを抑えることはできません。
単回投与で有意に罹病期間短縮
 今回結果が発表されたのは、日米やアジアで行ったグローバルP3試験「CAPSTONE-1」。健常なインフルエンザ患者約1500人が対象で、
▽「S-033188」40mgまたは80mg(体重80kg以上)の単回投与
▽プラセボ
▽タミフル75mgの1日2回5日間投与
――の3群を比較しました。
 学会発表を控えていることから詳しいデータは明らかにされませんでしたが、主要評価項目のインフルエンザ罹病期間はプラセボに比べて有意に短縮。オセルタミビル(タミフル)に対する優越性は示せなかったものの、同程度の罹病期間の短縮効果を示しました。インフルエンザウイルス力価(感染性を持つインフルエンザウイルス粒子の指標)の低下も早く、感染性のあるインフルエンザウイルス粒子が検出されなくなるまでの時間では、プラセボとタミフルのいずれに対しても優越性を示しました。
タミフルより有意に低い副作用発現率
 薬剤との関連性が疑われる有害事象の発現率はプラセボと同等で、タミフルに比べて有意に低く、同社は「忍容性はきわめて良好」としています。手代木社長は7月24日のカンファレンスコールで「既存の抗ウイルス剤と同等あるいはさらに安全性が高いのではないかと考えている」と述べました。
「単回」「経口」両方のニーズをカバー
 「S-033188」は厚生労働省から、世界に先駆けて日本で発売が見込まれる革新的新薬を承認審査などで優遇する「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されています。通常12カ月程度かかる審査は6カ月程度に短縮され、18年度前半にも発売となる見通しです。
★国内で承認されている主なインフルエンザ治療薬

 国内で承認されている主なインフルエンザ治療薬と「S-033188」の特徴を表にまとめました。タミフルは1日2回5日間の経口投与。単回投与で治療が完了する薬剤には第一三共の「イナビル」と塩野義製薬の「ラピアクタ」がありますが、前者は吸入、後者は点滴で、単回で経口投与のインフルエンザ治療薬は「S-033188」が初めてとなります。
 先駆け審査指定制度の対象品目には、薬価算定時に「先駆け審査指定制度加算」を受けられることになっています。加算率は原則10%・最大20%で、タミフルの薬価(1錠283.00円・1日2回5日間投与で2830円)に10~20%を乗せた額が薬価の1つの目安となりそうです。
 塩野義は「S-033188」について、日本と台湾を除く全世界でスイス・ロシュと共同開発しており、発売後は販売額に応じたロイヤリティーを受け取ることになっています。
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今季初、インフルエンザで学級閉鎖、栃木県&埼玉県

2017年09月13日 14時25分41秒 | 小児科診療
 当地(群馬県)ではまだ夏風邪(手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱=プール熱)とRSウイルスが流行中で、インフルエンザはゼロです。

 でも、インフルエンザの足音がコツコツと聞こえてきました。
 栃木県と埼玉県で学級閉鎖の報告。
 A型インフルエンザです。

■ 今季栃木県内初、インフルエンザで学級休業 宇都宮の小学校
(2017年9月11日:下野新聞)
 栃木県教委は11日、インフルエンザとみられる症状が相次いだとして、宇都宮市新田小第4学年の1学級を12から14日まで、学級休業にすると発表した。県内でのインフルエンザが原因とみられる休業は、今季初めて。
 県教委によると、児童34人のうち13人が欠席、11人がインフルエンザA型に罹患していた。発熱などの症状があるという。


■ 早くもインフル学級閉鎖 公立校で今季初、埼玉県など警戒強化 
2017.9.12:産経新聞
 さいたま市は11日、同市立つばさ小学校が2年生の1学級(34人)を12日から3日間、インフルエンザによる学級閉鎖にすると発表した。
 県保健体育課によると、県内の公立校でインフルエンザによる学級閉鎖は今季初めてで、昨年より約3週間早い。
 同市によると、男子6人、女子8人の14人が発熱やせきの症状を訴えて欠席し、そのうち9人がA型インフルエンザと診断された。8日時点で13人が欠席していたという。
 同課は「一昨年までは10月末から11月に入って初の学級閉鎖が出ていたので、今年はかなり早い」とし、他にインフルエンザの患者が出ている川口、東松山、朝霞の3市を中心に警戒を強めている。
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インフルエンザで学級閉鎖、RSウイルス流行・・・まだ9月初旬なのに。

2017年09月08日 08時01分33秒 | 小児科診療
 2学期が始まったばかりなのに、早くもインフルエンザによる学級閉鎖のニュースが流れました。
 RSウイルスも相変わらず流行しています。
 インフルエンザ、RSウイルス、ともに冬の感染症の代表格なのに・・・。

■ インフルエンザで学級閉鎖 東京都の小学校
2017/9/ 6:J-CASTヘルスケア
東京都教育委員会は2017年9月5日、大田区の小学校でインフルエンザによる学級閉鎖の報告があったと発表した。
この学校は、在籍児童数306人、学級数12学級の萩中小学校。9月5日現在、3年生の1学級で全児童23人のうち8人が欠席、インフルエンザと診断された児童もいたという。
閉鎖期間は9月6日~7日としている。
インフルエンザは、気温が高い今の時期でも油断できない。沖縄県では7月、小学校と高校で1校ずつ学級閉鎖となっていた。


<関連記事>
■ インフルエンザは夏でも油断禁物 都内で感染例、沖縄では学級閉鎖
2017/7/21:J-CASTヘルスケア
インフルエンザは、低温で乾燥した真冬に流行する病気と考えがちだ。では真夏なら心配ないか、といえば決してそうではない。
沖縄県那覇市の保健所管内では、インフルエンザの流行により一部学校で学級閉鎖となった。東京都内でも、夏真っ盛りの今の時期に感染報告がある。
東京都感染症情報センターの7月19日時点でのデータを見ると、第28週(7月10日~16日)の都内のインフルエンザ罹患(りかん)者の報告数は、男女あわせて29人となっている。無論ピーク時に比べればずっと少ないが、手洗いやうがいといった予防をしておいて、損はないだろう。
2年前の7~8月には高齢者施設で集団感染
都内では夏の感染者数は少ないが、那覇市に目を移すと事情は一気に変わる。那覇市保健所は7月13日、同市内で第27週(7月3日~9日)のインフルエンザの定点報告が、1定点当たり10.42人となり、感染症流行注意報の基準となる同10.0人を超えたと発表した。過去5週で見ると増加傾向で、人数は「A型」が63人、「B型」が56人。小学校と高校で1校ずつ、学級閉鎖となった。インフルエンザによる入院患者も、10~14歳で1人、80歳以上で3人出ていた。
那覇市では2年前、2015年7月末~8月初めに高齢者施設でインフルエンザB型の集団感染が報告されている。国立感染症研究所のウェブサイトによると、入所者44人中41人が発熱し、診断キット検査によりインフルエンザ陽性と判明したのは33人と、発熱者の8割に上ったという。インフルエンザによる入院者や死者は出なかったが、2次感染による細菌性肺炎が4人に見られ、うち2人が入院・治療を受けた。
年間を通して気温が高い東南アジアでは、雨季にインフルエンザの流行が見られる。亜熱帯地域の沖縄でも、同じような傾向だ。
沖縄の南西に位置するマカオの特別行政区政府衛生局は2017年7月18日、インフルエンザの夏季流行時期に入ったとして注意喚起を出した。最新情報となる第28週(7月10日~16日)の患者数は1000人あたり117人で、通常時期の4倍。子どもの患者数は同214人と、通常時の2倍に達した。マカオも沖縄と同様に、亜熱帯気候に属している。

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「ベッドガード」使用で乳児死亡

2017年09月08日 06時53分55秒 | 小児科診療
 赤ちゃんの身の回りには危険がいっぱいです。
 ご注意ください。

■ 「ベッドガード」使用で乳児死亡 学会が注意呼びかけ
2017/9/8:朝日新聞


(ベッドガード使用時に起きた赤ちゃんの事故例)


 東京都内で8月、大人用ベッドで寝ていた0歳の乳児がベッドガードとマットレスの間に挟まり、死亡する事故が起きていたことが分かった。乳児の就寝時にベッドガードを使用したケースでは同種の事故が国内外で確認されており、日本小児科学会が注意を呼びかけている。
 消費者庁などによると、事故は8月8日に発生。一般家庭で大人用ベッドの側面に子どもなどの転落防止用のベッドガードを取り付け、乳児を一人で寝かせていたが、ベッドガードとマットレスの間に挟まれた状態で見つかった。病院に搬送後、亡くなったという。
 昨年9月にも、生後6カ月の男児が同様の状況で窒息状態になった。事故情報を今年5月に公表した日本小児科学会によると、母親が男児をベッドに寝かせて2分ほど目を離したところ、ベッドガードがずれてマットレスとの間に隙間ができ、男児が横向きに落ち込んでぐったりしていたという。男児はその後、意識が回復した。


<関連記事>
■ ベッドガードで幼児が窒息死寸前に 柵とマットレスのすき間に落ち込む
2017/5/27:J-CASTヘルスケア
幼いわが子を寝かしつけるのに、ベッドガードを使う人は少なくないが、ベッドガードとマットレスのすき間に幼児がはさまり、窒息する事故が起こった。
幸い一命はとりとめたが、日本小児科学会では「18か月未満の幼児にはベッドガードを使わないで!」と注意を呼びかけている。
ちょっと目を離したらベッドで顔を青紫色に
2017年5月、日本小児科学会がウェブサイト「傷害速報」に掲載した。傷害速報とは、子どもが玩具を飲みこんで窒息死したり、自転車用ヘルメットのひもが首に引っかかり窒息死したりする事故などが起こるたびに、注意を喚起するため、事故の詳細な内容を報告するものだ。
「傷害速報」の発表資料によると、事故が起こったのは2016年9月7日。生後6か月の男児が自宅寝室のベッドの中で、窒息死寸前の状態で発見された。男児宅では、大人用ベッドに市販のベッドガードをつけ、男児を寝かせていた。ベッドガードは、L字型の一辺をマットレスの下に差し込むタイプ。中央のメッシュ部は伸縮性があり、製品をマットレスに密着させても簡単にすき間ができる。事故が起こる前にも男児の腕が度々すき間にはまり込んでいたため、母親はタオルケットを丸めてメッシュ部に詰め込む工夫を行っていた。
母親は男児と一緒に買い物から帰宅し、まず男児をベッドに寝かせ、その後車内の荷物を取りに戻った。男児は起きていて、母親の姿が見えなくなって泣き始める声が聞こえた。約2分後に母親が戻ると、ベッドガードが水平にずれ、マットレスとの間に10センチ弱のすき間ができ、すき間にうつぶせ状態の男児がはまり込んでいた。
母親によると、男児の顔はマットレスとタオルケットに埋まり、息をしていないように見えた。あわてて母親が抱き上げると、男児はグッタリと目を閉じ、顔は青紫色になっていた。完全に呼吸停止していたかどうかは不明だ。母親は男児を激しく揺さぶりながら119番した。電話を切った時点で男児は呼吸を始めたが、反応が鈍く、泣かない状態が続いた。17分後に救急隊が到着した時には普段通りに泣き始めていた。病院に到着した時には意識ははっきりし、神経学的異常はなかったため、特に検査は行わず、経過観察を指示され帰宅した。
米国では11年間で13人が死亡
学会の調査によると、ベッドガードは就寝時の転落を防ぐために、通常のベッドに装着する製品で、着脱が簡単にできる物、固定式の物、フェンス部分がメッシュ状の物、柵状の物など様々なタイプが市販されている。米国では2000~2010年の11年間で、ベッドガードによる幼児の事故が132件報告され、うち13件が死亡事故だ。そのうち3件は男児宅と同じく大人用ベッドにベッドガードを付け、幼児を寝かせていた。やはり何らかの原因でベッドガードが水平方向にずれ、すき間ができて幼児が落ち込んだ。
このため、米国の製品安全員会では、ベッドガードの使用を生後18か月(1歳半)から60か月(5歳)までと定めている。日本でも同様な事故があり、製品のリコールがあった。日本の業界団体の安全基準も米国にならっている。実際、男児がはさみこまれたベッドガードにも「生後18か月未満のお子様には絶対使用しないでください」という警告が貼り付けられていた。
このことから同学会は「傷害速報」の中でこう警告している。
「今回の事故では、保護者は製品の注意喚起に気づいていなかった。ベッドガードとマットレスの間にはさみこまれて窒息する事故を防ぐには、業界がもっと効果的な注意喚起の方法を検討したり、幼児も使用できると誤解を生むような宣伝方法を改めたり、18か月未満の子でも使える製品の開発が課題になる」
ともあれ、幼児にはベッドガードはアブナイことを知っておくべきだろう。
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おたふくかぜで難聴 2年間で314人

2017年09月06日 08時16分01秒 | 小児科診療
 まだ定期接種化していないおたふくかぜワクチン。
 接種を希望すると有料で、副反応発生時の補償も定期接種より少なくなります。

 おたふくかぜの合併症として、無菌性髄膜炎、難聴と精巣炎が有名です。
 無菌性髄膜炎は、細菌性髄膜炎(原因はヒブや肺炎球菌)と異なり一過性・軽症で済むことがほとんどです。
 しかし難聴は治療法がなく、一生不自由を抱えて生活することになります。
 私の身近にも後輩の小児科医がおたふくかぜの後遺症で片側難聴を抱えています。
 精巣炎は思春期以降の男性がかかると頻度がグッと上がります。程度により男性不妊の原因になることは皆さんご存じでしょう。

 小児科学会は以前から「ムンプス難聴(おたふく風邪の後遺症としての難聴)対策にワクチンの定期接種化を!」と要望してきましたが政府の対応は鈍く、未だ実現していません。
 某女優が訴えインパクトに勝ったHPVワクチンに先を越されてしまいました。

 このたび、ムンプス難聴に関して耳鼻科学会による大規模な調査が行われ、その集計が報告されました。

□ 「2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査」(日本耳鼻咽喉科学会)

 その記事を紹介します;

■ おたふくかぜで難聴 2年間で314人に上る
2017年9月5日:NHK
 おたふくかぜにかかり難聴になった人が、去年までの2年間に全国で少なくとも314人に上ったことが日本耳鼻咽喉科学会の初めての調査でわかりました。学会はおたふくかぜの重症化を防ぐため、ワクチンの接種を受けるよう呼びかけています。
 「流行性耳下腺炎」いわゆるおたふくかぜは子どもを中心に流行し、発熱や耳の下の腫れを引き起こすウイルス性の感染症です。
 日本耳鼻咽喉科学会が、耳鼻科がある全国およそ8000の医療機関を対象に、去年までの2年間に、おたふくかぜにかかり難聴になった人の数を初めて調査しました。
 その結果、全国で少なくとも314人が難聴と診断され、このうち14人は両方の耳が難聴になっていました。難聴になった人を年齢別に見ると、10歳未満が49%と半数近くをしめたほか、10代が22%、20代が7%、30代が11%などとなっています。
 学会では、おたふくかぜによる難聴は治療で回復させるのが難しいとして、重症化を防ぐためにワクチンの接種を受けるよう呼びかけています。またワクチンが現在、任意の接種となっていることから、国に対し公費で接種が受けられる定期接種に含めるよう求めることにしています。
 日本耳鼻咽喉科学会の守本倫子乳幼児委員長は「保護者は、おたふくかぜの後遺症に苦しむ人が大勢いることを知って、できるだけ子どもにワクチンを接種してほしい」と話しています。
おたふくかぜで難聴になると…
 おたふくかぜによる難聴は、ウイルスが耳の奥にある内耳と呼ばれる部分にダメージを与えることで起こります。
 日本耳鼻咽喉科学会によりますと、片方の耳が難聴になるだけでも会話が聞き取れなかったり、人や自動車などが近づいてくる方向がわからなくなったりして、生活に支障が出ることがあるといいます。
 さらに両耳が難聴になると、補聴器をつけたり、音声を電気信号に変えて脳に送り込む人工内耳と呼ばれる装置を埋め込むなどの処置が必要となるケースもあるということです。


 日本政府・厚生労働省は学会などアカデミズムの要望だけでは動きません。
 国民が困って市民運動・社会運動にならないと(選挙で勝てる得点にならないと)対応してくれないのが現状です。

 難聴を抱えて一生を過ごさざるを得ない子どもを1人でも減らすために、ワクチンの定期接種化を期待したいと思います。
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