徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

関西空港で麻疹発生!

2016年08月31日 06時06分52秒 | 小児科診療
 前項のジャスティン・ビーバーのコンサートとの関連には言及されていませんが、怪しいですね。
 感染者がチェックインカウンターを担当していたとのこと、患者さんがさらに増える可能性があります。

■ 関西空港 従業員2人はしか 他の37人にも症状
2016年8月30日:毎日新聞
 関西国際空港で地上業務を担当する女性従業員2人がはしかと診断されたことが、関空の運営会社「関西エアポート」への取材で分かった。他の従業員37人にもはしかとみられる症状があり、2次感染した可能性がある。大阪府泉佐野保健所が感染経路を調べている。
 はしかと診断された2人は関西エアポートのグループ会社の従業員で、関空のチェックインカウンターなどの業務を担当している。2人は今月、発熱などを訴えて医療機関を受診し、はしかと判明。その後、同僚ら男女37人も同様の症状を訴えた。会社側はこの39人を自宅待機にしている。
 関西エアポートによると、外国人を含む一般利用者が感染したとの情報はないという。はしかは、発熱やせき、皮膚の発疹などの症状があり、感染力が強い。


 関西国際空港の公開コメントはこちら;

空港内従業員の「麻しん(はしか)」感染について
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8月14日、幕張メッセのジャスティンビーバーのコンサートに行った人、発熱したら麻疹の可能性あり!

2016年08月27日 07時16分57秒 | 小児科診療
 日本は2015年にWHOから「麻疹排除状態」に認定されました。
 しかし、海外からの帰国者が麻疹を持ち込み、周囲の感受性者に広がる小流行はあちこちで発生しているようです。
麻しんに関する緊急情報(2016年8月25日:国立感染症研究所感染症疫学センター)

 今回は、人気アーティストの大規模コンサート会場(2016年8月14日、幕張メッセのジャスティン・ビーバー)に麻疹患者が参加したという事態が起きました。
 全国から集まりコンサートに参加したファンが、麻疹に感染し各地に戻り、10-14日間の潜伏期間後に発症し、周囲に感染が拡大する可能性があります。

 注意すべきは、麻疹は最初は風邪症状(発熱、咳、鼻水)のみで、皮疹はありません。高熱が数日続いた後、一過性に解熱するのですが、すぐに再上昇し、その際に出てくるのです。
 しかし感染力は最初の発熱時にすでにありますので、本人も気づかないままウイルスをまき散らしていることになります。

■ 麻疹感染の男性が巨大コンサートに参加…厚労省、感染拡大の注意喚起
2016.8.25:読売新聞
  麻疹はしか に感染した男性が、14日に千葉市の幕張メッセで開かれた巨大コンサートに参加していたことがわかり、厚生労働省は24日、広域での感染拡大の恐れがあるとして、新たな患者を見逃さないように、医療機関に注意喚起を促すことを全国の自治体などに要請した。
 男性は兵庫県西宮市内の19歳。同市などによると、男性は7月末にインドネシア・バリ島に行き、8月5日に帰国。9日に39・1度の高熱、12日に発疹が出た。
 受診したが麻疹と診断されないまま、14日に人気歌手ジャスティン・ビーバーさんのコンサートに参加した。観衆は約2万5000人だった。ほかに13~15日に東京都内、神奈川県内も訪れた。男性は19日に麻疹と診断され、現在は快方に向かっている。
 麻疹は感染力が強く、空気感染する。ワクチン接種を受けていないなど、免疫を持っていない人がウイルスを吸い込むとほぼ100%が感染する。感染から10~12日後に鼻水やくしゃみ、せきなど風邪に似た症状が出て、その後、高熱と発疹が続き、肺炎や中耳炎を引き起こすこともある。妊婦がかかると流産や早産のリスクが高まる。


■ 麻疹発症中の男性がコンサートに、患者多発に警戒を
(2016/8/25 日経メディカル)
 麻疹発症中の19歳男性が、8月14日に千葉県幕張メッセで開催されたコンサートに参加していたことが明らかになった。患者多発の可能性は否定できず、全国の医療機関は、潜伏期間が過ぎた24日以降、数日間は麻疹疑い例の受診に備える必要がある。国立国際医療研究センター国際感染症センターが24日、注意喚起を行った。
 西宮市の発表によると、患者は西宮市在住の19歳男性で、麻疹の予防接種歴がなく、発症10日以内に海外渡航歴があったという。このため輸入感染例と考えられるとしている。同居家族の3人も発症しており、いずれも予防接種歴はなかった。
 なお、この4人の中に重症はおらず、全員快方に向かっている。西宮市の保健所では接触者の健康観察を行っており、患者の発生状況を注視している。
 初発患者である男性は8月9日、39.1℃の発熱があった。13日から全身に発疹が見られていたが、13日から15日には東京都や神奈川県を訪問していた。14日には、幕張メッセで開催されたジャスティン・ビーバーのコンサートに参加していたことが分かっている。その後、8月19日に至って麻疹と診断されたという。
 男性の行動を見る限り、発症中に広範囲な移動を行っていたほか、大規模なコンサートにも参加していたことから、想定される接触者は多く、新たな麻疹患者の多発に留意しなければならない。
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凍土からよみがえる炭疽菌

2016年08月16日 09時03分46秒 | 小児科診療
 アフリカの森林開発がエボラ出血熱出現のきっかけになり、
 地球温暖化が、凍土に眠る病原体を目覚めさせる。
 エンドレス。

■ 解ける永久凍土と目覚める病原体、ロシア北部の炭疽集団発生
2016/08/15:AFP BB News
【8月15日 AFP】ロシア極北ヤマロ・ネネツ自治管区で今月初めに起きた炭疽(たんそ)の集団発生で、先週までに23人の感染と少年1人の死亡が確認された。同国政府は感染拡大を防ぐことを目的にレスキュー隊や兵士らを数百人規模で配備した。
 ロシア北部同自治管区にあるヤマル半島での集団発生については、炭疽菌に感染したトナカイの死骸が永久凍土の融解により露出し、他の動物に感染したことが感染拡大の原因と考えられている。
 今後の懸念は、温暖化によって永久凍土が解け、その他の病原体が今回と同じように露出することだ。中には氷河時代にまでさかのぼる病原体もあると考えられている。
「今回の感染は、70年前に炭疽菌の感染で死んだ動物の埋葬地で氷が解けたために起きた可能性が高い」と、永久凍土の生物学的問題に取り組む「Institute for Biological Problems of Permafrost Zone」の研究所所長は述べる。
 ロシアは世界平均よりも2.5倍の速さで温暖化が進んでおり、また北極に近い地域では同国のその他の地域よりもさらにその進み方が早い。
 カラ海とオビ湾に挟まれたヤマル半島には、トナカイの遊牧をする人々がわずかだが住んでいる。ヤマル半島の今年7月の最高気温は35度に達した。これは、例年より8度ほど高いという。
 炭疽は、炭疽菌の感染によって起きる感染症で、動物からも感染する。皮膚接触により自然感染することが多く、感染すると皮膚に黒い病斑ができる。治療を受けなければ、死に至ることもある。
 北極には炭疽菌以外の病原体が何世紀にもわたって眠っているとされ、これらは氷の融解とともに露出する恐れがあると考えられている。
 疫学研究所「Central Research Institute of Epidemiology」のビクトール・マレイエフ副所長によると、同国北部には、19世紀末に天然痘が流行した際の感染体埋葬地がある他、最近では、マンモスの死骸の中からも「巨大なウイルス」が新たに発見されているという。これについては、詳細はまだ特定されていないが、同氏は、研究の継続を訴えている。

■「ヤマルは小さな警鐘」
 現在の状況についてマレイエフ氏は、「気候変動は私たちに多くの驚きをもたらすだろう」としながら、「人々の恐怖心を煽るつもりはないが、私たちはその時のために備えておくべきだ」と主張する。
 また、今回の炭疽集団発生については、炭疽菌が眠っている地域での放牧行為によって起きたと考えられているため、本来ならトナカイへのワクチン接種で回避あるいは軽減できたとしている。この地域では、これまでに2000頭以上のトナカイが死んでいる。
 ヤマロ・ネネツ自治管区のドミトリー・コブイルキン知事によると、家畜へのワクチンの投与は約10年前に廃止されたという。これについては、同地区は安全との誤った判断に基づくものだった可能性が高いと説明した。同知事によると、同管区で感染の影響が及んだ地域の面積は約1万2650平方キロメートルだという。
 自治管区政府は先週、これまでに1500人以上が予防接種を受け、706人が抗生物質を投与されていることを発表。住民らは、消毒処置が施された後、汚染されていない地域に移された。汚染地域では、兵士ら約270人が配備され、感染動物の死骸焼却などに当たっているという。
 今回の感染拡大について、同国の科学者たちは、政府の場当たり的な問題への対処を批判しており、温暖化対策の研究に十分な予算が確保されていないことを指摘した。
 海洋学者のバレリー・マリニン氏によると、ロシア政府は2010年、泥炭火災による深刻なスモッグ問題に対応するため、気候プログラムを創設しているが、現在では、すでに機能しておらず、人々の記憶からも忘れ去られているという。
 環境問題へのこうした対応についてマリニン氏は、「ヤマルは小さな警鐘にすぎない。自然は私たちに挑戦し続けるだろう」と厳しい口調で警鐘を鳴らした。
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「エンテロウイルスD68」による麻痺

2016年08月16日 07時29分24秒 | 小児科診療
 昨年秋、風邪を引いて喘息発作を起こす患者さんが多く、小児科医の間で話題になっていました。
 その後、犯人は「エンテロウイルスD68」と判明し、このウイルスは神経も犯すこともわかってきました。
 このウイルスに対するワクチンは現時点で存在せず、特効薬もありません。

■ 子供が原因不明の手足まひ、8割が症状残る
(2016年8月10日 読売新聞)
 昨年夏以降、手足に原因不明のまひなどが起きた子どもが相次ぎ、一部の患者から「エンテロウイルスD68」が検出された問題で、日本小児科学会は、まひが表れた患者のうち8割に症状が残ったとする中間報告をまとめた。
 中間報告によると、手足のまひが起きた患者のうち、ウイルス性の脊髄炎が原因とみられる54人を分析した。
 まひが完全に治ったのは5人のみで、33人は改善が一定程度でとどまり、11人は改善が見られなかった。
 手足のまひ以外に、4人に意識障害、11人に手足に感覚障害が起きた。8人は顔面まひやのみ込みの悪さを覚えていた。
 45人の画像分析では、全員に脊髄に異常が見られ、このうち20人は脳幹にも異常が確認された。


 昨年秋のニュースです;

■ 麻痺が残るエンテロウイルスD-68 流行のおそれ 感染研
2015年10月16日:Hazard lab
乳幼児や子供がかかるとぜんそくのような症状から、筋肉の虚弱やまひを引き起こす「エンテロウイルスD-68型」が国内でも流行のおそれ
 昨年、全米で1000人以上が感染した“謎のウイルス”と呼ばれる「エンテロウイルスD-68型」の感染が、先月、東京や埼玉県内で相次いで確認されたと、国立感染症研究所が15日発表した。
 「エンテロウイルスD-68型」はぜんそく症状を引き起こす呼吸器疾患で、海外では昨年8月、米国で大流行し、今年1月までに全米で1153人が感染し、このうち14人が死亡したと報告されている。
 乳幼児や子供が発症しやすく、大人では症状が無かったり、軽傷で済む場合が多い。発熱やくしゃみ、鼻水などの軽症から、気管支炎や肺炎、呼吸困難に至り、重症化すると筋肉が虚弱化し、脳神経機能に異常をきたす場合もあり、麻痺が残るケースもある。
 国立感染症研究所によると、東京都内では9月に小児総合医療センターに気管支ぜんそくのような症状で入院する患者が急増。このうち生後11カ月の女の子や2歳の男児など4人の子供の鼻水や気管内から「エンテロウイルスD68型」が検出された。
 さらに埼玉県内でも、医療機関に入院した11カ月の男の子や5歳の女児など8人からウイルスの陽性反応が報告された。いずれも気管支ぜんそくや急性気管支炎で入院し、このうち11カ月の男の子は、9月7日に右半身に弛緩性まひの症状が現れて入院。9日から10日にかけて左足にもまひが進み、退院後も右側には後遺症が残ったという。
 エンテロウイルスD-68型は、国内では2010年と2013年に120例以上の感染が報告されたが、今年は今月13日までに全国で51例発生している。ウイルスに対するワクチンは今のところ無く、国立感染症研究所では、予防のためにこまめな手洗いと塩素系の消毒剤による消毒が有効だとして注意を呼びかけている。

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ロシアの組織的ドーピング問題・その後

2016年08月16日 07時03分45秒 | 小児科診療
 “情報流出”という点で共通するニュース。

■ ドーピング告発のロシア選手の個人情報が流出か
2016年8月14日:NHK
WADA=世界アンチドーピング機構は13日、ドーピング関連の情報を管理しているシステムが外部から不正にアクセスされ、ロシア陸上界の組織的ドーピングを内部告発した女子選手の情報が流出したおそれがあると発表しました。
このシステムは、WADAがドーピング関連の情報をインターネット上で一元的に管理しているもので、世界中の選手のドーピング検査の内容や結果が記載されているほか、抜き打ち検査を可能にするため、選手が自分の所在地を登録する仕組みになっています。
WADAは13日、外部の何者かが先週、このシステムにアクセスするためのパスワードを不正に入手し、この不正アクセスによって陸上女子800メートルの元ロシア代表で、ロシア陸上界の組織的ドーピングを内部告発したユリア・ステパノワ選手の情報が流出したおそれがあると発表しました。
ステパノワ選手は告発のあと、安全を確保するため、ロシアアンチドーピング機構の職員だった夫ともにアメリカに逃れていましたが、WADAからの連絡を受け、12日に転居を余儀なくされたということです。
一方、ほかの選手の情報にはアクセスされた形跡がなかったということです。
ステパノワ選手はリオデジャネイロオリンピックへの特例での出場を求めていましたが、IOC=国際オリンピック委員会は先月、これを認めない決定を下し、内部告発を奨励する世界的な取り組みに逆行すると批判が集まっていました。


 ロシアでは「反体制」「反プーチン」を掲げて活動すると、“不審死”が待っています。
 ステパノワ選手の無事を祈らざるを得ません。

■ 【ロシア】ドーピング疑惑で渦中の人物が相次ぎ不審死…「裏切り者=死」の国で一体、何が起きているのか?
2016.2.27:産経新聞
 リオデジャネイロ五輪の開幕まであと5カ月あまりに迫る中、ロシア陸上界の組織的なドーピング疑惑をめぐって、新たなスキャンダルが発覚した。2月中旬、同国の反ドーピング機関(RUSADA)のニキータ・カマエフ前最高責任者(52)が死亡したその約一週間後、英国のサンデー・タイムズが、カマエフ氏がロシアのドーピング汚染にまつわる暴露本を執筆しようとしていたとのスクープを報じたのである。これまでも国家に歯向く“裏切り者”が相次いで不審な死を遂げてきたロシア。ドーピング問題の渦中にいたカマエフ氏の身にいったい何が起きていたのか? 

◇ 死人に口なし
 カマエフ氏の死亡は、推理小説を地で行くようなストーリーだ。
 カマエフ氏がトップを務めていたRUSADAは世界反ドーピング機関(WADA)から「不適格な組織」と認定された。組織の刷新を図るために更迭されたカマエフ氏は2月14日、モスクワ近郊の母親の別荘近くでスキーを楽しんでいて、突然、心臓の痛みを訴えた。
 そして、そのまま帰らぬ人となったのだ。
 カマエフ氏はソ連時代の1987年から科学者として、ロシアのドーピング検査機関で勤務してきた。突然の訃報に、カマエフ氏と同時にRUSADAを去った同僚は「これまで、彼に心臓の問題があるとは聞いたことがなかった」と露メディアに打ち明けた。
 さらに2月上旬には、この疑惑の中枢にいたとされるRUSADAのビャチェスラフ・シニョフ元会長が死亡したことがわかった。元会長の死について、ロシアのメディアは詳細をほとんど伝えていない。
 ドーピング疑惑の追求が、陸上界からほかの種目にも広がるのではないかと指摘されてきた矢先のキーパーソン2人の死。プーチン政権は、国家ぐるみの関与自体を「政治的でばかげている」(ムトコ・スポーツ相)と反発しているが、彼らが口を開けば、さらなる不正行為が暴露される恐れがあった。
 疑惑追及の最中の死だけに、周囲では「口封じではないか」との疑念を呼ぶ事態になった。英サンデー・タイムズも「秘密を暴露する意図があったカマエフ氏のニュースは、死をめぐる疑惑をさらに深めることになるだろう」と指摘した。

◇ 発覚はドイツのドキュメンタリー番組
 ロシアにとってスポーツは歴史的に、国威発揚を図り、米国やほかの先進国と伍(ご)して負けない大国であることを世界にアピールする手段として用いられてきた。五輪では選手のメダル獲得が至上命題となり、ソ連時代には国家が逸材を幼少時代から育成し、「ステートアマ」とされる選手を強化してきた。プーチン政権でもその路線は引き継がれた。
 ドーピング問題では、不正に薬物を染めたロシア人の選手が次々に、五輪や世界選手権でメダルを獲得していた。暴露されるまで、ロシアの子供たちは、世界で活躍する自国の選手を誇りに思っていたに違いない。
 しかし、2014年12月、ドイツのテレビ局が、実際にドーピングをしたロシア人選手の告白をドキュメンタリー番組で報道。世界に激震が走り、国家ぐるみの疑惑が発覚する端緒になった。
 報道を受け、WADAが正式な調査を始めた。そして、15年11月9日、露陸上界で選手の禁止薬物の使用や検査逃れのための贈収賄などが日常化しているとの報告書をまとめた。組織的なドーピングを隠蔽するため、正規のものとは違う裏の検査場さえ存在していたことが発覚した。
 国際陸上連盟はその後、露陸連を暫定的な資格停止処分にし、ロシア国籍の陸上選手は国際大会に出場できなくなった。

◇ 「私は真実を知っている」
 カマエフ氏が英サンデー・タイムズのスポーツ部門チーフ記者、ディビッド・ウォルシュ氏にEメールを送信してきたのは、この問題が世界のスポーツ界で席巻していた最中の11月21日のことだった。ウォルシュ氏が同紙に、そのメールの一端を明らかにした。
 「こんばんは。ウォルシュ氏のEメールに個人的な会話をもちかけたいのだが、できるでしょうか」
 カマエフ氏はこんな表現で、ウォルシュ氏を直接、指名してきたのだという。ウォルシュ氏はロシア陸上界のドーピング問題の調査報道を担ってきた人物であり、カマエフ氏もそのことを把握していたようだ。
 「私は、これまで公表されていない事実や情報を握っている」
 カマエフ氏はこう述べ、ソ連時代からのドーピング疑惑の真実を明らかにする暴露本を書きたいと打ち明けた。ウォルシュ氏が返事を出すと、12月4日に再びメーを寄せた。
 「私の個人的なアーカイブには、秘密の情報源からのものを含むさまざまな書類がある」
 カマエフ氏のさらなるPRの文句。ウォルシュ氏に対して、彼は国際オリンピック委員会(IOC)などの世界的機関やロシアのドーピング機関とやりとりした書簡も有しているともちかけた。
 「私が保管している資料はドイツのドキュメンタリー番組が暴露したものとは比較にならないほどの代物だ」
 この時点で、カマエフ氏はウォルシュ氏とスカイプで連絡を取り合うことを約束した。しかし、ウォルシュ氏はそれ以上、カマエフ氏と連絡を取ることはなかった。その理由を同紙でこのように説明した。
 「カマエフ氏のメールが正真正銘なもの(後に彼の友人にも確認した)であることは何の疑いもなかった。しかし、カマエフ氏の3番目のメールは、彼の英語のレベルがそれほど高くなく、英語で共著の本を書くことは非常に難しいことを示していた。さらに気乗りしなかったのは他の理由もあった。私は(この時点で)カマエフ氏が認識している以上に彼のことを知っていたのである」
 カマエフ氏は11月、WADAの報告が発表されたとき、この報告書はロシアに対して極端なバイアスがかかったものだと非難していた。
 報道の第一線で疑惑を追い続けていたジャーナリストが、カマエフ氏の報告を受けたとしても、それは真実を明らかにするたぐいのものではないと判断したことは想像に難くない。

◇ 疑惑を打ち消す露メディア
 カマエフ氏がウォルシュ氏にメールを出したとき、まさかその3カ月後に自身の命が絶えるなどとはゆめゆめ、思わなかっただろう。そして、出版計画にどういう意図があったのかは墓場まで持っていった。結局、カマエフ氏にとって、ロシアの不正の闇を暴露しようとする計画は、命がけの行為となってしまった。
 興味深いのカマエフ氏の死が明らかになって以降、ロシアの国営メディアがカマエフ氏にまつわる情報を積極的に明らかにしていることだ。
 同16日に、RUSADA関係者がこんなコメントを出した。
 「カマエフ氏は亡くなる前に時々、近い友人に負担のかかる運動をしたとき、心臓付近に痛みがあると訴えていたようだ」
 これは、心臓に何の不調もなかったとする当初の情報を事実上、打ち消すものとなった。
 さらに、露メディアでは同17日にはモスクワ市内でカマエフ氏の葬儀が行われたことも報じられた。
 そして21日、英サンデー・タイムズのスクープが報じられた後も、イタル・タス通信がRUSADA関係者のコメントを打電した。
 「どこかの米国の出版社がカマエフ氏に本を書くよう依頼したようだ。彼は私に『執筆する価値はあるのか否か』と相談してきた。後に私にこう話したんだ。担当者が筋立ての口述書き取りを始めた、と。でも彼はこのことに反対で、気にくわなかったようだ」
 さらに、カマエフ氏は亡くなる15日前にこの関係者に「もう書きたくない」と打ち明けていたのだという。
 この報道はロシア国内で、カマエフ氏の暴露本計画の衝撃を和らげる一定の効果をもたらした。

◇ 暗殺された元副首相と重ねるネットユーザー
 RUSUADAの疑惑には、まだまだその全体像に霞がかかっている状態だ。謎が新たな謎を呼んでいる。
 RUSADA関係者の指摘はカマエフ氏が本を書くために組んだパートナーが米国の出版社であり、ウォルシュ氏の所属する英新聞社ではなかった。彼には複数の社の暴露本計画があったのだろうか。
 カマエフ氏にはきっと、組織の責任者としてドーピング問題を引き起こした心労がたまっていただろう。しかし、スキーをする元気も体力もあった。52歳の死はあまりにも若い。
 さらに、カマエフ氏より約10日前に亡くなったもう1人のRUSUADA元会長の死について、不思議なことにほとんどのロシアメディアは沈黙を保っている。
 欧米や日本のような国なら、世界的なスキャンダルの中心人物となった2人の死について、連日、自由闊達(かったつ)なメディアの調査報道であふれかえっていただろう。
 ロシアの暗部を暴こうとしたカマエフ氏について、ロシア国内でもさまざまな噂が飛び交っている。とある独立系メディアの掲示板に、ユーザーたちのこんなのやりとりが綴られていた。
 「(カマエフ氏を)殺害した人物にまつわる秘密があるのだ」
 「じゃあ、カマエフ氏はドゥリツカヤ嬢と散歩していのかい?」
 「ドゥリツカヤ嬢」とは24歳のウクライナ人、アンナ・ドゥリツカヤさんのことだ。昨年2月、ロシアの野党指導者ボリス・ネムツォフ氏がモスクワ・クレムリンの近くで何者かに暗殺されたときに、交際相手のネムツォフ氏と一緒に歩いていた美人モデルだった。
 ネムツォフ氏の暗殺事件をめぐっても、警察当局は容疑者を何人か特定したが、遺族は当局の捜査自体を批判しており、真相は藪の中だ。
 ネットユーザーはカマエフ氏の存在を、プーチン大統領に反発してきた“裏切り者”であるネムツォフ氏に重ね合わせたのだ。

◇ 事実は小説より奇なり
 ロシアの組織的なドーピング疑惑はさらに広がりをみせ、国際機関の調査で今度は、国際陸連前会長でセネガル人のラミーヌ・ディアク氏にも飛び火した。フランス司法当局はディアク氏を汚職や資金洗浄の容疑で捜査しており、国際刑事警察機構(ICPO)も国際指名手配している。
 一方、リオ五輪への出場が危ぶまれているロシアの陸上選手たちについては、3月、国際陸連がロシア当局の再建への取り組みをふまえ、出場の可否を判断する報告書を提出することになっている。
 真実は小説よりも奇なり-。18世紀から19世紀に英国で活躍した詩人、バイロンの作品の言葉に端を発したことわざだ。これまでも、ロシアの暗部が明るみになった事件は、その英国が舞台となってきた。
 カマエフ氏がもし今、存命なら、再び英国発でドーピング疑惑の実態が暴露されただろうか? リオ五輪に全選手が出場停止となる事態に陥ったら、どんなコメントを残しただろう。
 今回の問題の最大の犠牲者は不正に手を染めず、自身の生涯をかけ、五輪を目指して頑張ってきた他のスポーツ選手であり、将来、スポーツ界で輝くことを夢見てきたロシアの子供たちである。


 ウィキペディアによると、“ロシアでは1999年から2006年までに128人のジャーナリストが死亡・もしくは行方不明となっており、プーチン政権がこれらの事件に関わっているのではないかとの疑惑が浮上”とのこと。
 日本の常識では捉えきれない国なのです。
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患者情報など データ計1万5305件盗難 伊勢崎市民病院

2016年08月16日 06時42分45秒 | 小児科診療
 目にとまった、群馬県内の病院関連の記事。

■ 患者情報など データ計1万5305件盗難 伊勢崎市民病院
2016/8/14 上毛新聞
 群馬県の伊勢崎市民病院は13日、患者147人の氏名や年齢、病名などが記載された用紙と、1万5158件の手術情報が入ったハードディスク(HDD)が盗難に遭ったと発表した。手術データの分析を委託している業者の女性社員(27)が、用紙とHDDが入ったかばんを、埼玉県上尾市内の社宅駐車場に止めた車に置いたままにしていた。12日に盗難に気付き、同県警上尾署に被害届を出した。情報の不正利用などは確認されていない。
 同病院によると、用紙には今月8~19日に同病院で手術を受けたり、受ける予定の全患者の氏名と年齢、性別、血液型、病名などが書かれていた。HDDには、2013年4月から16年7月に同病院が実施した全ての手術に関する個人情報が入っていた。
 用紙、HDDともに住所や電話番号の記載はなく、HDD内の情報はパスワードで保護されている。同病院は今後、該当患者に説明し、謝罪する予定。
 同病院は手術室の効率的な運営を図るため、14年7月からこの業者に手術データの分析を委託。業務は院内で行い、個人情報の持ち出しは禁止し、処理が終わった用紙は破棄、HDDを持ち出す場合は内容を消去するよう指導しているが、女性社員は無断で持ち出していた。業者は「社の教育と本人の認識が不足していた」と話した。
 同病院の小林幹男病院長は「患者や家族に多大なご迷惑をかけ、心から陳謝したい」とコメント。再発防止に向け、個人情報の委託業務を再確認し、業者側に契約条項の順守を求めるとしている。
 同市の五十嵐清隆市長は「大変遺憾であるとともに申し訳ない。今後このようなことのないよう全職員に指示したい」とコメントした。


 こういう事件、困ります。
 誰が責任を取るのでしょうか? ・・・ふつうに考えれば業者かな?

 同じ病院での別の記事;

■ 手術ミスで斜視 男性に358万円賠償 伊勢崎市が議案
2016/6/4:上毛新聞
 群馬県の伊勢崎市民病院で内視鏡手術を受けた、埼玉県本庄市の60代男性に後遺障害が生じたとして、伊勢崎市は3日、男性に損害賠償金約358万円を支払う方針を市議会議会運営委員会に示した。


 群馬県内の病院の“初診料”の記事。
 初診料は、
・桐生厚生総合病院:2160円
・伊勢崎市民病院:1620円
・前橋赤十字病院:5400円
・群馬大学附属病院:5400円

■ 群馬大と前橋赤十字病院で値上げ 初診5400円、再診2700円
2016年3月30日:東京新聞
 4月からの診療報酬の改定などに伴い、大病院では新たな定額負担の仕組みが導入される。県内でも群馬大学病院と前橋赤十字病院(ともに前橋市)で、他の医療機関からの紹介状なしで受診した患者が負担する特別料金を、初診で5400円(現行3240円)、再診で2700円(同540円)にそれぞれ値上げする。 
 診察の費用とは別にかかるので注意が必要だ。救急車で搬送された重症患者などは対象外となる。
 国は、軽症患者が大病院ではなく、まずはかかりつけ医となる診療所や中小病院へ受診するよう促すため、「特定機能病院」や一般病床五百床以上の「地域医療支援病院」を対象に、選定療養にかかる特別料金として最低額で初診五千四百円、再診二千七百円を設定するよう義務づけた。高度な医療を担う大病院と、中小規模の病院の役割分担を進める狙い。
 肝臓手術を受けた患者の死亡事故が相次いだ群大病院は昨年六月、県内で唯一だった特定機能病院の承認が取り消された。地域医療支援病院でもないが、同病院は「地域の大規模病院として制度の趣旨に準じて対応した」と説明する。
 県内では桐生厚生総合病院と伊勢崎市民病院が、ともに四月から五百床未満に病床数を縮小する予定のため、桐生は初診で二千百六十円、伊勢崎は千六百二十円(いずれも税込み)と現行と同じ特別料金に据え置く。両病院とも再診では徴収していない。
 ただ、現行制度でも二百床以上の病院は地方厚生局に届け出れば、紹介状がない場合の特別料金を徴収できる。各病院の判断に任されており、厚生労働省の担当者は、四月からの見直しに合わせて今より値上げするか、新たに徴収を始める病院が「出てくる可能性はある」と話す。
 二百床以上の県内病院は他に約二十カ所ある。関東信越厚生局群馬事務所は取材に、「現在各病院からの届け出を処理しており、取りまとめる状況にない」と説明している。


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2016年夏、ヘルパンギーナ流行中

2016年08月09日 06時49分45秒 | 小児科診療
 夏風邪三兄弟(ヘルパンギーナ、プール熱、手足口病)のひとつであるヘルパンギーナが当地でも流行中です。
 プール熱、手足口病はほとんど見かけません。

■ 夏かぜヘルパンギーナ、福島でも流行中 大人は重症化も
2016年8月7日:朝日新聞
 乳幼児を中心に夏かぜの症状が出るウイルス性感染症「ヘルパンギーナ」の流行が福島県内で広がっている。患者は400人に達し、会津や県南、浜通りで流行期に入った。県は「患者が2600人を超えた5年前と広がり方が似ている」とし、手洗いの徹底を呼びかけている。
 ヘルパンギーナは38度以上の発熱やのどの痛み、のどの奥に小さな水ぶくれができる夏かぜの一種。一般に2~4日で快方に向かうが、まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎などを併発し、重症化や長期化を招くことがあるという。
 福島県健康増進課によると、県内では7月末までに414人がヘルパンギーナと診断された。会津(会津若松市)、いわき市の2保健所管内では7月25~31日の患者数が、1医療機関あたり6人の「警報レベル」を今年初めて超えた。
 患者数は過去2年の同時期と比べて3・0~1・3倍。隣県の山形や栃木、群馬では全域で警報レベルに達した。県内では2011年に2622人が発症しているが、それ以来の拡大となる可能性があるという。同課の担当者は「帰宅やおむつ替え後の手洗い、うがいを徹底して」と話す。


 ヘルパンギーナという病気の特徴を私的に列挙すると・・・

・ヘルパンギーナはウイルスが原因であり、かつ原因となるウイルスは一種類ではありません。つまり、何回か罹ることがあります。
・抗生物質は効きません。特効薬もなく、対症療法のみ。
・症状が治まっても感染力はなくなりません。便中にウイルスが数週間出続けるので、オムツの処理を適切に行わないと感染拡大が止まりません。
・隔離義務の設定はありません。つまり「○○まで登園禁止」という指示が医師から出ることはなく、「症状が治まって元気になったら登園可」とふつうの風邪と変わりません。

 というわけで、診断してもあまりできることがないのです。
 まあ、経過の見通しがつく、というメリットはありますが。
 のどの痛みには西洋薬より漢方薬の方が有効ですね。

 こちらも参考にどうぞ;

夏風邪のお話(当院HP)
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