徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

ゾフルーザ®使用を控える必要はない?

2019年11月04日 06時47分59秒 | 小児科診療
 インフルエンザ情報の拾い読み(2019.11.4)。

 池松 秀之氏(日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 リサーチディレクター)の講演より。ポイントは以下の通り;

・その年に流行するインフルエンザの型の正確な予測は困難であるが、今シーズンは「B型が流行、A型はH1N1が多く発生するのではないか」
・バロキサビル(ゾフルーザ®)のウイルス耐性化が問題視されているが、池松氏の属するインフルエンザ研究班のデータでは、治験データと臨床実績に差がなく、かつ抗インフルエンザ薬5種類で効果に差がなかったため、「使ってはいけない」と制限する必要はないのではないか。
・これまでにも他の抗インフルエンザ薬の耐性化が問題視されたことがあったが、耐性ウイルスが流行して社会問題にまで発展することはなかった。バロキサビルも注意深い観察が必要であるが、「ウイルス量を早く減らすことで重症化を防げるならば、バロキサビルの価値が見いだせるのではないか」


 う〜ん、この講演会は「塩野義製薬株式会社主催」なので、ゾフルーザ®を擁護する傾向がありますね。
 反論コメントも聞いて判断したいところです。

 さて当院では、ゾフルーザ®の位置づけを「△」としました。

・タミフル®は全年齢で推奨、
・リレンザ®、イナビル®は小学生以上で推奨、
・ゾフルーザは錠剤が飲める5歳以上で使用可能、ただしA:H1N1pdmでは5人に1人の割合で効きが悪く発熱期間が延びる可能性があることを知った上で希望するなら処方、


 というスタンスです。


今季インフルエンザ治療のポイントとは?
ケアネット:2019/10/31)より抜粋

◇ 今年の流行時期とインフルエンザ型は?
 人間に影響を及ぼすインフルエンザウイルスにはA型(亜型としてH1N1[ソ連型]、H1N1pdm、H3N2[香港型]など)とB型がある。そのうちどちらが流行するかで流行時期は毎年異なるのだが、基本的には1月下旬~2月上旬にA型が、それに遅れてB型がピークを迎える。2008~09年は新型インフルエンザのH275Y変異株H1N1(ソ連型)が大流行したものの翌年には消失し、以降はH1N1とH3N2が交互に、同様にA型とB型も交互に流行した。この状況を踏まえ、流行の予測は困難であるが、これまでの流行を参照にすると「今年は2010~11年、もしくは2012~13年のようにB型が流行、A型はH1N1が多く発生するのではないか」と述べ、「今年は例年より流行が早く、ピークが年明けになるかどうかはわからない。気温や気候による研究もたくさん実施されているが、それらは明確な予測指標に至っていない」と語った。

◇ ウイルス残存率や耐性株からみる今年の注意点とは
 昨年はバロキサビルの発売年だったこともあり、多くの医師がバロキサビルを処方したことで耐性株出現などの研究報告が世間を賑わせた。このことから、今年はバロキサビル耐性株に対する治療薬選択への懸念が広がっているが、同氏の所属するインフルエンザ研究班が2018~19年に実施した臨床現場における成人での発熱や症状の改善やウイルスの残存率に関する調査によると、バロキサビルでは治験時と同様の成績(バロキサビルとオセルタミビルでは前者のほうが早くウイルスが消失した)が得られたという。これより同氏は、「治験成績が臨床現場と相違なかったことから、われわれはバロキサビルの治験時データは信頼できると考えている」と述べた。加えて、5種類のインフルエンザ治療薬での平均解熱時間に差がなかったことから、「成人の場合、どの薬剤を選択するかは各医師の患者に適切と思われる薬剤の選択で良い」と、研究班の見解を示した。また、日本感染症学会の提言で話題となった12歳未満への投与については「バロキサビルを絶対使ってはいけないと制限するものではないと受け取っている」とコメントした。
 第III相無作為化プラセボ対照予防投与試験であるBLOCKSTONE試験の結果によると、プラセボ群(バロキサビル以外の治療群、n=375)で2例の同居家族がアミノ酸変異(I38変異)を認めた。しかし、この同居家族はその後インフルエンザを発症し、バロキサビルを服用したためI38変異が検出されたという。

◇ 学会が提言した“慎重投与”が意味することとは?
 過去に研究班の症例でもオセルタミビル治療後の成人にて感受性低下ウイルスが分離された例があったが、この時、重症化や周囲への蔓延はなかったという。これを踏まえ、「今後、バロキサビル耐性ウイルスが“治療前”にどれだけ広がるか、バロキサビルの治療にどれくらい影響があるのかは、注意深く見ていく必要がある」と述べ、「成人での感染実験や症状の程度とウイルス量の関係性をみた試験の結果1)、2)を参考に、ウイルス量を早く減らすことで重症化を防げるならば、(ウイルス量を早く消失させることができる)バロキサビルの価値が見いだせるのではないか」とも語った。
 耐性に関しては、「小児ばかりがクローズアップされているが、高齢者でも変異ウイルスが一定の頻度で出ているので、高齢者に対しても今後注意を払っていく必要がある」と述べ、「これまではバロキサビル服用後の患者の変異株検出が取り上げられていたが、これは驚くことではない。今年、国立感染症研究所によって未投与患者における耐性株の検出が報告された。耐性株がどの程度伝播していくのかなど、臨床的影響に対して不明点が多いので非常にインパクトがある」とコメントした。さらに「インフルエンザウイルスが免疫機構を免れる新たな手段を手に入れる気配を見せるならば十分注意が必要」と注意点を示した。
 最後に同氏は「作用機序やこれまでの試験から推察するに、鳥インフルエンザなどを含め受診が遅れた重症患者のウイルス量低下においてバロキサビルは貢献できるかもしれない」と、締めくくった。
(ケアネット 土井 舞子)

<原著論文>
1)Carrat F, et al. Am J Epidemiol. 2008;167:775-785.
2)Ip DK, et al. CID. 2017;64:736.
<参考>
・日本臨床内科医会:インフルエンザ診療マニュアル2019-2020年シーズン版(第14版)



 次はアメリカのCDC発信の記事。
 ワクチン推奨対象は「生後6ヶ月以上のすべての人」で、流行が始まる前の「10月がワクチン接種に最も適した時期」としています。
 あ、もう11月にですね。
 当院の予約枠も埋まり、受付を締め切りました。


インフルエンザのワクチン接種は早めに
HealthDay News:2019/10/25:ケアネット
 米疾病対策センター(CDC)は、南半球での状況を鑑みると今シーズンは北半球でもインフルエンザの流行が早まると考えられ、直ちに予防接種を受けるべきであるとする警告を、CDC発行の「Morbidity and Mortality Weekly Report」10月11日号において発信した。
 インフルエンザに関するこの最新情報を執筆したCDCのScott Epperson氏は、この半年の間に南半球でインフルエンザが大流行した主な原因は、流行の開始が早かったことと、症例の報告率が向上したことによるものであると説明し、「米国でインフルエンザが広がり出す前のこの時期こそ、ワクチンを接種し、これからの流行に備えるのにふさわしい時であることを改めて伝えたい」と述べている。
 2019~2020シーズンのワクチンは、現在出現しているインフルエンザ株に合わせて昨年のものから変更されており、A型H1N1およびH3N2を予防できるものになることが見込まれる。また、これまでに認められている2種類のB型株との適合性も高いとみられている。
 CDCは、インフルエンザの流行時期は予測不可能として、流行に備え、生後6カ月以上の全ての人がワクチンを接種することを推奨しており、流行が始まる直前の10月が、ワクチン接種に最も適した時期としている。
 Epperson氏の説明によると、インフルエンザウイルスは1年中存在しており、夏の間はあらゆる型が循環しているため、流行期にどの株が優勢となるかを正確に予測することはできないという。しかし、どの株がワクチン含まれているかにかかわらず、「今シーズンのインフルエンザワクチンの接種は身を守るための要となるだろう」と同氏は述べている。特に5歳未満の幼児、65歳以上の高齢者、妊娠中の女性のほか、糖尿病、心疾患、喘息等の慢性疾患がある人など、インフルエンザの合併症リスクが高い人にはワクチン接種が重要である。
 また、生後6カ月未満の乳児にワクチンを接種することはできないため、両親をはじめとする周囲の人がワクチンを接種して乳児への感染を防ぐ必要がある。「インフルエンザワクチンの接種により得られるベネフィットの1つは、自分自身だけでなく、周りの人を守ることにもつながることだ」とEpperson氏は話す。
 Epperson氏によると、米国では毎年数十万人がインフルエンザで入院し、数千人が合併症で死亡している。死亡率が高いのは高齢者と乳幼児だが、若者や中高年者が死亡することもある。ワクチンを接種していれば、入院の確率を大幅に低減することができるし、万一インフルエンザにかかったとしても、症状が軽く済む。また、インフルエンザにかかった際は、医師の診察を受けて抗ウイルス薬を処方してもらえば、回復までの時間が短くなる。
 さらに、Epperson氏は「例えば、インフルエンザの可能性がある人とは接触しないようにする、こまめに手を洗う、インフルエンザにかかっているとき、あるいは咳やくしゃみが出ているときは鼻と口を覆う。そのような簡単な対策でも、インフルエンザへの感染、あるいは感染拡大を防ぐのに役立つ」として、誰にでもできる感染対策を呼び掛けている。

<原著論文>
Epperson S, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019 Oct 11.
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