イギリスでロタウイルス・ワクチンが定期接種化したというニュースが流れました。
ポイントはコスト重視の欧米医療の中で、費用対効果が悪いのに採用・導入されたことです。
■ イギリスでロタワクチン定期接種,費用が医療費削減効果上回るとの試算も
(2012.11.15:MT Proより抜粋)
英保健省(Department of Health)は来年(2013年)9月からロタウイルスワクチンを定期接種プログラムに導入することを発表した。使用されるのは1価のロタウイルスワクチン(商品名:ロタリックス)。英保健サービス(NHS)が示した試算によると,同ワクチン定期接種化に伴う新たなコストはロタウイルス感染症に伴う入院や治療のコスト削減幅を上回るようだ。それでも,導入が決断された理由とは?
◇ 海外の定期接種化の状況,米国の臨床研究の成績なども考慮
保健省のリリースによると,英国では5歳未満の小児の下痢による入院が年間14万件に上り,ロタウイルスによる下痢で入院する小児の割合はそのうち10%程度(1万4,000人)。
今回,予防接種諮問委員会(JCVI)が同ワクチンはロタウイルスの感染予防法として費用効果に優れ,小児に健康上のベネフィットをもたらすと結論付けた。
NHSによると,同ワクチンの定期接種化に当たっては年間約2,500万ポンド(1ポンド=約127円:11月15日付けyahooファイナンスを参照,31億7,500万円)のコストがかかる見込み。しかし,「入院や家庭医,救急外来の受診を抑制することでNHSは年間約2,000万ポンドのコストを抑制できる」他,「数千人の小児を,つらく,ストレスフルな疾患から守れるだろう」との見解を示している。
保健省はJCVIの結論を受けて,ロタリックスの定期接種プログラムへの導入を判断。導入の理由について同省は「既に米国など多くの国で定期接種化されていること」「米国の研究で,ロタウイルスワクチン導入後小児のロタウイルスによる入院が3分の2以上減少していたとの結果が示されたこと」を挙げている。
現在,英国では定期接種としてジフテリア・破傷風・百日咳,ポリオ,インフルエンザ菌b型(hib)の五種混合ワクチン,小児用肺炎球菌ワクチン,髄膜炎菌C型(MenC)ワクチン,麻疹・ムンプス・風疹(MMR)三種混合ワクチン,ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンなどが小児~学童期に実施されている。この他,B型肝炎(HBV),小児結核(BCG),水痘,季節性インフルエンザワクチンは定期接種(2014年から経鼻ワクチンが定期接種化の予定)ではないが,医師の診断などにより必要と判断された小児は無料で接種できる。
欧米では、予防接種より実際に病気にかかる方がコストがかかるからと云う理由で対象が広がってきた経緯・歴史があります。
ところが今回のロタウイルス・ワクチンに関しては、赤字覚悟で実施するという異例の判断されたのです。そこには子どもが苦しむ病気を減らしたいという思いが込められており、ちょっと感動しました。
責任逃ればかりで及び腰の日本の予防接種行政も見習って欲しいものです。
ニュースの最後の方で「イギリスでは2014年からインフルエンザ経鼻ワクチンが定期接種化の予定」とあることに注目(下記ニュースも参照)。
現在日本で採用している注射剤の不活化ワクチンは採用せず、経鼻生ワクチンのみを定期接種化するという意味です。つまり、不活化インフルエンザワクチンの効果を評価していないことになります。
■ 英国,全小児へのインフルエンザワクチン接種を勧奨 高齢者・高リスク者対象からプログラム拡大
(2012.7.31:MT Pro より抜粋)
先週,英国保健省が,同国の2~17歳の全ての小児に季節型インフルエンザワクチンの年1回の接種を勧奨すると発表した。今年(2012年)初め,同国の予防接種諮問委員会(JCVI)が従来の高齢者や妊婦など,インフルエンザ重症化の高リスク群を対象とした予防接種プログラムを小児にも拡大することを政府に勧告していた。今回の勧告で小児に推奨されるのは経鼻投与の弱毒生ワクチン。ただし,同省はプログラム変更が実施されるのは,早くて2年後の2014年としている。
◇ 900万人分のワクチン製造が可能になるのが2年後
保健省長官のAndrew Lansley氏は「全ての小児に無料でインフルエンザワクチンを提供する試みは英国が初めてだろう」と声明で述べている。これまでの同国の予防接種プログラムにおけるインフルエンザワクチンの優先対象者は,喘息や心疾患,脳性麻痺などの基礎疾患を有する小児や65歳以上の高齢者,糖尿病患者や妊婦など。
今回の政府の予防接種プログラム拡大に当たり,JCVIはこれまでの研究成果を踏まえ,「2~17歳の小児へのインフルエンザワクチン接種による集団免疫効果で,小児間のウイルス伝播あるいは,高リスク成人の罹病率や死亡率抑制が示唆されている。接種の費用効果は小児よりも成人で大きい」などと提言。
また,小児への接種プログラム拡大にはインフルエンザワクチンの種類が大いに関係しており,数年以内に同年齢層の小児への経鼻型弱毒生ワクチンが利用可能になることが期待されるとしている。
同国で接種勧奨年齢の小児に使用される予定の経鼻ワクチンは,英アストラゼネカが販売するFluenz。欧州医薬品庁(EMA)が2011年に24カ月~18歳以下の小児に対する適応を承認している。英保健省は英国内で全対象小児900万人分をカバーできるワクチンを供給できるようになるのは,最も早くて2014年との見込みを示す。
◇ 6週間程度で接種をどう行うか「スクールナースが全然足りない」の声も
さらに接種プログラム拡大に当たって解決すべき問題がいくつかあると保健省。JCVIは学童期に達しない小児への接種は家庭医が,学童期の小児への接種をスクールナースが担うのが最善と勧告。しかし,900万人もの接種対象者をカバーするには誰が最も適切か,また接種に必要なトレーニングを誰が行うかはこれから解決すべき問題だと同省は述べている。さらに接種勧奨時期である流行期の6~8週間前にどうプログラムを実行するのか,また保護者が安心できる情報を誰が提供するのが最善なのかといった課題も残っているという。
英医学誌のBMJは7月26日公式ニュースで,地域小児医療のコンサルタントDavid Elliman氏のコメントを紹介している。同氏はJCVIの勧告の根拠に未発表文献が含まれていることを指摘。同ワクチンの安全性に問題はないものの,全小児を接種勧奨の対象とするベネフィットをはっきりさせてほしいとコメントしている。さらには経鼻ワクチンのベネフィットが最も大きいとされる学童期の小児への接種は学校で行うのが最善とのJCVIの勧告を実現するにはスクールナースがかなり不足していると懸念を示す。
保健省の声明ではある程度(moderate)の接種率により,インフルエンザ罹患率の40%減少が見込まれ,これに伴い少なくとも年間1万1,000件の入院が減少,2,000件の死亡が回避できると試算されている。一方,BMJはたとえ15~50%程度の接種率を達成するにしても,現状の数倍のスクールナースが必要になるだろうとしている。さらに同氏は,多忙を極めるスクールナースの業務がさらに増加すればモラル低下を起こすとの懸念を示す。一方,小児や高齢者にとって,JCVIの新たな勧告は歓迎すべきとの別の専門家の声も紹介されている。
経鼻インフルエンザワクチンは注射型のワクチンと異なり,ウイルスの感染防御に対し有効である他,交叉防御能を有しているため流行予測と実際流行した株が異なっていた場合も有効性が期待できる特徴がある。米国では2003年に経鼻ワクチン(商品名FluMist,MedImmuneが販売)が5~49歳の健康な小児および成人を対象に承認。2007年からは2~5歳の小児に適応が拡大された。いずれの経鼻ワクチンも2歳未満の小児や妊婦での安全性は確認されていない他,免疫能低下や重度の卵アレルギーを有する人には接種できない。
もう一つ注目点は「スクールナース」という職種。日本で云えば養護教諭のようなものでしょうか。その看護師が学童の集団接種を実施するという、日本にはない役割分担がされています。
リスクのある仕事は何でも医師の責任にして押しつけ、結果が悪ければ犯罪者にされかねない日本の医療と異なります。アメリカでも資格のある看護師が予防接種を担っており「日本の常識は世界の非常識」ですね。
こんなニュースを目にするたびに溜め息が出ます。
ポイントはコスト重視の欧米医療の中で、費用対効果が悪いのに採用・導入されたことです。
■ イギリスでロタワクチン定期接種,費用が医療費削減効果上回るとの試算も
(2012.11.15:MT Proより抜粋)
英保健省(Department of Health)は来年(2013年)9月からロタウイルスワクチンを定期接種プログラムに導入することを発表した。使用されるのは1価のロタウイルスワクチン(商品名:ロタリックス)。英保健サービス(NHS)が示した試算によると,同ワクチン定期接種化に伴う新たなコストはロタウイルス感染症に伴う入院や治療のコスト削減幅を上回るようだ。それでも,導入が決断された理由とは?
◇ 海外の定期接種化の状況,米国の臨床研究の成績なども考慮
保健省のリリースによると,英国では5歳未満の小児の下痢による入院が年間14万件に上り,ロタウイルスによる下痢で入院する小児の割合はそのうち10%程度(1万4,000人)。
今回,予防接種諮問委員会(JCVI)が同ワクチンはロタウイルスの感染予防法として費用効果に優れ,小児に健康上のベネフィットをもたらすと結論付けた。
NHSによると,同ワクチンの定期接種化に当たっては年間約2,500万ポンド(1ポンド=約127円:11月15日付けyahooファイナンスを参照,31億7,500万円)のコストがかかる見込み。しかし,「入院や家庭医,救急外来の受診を抑制することでNHSは年間約2,000万ポンドのコストを抑制できる」他,「数千人の小児を,つらく,ストレスフルな疾患から守れるだろう」との見解を示している。
保健省はJCVIの結論を受けて,ロタリックスの定期接種プログラムへの導入を判断。導入の理由について同省は「既に米国など多くの国で定期接種化されていること」「米国の研究で,ロタウイルスワクチン導入後小児のロタウイルスによる入院が3分の2以上減少していたとの結果が示されたこと」を挙げている。
現在,英国では定期接種としてジフテリア・破傷風・百日咳,ポリオ,インフルエンザ菌b型(hib)の五種混合ワクチン,小児用肺炎球菌ワクチン,髄膜炎菌C型(MenC)ワクチン,麻疹・ムンプス・風疹(MMR)三種混合ワクチン,ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンなどが小児~学童期に実施されている。この他,B型肝炎(HBV),小児結核(BCG),水痘,季節性インフルエンザワクチンは定期接種(2014年から経鼻ワクチンが定期接種化の予定)ではないが,医師の診断などにより必要と判断された小児は無料で接種できる。
欧米では、予防接種より実際に病気にかかる方がコストがかかるからと云う理由で対象が広がってきた経緯・歴史があります。
ところが今回のロタウイルス・ワクチンに関しては、赤字覚悟で実施するという異例の判断されたのです。そこには子どもが苦しむ病気を減らしたいという思いが込められており、ちょっと感動しました。
責任逃ればかりで及び腰の日本の予防接種行政も見習って欲しいものです。
ニュースの最後の方で「イギリスでは2014年からインフルエンザ経鼻ワクチンが定期接種化の予定」とあることに注目(下記ニュースも参照)。
現在日本で採用している注射剤の不活化ワクチンは採用せず、経鼻生ワクチンのみを定期接種化するという意味です。つまり、不活化インフルエンザワクチンの効果を評価していないことになります。
■ 英国,全小児へのインフルエンザワクチン接種を勧奨 高齢者・高リスク者対象からプログラム拡大
(2012.7.31:MT Pro より抜粋)
先週,英国保健省が,同国の2~17歳の全ての小児に季節型インフルエンザワクチンの年1回の接種を勧奨すると発表した。今年(2012年)初め,同国の予防接種諮問委員会(JCVI)が従来の高齢者や妊婦など,インフルエンザ重症化の高リスク群を対象とした予防接種プログラムを小児にも拡大することを政府に勧告していた。今回の勧告で小児に推奨されるのは経鼻投与の弱毒生ワクチン。ただし,同省はプログラム変更が実施されるのは,早くて2年後の2014年としている。
◇ 900万人分のワクチン製造が可能になるのが2年後
保健省長官のAndrew Lansley氏は「全ての小児に無料でインフルエンザワクチンを提供する試みは英国が初めてだろう」と声明で述べている。これまでの同国の予防接種プログラムにおけるインフルエンザワクチンの優先対象者は,喘息や心疾患,脳性麻痺などの基礎疾患を有する小児や65歳以上の高齢者,糖尿病患者や妊婦など。
今回の政府の予防接種プログラム拡大に当たり,JCVIはこれまでの研究成果を踏まえ,「2~17歳の小児へのインフルエンザワクチン接種による集団免疫効果で,小児間のウイルス伝播あるいは,高リスク成人の罹病率や死亡率抑制が示唆されている。接種の費用効果は小児よりも成人で大きい」などと提言。
また,小児への接種プログラム拡大にはインフルエンザワクチンの種類が大いに関係しており,数年以内に同年齢層の小児への経鼻型弱毒生ワクチンが利用可能になることが期待されるとしている。
同国で接種勧奨年齢の小児に使用される予定の経鼻ワクチンは,英アストラゼネカが販売するFluenz。欧州医薬品庁(EMA)が2011年に24カ月~18歳以下の小児に対する適応を承認している。英保健省は英国内で全対象小児900万人分をカバーできるワクチンを供給できるようになるのは,最も早くて2014年との見込みを示す。
◇ 6週間程度で接種をどう行うか「スクールナースが全然足りない」の声も
さらに接種プログラム拡大に当たって解決すべき問題がいくつかあると保健省。JCVIは学童期に達しない小児への接種は家庭医が,学童期の小児への接種をスクールナースが担うのが最善と勧告。しかし,900万人もの接種対象者をカバーするには誰が最も適切か,また接種に必要なトレーニングを誰が行うかはこれから解決すべき問題だと同省は述べている。さらに接種勧奨時期である流行期の6~8週間前にどうプログラムを実行するのか,また保護者が安心できる情報を誰が提供するのが最善なのかといった課題も残っているという。
英医学誌のBMJは7月26日公式ニュースで,地域小児医療のコンサルタントDavid Elliman氏のコメントを紹介している。同氏はJCVIの勧告の根拠に未発表文献が含まれていることを指摘。同ワクチンの安全性に問題はないものの,全小児を接種勧奨の対象とするベネフィットをはっきりさせてほしいとコメントしている。さらには経鼻ワクチンのベネフィットが最も大きいとされる学童期の小児への接種は学校で行うのが最善とのJCVIの勧告を実現するにはスクールナースがかなり不足していると懸念を示す。
保健省の声明ではある程度(moderate)の接種率により,インフルエンザ罹患率の40%減少が見込まれ,これに伴い少なくとも年間1万1,000件の入院が減少,2,000件の死亡が回避できると試算されている。一方,BMJはたとえ15~50%程度の接種率を達成するにしても,現状の数倍のスクールナースが必要になるだろうとしている。さらに同氏は,多忙を極めるスクールナースの業務がさらに増加すればモラル低下を起こすとの懸念を示す。一方,小児や高齢者にとって,JCVIの新たな勧告は歓迎すべきとの別の専門家の声も紹介されている。
経鼻インフルエンザワクチンは注射型のワクチンと異なり,ウイルスの感染防御に対し有効である他,交叉防御能を有しているため流行予測と実際流行した株が異なっていた場合も有効性が期待できる特徴がある。米国では2003年に経鼻ワクチン(商品名FluMist,MedImmuneが販売)が5~49歳の健康な小児および成人を対象に承認。2007年からは2~5歳の小児に適応が拡大された。いずれの経鼻ワクチンも2歳未満の小児や妊婦での安全性は確認されていない他,免疫能低下や重度の卵アレルギーを有する人には接種できない。
もう一つ注目点は「スクールナース」という職種。日本で云えば養護教諭のようなものでしょうか。その看護師が学童の集団接種を実施するという、日本にはない役割分担がされています。
リスクのある仕事は何でも医師の責任にして押しつけ、結果が悪ければ犯罪者にされかねない日本の医療と異なります。アメリカでも資格のある看護師が予防接種を担っており「日本の常識は世界の非常識」ですね。
こんなニュースを目にするたびに溜め息が出ます。