徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

さすらいのアラフォー・ジャンパー「葛西紀明」

2013年03月30日 08時00分00秒 | 日記
 葛西紀明はスキー・ジャンプ競技の名選手。
 私は昔からのファンですが、40歳になった今シーズンも現役を続けている「鉄人」です。
 瞬発力が必要なジャンプ競技で40歳という年齢が通用するなんて奇跡ですね。
 今季は表彰台に上る機会こそありませんでしたが、ワールドカップ終盤ではいぶし銀の活躍をしたというニュースが入ってきました;

葛西が2戦連続4位 W杯ジャンプ男子最終戦
2013/3/24 日本経済新聞
 【プラニツァ(スロベニア)=共同】ノルディックスキーのワールドカップ(W杯)ジャンプ男子は24日、スロベニアのプラニツァでフライングヒル(HS215メートル、K点185メートル)による個人最終戦を行い、40歳の葛西紀明(土屋ホーム)が207メートル、217.5メートルの417.8点で22日の第26戦に続き、2戦連続の4位だった。
 伊東大貴(雪印メグミルク)が188メートル、199メートルの17位、竹内択(北野建設)は182.5メートル、171.5メートルで28位だった。


葛西2試合連続の惜しい4位で終了、力強さにあふれた日本チーム
(J-Sports:岩瀬孝文氏のブログより一部抜粋)

安堵の顔から、であった。
「おっかねー」
フライングジャンプは、つねに恐怖心との戦いでもある。
それは滞空時間で5秒近く、しかも飛行曲線が抜群に高くなる。
そこを我慢して、さらにしのいで220mオーバーで勝負が決まる。
変な風が吹き付けることもあり、そこは手の動きや、体軸を整えた機敏なスキー操作でなんとかバランスを保つ。

つねに気丈な葛西紀明(土屋ホーム)なのだが、ほっとした表情を垣間見せて、テレビカメラを前に、大声でそう吐いた。

というのもトライアルで転倒し、ほぼ右ひざの感覚がなくなった状況で、痛み止めを打ちながらのジャンプ。アプローチとサッツの微妙な感覚も何もかもあったものではない。しかも愛用のスキーは折れて予備スキーでの本番だ。だが葛西、少しも慌てず騒がずの心境であった。
それは、これまでの長年の感覚をベースに、さらに持ち前の強いメンタルによる、誰にも真似できない素晴らしきジャンプ技術があるから。

彼はスタート台での微笑を消し、風の安定を祈りつつ、独り言のようなつぶやきを入れて、ビシッとスタート切った。そして、やや腰高な姿勢から速やかにサッツを出た。浮いた、ひたすらに浮いて伸びていく。

金曜日の個人戦でも最後まで表彰台をかけてアタックしていた。団体戦を挟んでの日曜日、シーズンファイナル。これもラストまで表彰台に昇る可能性を秘めた好勝負。

やるじゃないか40歳のカサイ。会場はわれんばかりの拍手と大声援に包まれた。
ともすれば危険を回避して200m手前に降りる選手も現実的には存在する。そんなのジャンプじゃないだろう、と言わんばかりにシャープな空中姿勢を見せる我らが葛西だった。

世界選手権後の後半戦における日本選手の成績は、伊東大貴(雪印メグミルク)がクオピオW杯(フィンランド)2位とトロンハイムW杯(ノルウェー)の3位で表彰台、竹内択(北野建設)はクリンゲンタールW杯(ドイツ)での実力のあふれる2位があった。さらには最終プラニツァW杯(ストロべニア)のフライングシリーズで、勇者葛西が個人戦において2試合連続の4位を記録した。

シーズンの終盤にかけて、ようやく昇りへの道筋が見えてきた日本勢だ。これは完全なまでに来季に良き方向性を持つ終わり方といえよう。2014ソチ五輪に向けて、あとはこの夏場のトレーニングが重要になってくる。4月のオフ期間を挟み、各選手ともに研ぎ澄まされた集中力で望んでいきたい。


 このフライングヒルはジャンプの中でも最高に危険な競技として有名です。
 古くは日本の秋元正博選手が着地に失敗して足関節が180°回った事故がありました。
 しかし葛西選手、ふつう転倒したら次は飛ばないだろうに・・・やはり「鉄人」としか言いようがありません。

2013.3.24 日刊スポーツ
(葛西紀明の話) 悔しい。転ばなかったら優勝できたかも。最高の終わり方。ソチにつながる成績で自信がついた。悔しさをばねに来季も頑張る。

 引退の「い」の字も出てきませんね。
 来シーズンも彼の勇姿を見ることができそうで、楽しみです。
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「2013年版予防接種スケジュール」の日米比較

2013年03月26日 13時17分45秒 | 小児科診療
米国における予防接種スケジュール
 ・・・アステラス製薬のHPから件名の情報がダウンロードできます。
 
日本における予防接種スケジュール
 ・・・国立感染症研究所のHPからダウンロード可能です。

 さて、「定期接種」という視点から、両方を比較して間違い(いや「違い」)探しをしてみますと・・・

アメリカにあって日本にないもの
B型肝炎、A型肝炎、ロタウイルス、水痘、おたふくかぜ、成人用DPT(Tdap)、インフルエンザ、髄膜炎菌、HPV(男性)、肺炎球菌(高齢者に対する23価多糖体型)


 ・・・まだまだたくさんありますねえ。
 「えっ?このワクチンは日本にもあるじゃないか」と言うなかれ。日本に導入されてもまだ定期接種(公費負担)になれない任意接種(自己負担)の身分に甘んじているワクチンが多いのです。

日本にあってアメリカにないもの
BCG、日本脳炎


 というわけで、任意接種を全部自己負担で接種すると、軽く10万円は超えることになります。
 やはりまだまだ日本は「ワクチン後進国」と呼ばれても仕方ありませんね。


ワクチンそのものに関する情報
インフルエンザワクチン
 現在日本で使用されているインフルエンザワクチンは3つの抗原(A型2つとB型1つ)が入っている3価タイプですが、アメリカでは新たに4価ワクチン(A型2つとB型2つ)が認可されたそうです。

肺炎球菌ワクチン
 日本では小児用は7価ですが、アメリカでは13価がスタンダードです。

A型肝炎ワクチンエイムゲン®
 日本では今まで16歳以上にしか接種できませんでしたが、2013年に添付文書が改訂されて年齢制限の記載がなくなりました(ただし、WHOは1歳以上を推奨)。
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子どもが生まれると○○も生まれる

2013年03月24日 07時14分20秒 | 日記
 最近、長谷川義史さんの絵本が気に入っています。
 独特の「ヘタウマ絵」+大人も子どもも楽しめるストーリーが魅力。
 「おかあさんの手」(まえはら三桃:作、長谷川義史:絵)という絵本を読んでいて、この不思議なフレーズに出会いました。

 さて、○○に当てはまる答えは「おかあさん」です。
 「はじめて赤ちゃんを抱っこしたときにおかあさんが生まれるのよ」と続きます。

 なるほど。

 と、そんなところに以下のニュースを見つけました;

母と同居で父も子育て 理化学研 マウス実験で解明
2013年3月21日:中日新聞
 父マウスが子育てするのは、相方の母マウスと一緒に過ごすことにより、本来なら子を攻撃する信号を伝える神経回路が働かなくなったためだとする研究成果を理化学研究所のチームがまとめ20日、米科学誌に発表した。
 直ちに人には当てはまらないが、刀川夏詩子(たちかわかしこ)研究員は「哺乳類が父親として行動するようになる神経のメカニズム解明につながる成果だ」としている。
 母マウスの妊娠中から同居した父マウスは、自分の子以外の子マウスでも体をなめるなどの子育てをする。一方、交尾の経験がない独身の雄は、子マウスを見ると直ちに攻撃。子を排除して雌を自分のものにしようとする行動とみられる。
 チームは、独身の雄と父マウスをそれぞれ子と一緒にして神経回路を調べた。独身の雄は、鼻の奥の下側にあり、子が出すフェロモンを受け取る神経細胞が稼働。そこから脳の攻撃行動に関与する部位に回路がつながり活性化していた。
 父では、この神経細胞が働かず、フェロモンの情報が伝わらなかった。独身の雄もこの神経細胞を切除すると、子を攻撃しなくなるばかりか、自分の子でなくても子育てするようになった。
 チームは、父マウスは交尾や妊娠中の同居などを経験することで、ホルモン量が変化して神経回路に影響が表れ、自らの子を殺さないよう攻撃行動が抑えられるとみている。


 というわけで、母性も父性もあかちゃんを抱くことによりスイッチが入るのですね。
 もともと持っていた遺伝子でも、その発現は環境に左右されるという現象は「エピジェネティクス」の分野の考え方ですね。

<参考>「福岡伸一教授が語るエピジェネティクス入門


 当院では待合室用に毎月3冊絵本が自動的に宅配されるサービスにも加入していますが、こちらの絵本は赤ちゃん心を忘れた大人の私(?)にはピンときません。

 長谷川義史さん関連で、小学校低学年のお子さんには以下の2冊もお勧めです;

■ 「おでん おんせんにいく」(中川 ひろたか:著、長谷川 義史:イラスト)
■ 「れいぞうこのなつやすみ」(村上 しいこ :著、 長谷川 義史 :イラスト)

 とくにおでんの話は大人にも面白すぎます。
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インフルエンザは熱帯地方では雨期に流行する

2013年03月22日 08時04分35秒 | 小児科診療
 日本ではインフルエンザは冬に流行すると相場が決まっています。
 まあ、新型インフルエンザは例外ですが。
 その理由は「低温・乾燥状態ではウイルスが活性化される」ともっともらしく説明されてきました。

 しかし、インフルエンザ迅速診断が普及してから、沖縄では夏でも流行することがわかってきました。
 そこで生まれる素朴な疑問。
 「熱帯地方ではインフルエンザはいつ流行するんだろう?」
 以前調べたときには「不定期に小流行」し、北半球・南半球の四季のある地域と異なることがわかりました。

 でも「低温・乾燥状態で流行する」ことへの納得できる説明は見つけられませんでした。
 今朝こんなニュースを見つけました;

日本は冬、東南アジアは雨期 インフルエンザの流行の法則
2013年03月21日:QLifePro
日本では、冬になるとインフルエンザにかかる人が増えることから、多くの人が気候とインフルエンザの流行には関係があると経験的に考えていますね。
今回発表されたのは、この経験を裏付けるもの。アリゾナ大学の調査チームによれば、湿度が高くて雨が多いとき、そして乾燥していて寒いとき、の2つのタイプの気候がインフルエンザウィルスに好まれることを突き止めました。
PLoS PATHOLOGYに掲載されたこの調査では、1975年から2008年の間のウィルスの活動性を分析したもの。対象となった地域は世界中の78箇所に及んでいます。
この78箇所には、WHO(世界保健機関)の調査プロジェクトであるFluNetに加盟している9ヶ国も含まれています。
寒い冬のある日本やヨーロッパでは、冬の乾燥した時期、東南アジアなど常夏の国では、雨期にインフルエンザの流行が共通してみられることが確認されたのです。
研究チームは、こうした気候のときは、予防を特に念入りに行うようにと呼びかけています。これまで通り、冬が近づいたときの備えを行うだけでなく、熱帯地方への旅行の際など、様々な場面で役に立ちそうな知識ですね。


 ふ~ん、インフルエンザは二重人格なんだ。
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電信柱にカラスの巣

2013年03月19日 08時06分39秒 | 日記
 先日、当院駐車場の道路に面する北側にある電信柱の上にカラスが巣を作っていることが発見され驚きました。
 近隣に住む方が見つけたそうです。



 親ガラスが見張っていますね。
 配電盤らしき四角い箱の左側に木の枝の塊のような巣があります。
 でも、なぜ電信柱の上なんだろう?
 雨風がしのげなくて子育てが大変だと思うのは人間の感覚でしょうか。

 「カラス~なぜ鳴くの~」という童謡(七つの子)があります。

 からす なぜなくの
 からすはやまに かわいいななつの こがあるからよ
 かわいい かわいいと からすはなくの
 かわいい かわいいと なくんだよ
 やまのふるすへ いってみてごらん
 まるいめをした いいこだよ


 幼い頃からこの曲を聴いてきた私は、カラスの巣は当然里山にあると思い込んできました。

 振り返れば、昨年から駐車場の車のドアミラーや建物にカラスがとまり、糞被害で悩まされてきたのでした。その模様を描いたブログ;
□ 「カラス対策」(2012.5.31)
 あれは巣作りの布石だったのかもしれません。

 しかし、スタッフは異なる意見です。
 車にとまったカラスは近づいてもギリギリまで逃げなかったけど、最近ウロウロしているカラスはもっと敏感に反応して逃げるので、以前のカラスと違うのではないか、と。
 いや、子育て中につき、過敏になっているだけなのかな。

 よくテレビで「カラスに襲われた」と報道されますが、あれも子育て中の巣に人間が知らずに近づいたための防衛反応だそうですね。

 ネット上で検索したら、以下の練馬区公式HPにわかりやすく説明されていました;
□ 「カラスの生態・習性
 
 フ~ン、針金ハンガーも巣作りに使われるんだ・・・。
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インド版「巨人の星」から「スポーツと体罰」を考える

2013年03月10日 16時19分44秒 | 日記
 昨今話題の「スポーツと体罰」。
 いろんな意見があり、何をもって判断して良いのかわからなくなってきます。

 ただ外国人から見ると、日本では当たり前とか感動秘話のレベルで捉えられているエピソードが「体罰」「虐待」に映る事実を受け止める必要があると思います。
 昭和40年代に一世を風靡した「スポ根マンガ」の原点とも言える「巨人の星」。
 最近インドでかの国用にアレンジしたアニメ「スーラジ ザ・ライジングスター」が人気とか(野球がクリケットに代わっています)。
 その関連記事の中で、以下の文言を見つけました;

■ 「巨人の星、インドで人気の理由」(東洋経済オンライン:2013.2.26)
・・・父親が息子を殴るシーンは虐待に当たるという理由で、盛り込んでいません。ばねを体に巻く大リーグボール養成ギプスも、インドでは虐待として受け止められる。困ったなと思いましたが、自転車のチューブなら大丈夫ということになりました。・・・

 巨人の星の「大リーグボール養成ギプス」を「虐待」として扱う論調は日本ではついぞ聞いたことがありません。
 あれを自然に受け入れている日本人の感覚は世界標準とはずれている様子。

 それから微妙なのが「体罰」と「愛のムチ」の線引き。
 同じ行為をしても、
・指導者との間に信頼関係があれば「愛のムチ」
・指導者との間に信頼関係がなければ「体罰」

 と認識されますので、物理的行為の種類だけでは判断が困難です。
 もっとも、信頼関係があれば「言えばわかる」と思うのですが、いかがでしょう。

 例えて云えば・・・
・尊敬する上司から叱られると「自分のためを思って厳しい言葉で叱ってくれるんだ」
・嫌いな上司から指導されると「ウザイやつ」

 と感じてしまうのと同質だと思います。

 体罰問題の本質は、思い通りにならない相手を「力でねじ伏せて言うことを聞かせる」という人権無視・人権侵害している点にあります。

 そのように指導された子どもたちは、逆の立場、すなわち成長して指導者になると同じ事をしてしまう傾向があります。
 これは「児童虐待の連鎖」と同じ悪循環であり、戦争の病理の根っこでもあると考えます。

 コミュニケーションで問題を解決する人間を育てるためには、そのように育てなければいけません。
 「叩いた方が早い」と思っても、辛抱強く、辛抱強くわかるまで言葉で言い聞かせる・・・。
 尊敬する佐々木正美先生の「育てたように子は育つ」という書籍を思い出しました。

 しかし世界を見渡すとどうでしょう。
 紛争地では話し合いで解決せずに力に訴えて争い、死者がたくさん出ている現状をみると暗澹たる気持ちになります。
 「力でねじ伏せる」ことは人間の本能の一部であり教育によりそれを乗り越えるのは至難の業ではないか、という気がしてきます。
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発熱児に水風呂?

2013年03月09日 06時14分39秒 | 小児科診療
 現在の日本での子どもの発熱時の対処法は、
・悪寒が走る時(ブルブル震えて寒がっている時)は温める
・熱が上がりきって体がほてる時には冷やす、つらそうな時はこのタイミングで解熱剤を使用

 というのが標準的だと思います。
 まあ、「解熱剤は絶対使ってはいけない」という少数派もいらっしゃいますが。

 その昔「発熱時に水風呂に入れる」という習慣が南米であることを彼の地に住んだ経験のある看護師さんから聞いたことがあり、その時は「ところ変われば発熱の対処法も変わるもんなんだ」くらいに感じたことを記憶しています。

 でもこの方法、結構数多くの国での習慣らしい。
 以下は先日読んだ読売新聞の記事(ブログです)から;
 
子どもが高熱 「水風呂に入れろ」(2013.3.6:読売新聞のネットブログより)
 「昨日ね、子供が熱を出して近くの小児科に行ったら、『水風呂に入れろ』と言うのよ、ねえ本当なの? 熱のある時に水風呂なんて考えられないわ」
 友人が心配そうに電話をかけてきた。確かにフランスの小児科では、急な高熱で、熱が下がらない時の対処療法として、部屋の温度を下げる、服を脱がせる、そして水風呂に入れる、といわれる。
 ただし、この場合の水風呂は文字通りに受け取ってはいけない。もし子供や乳児が39℃の熱を出して下がらない場合、お風呂の温度を子供の熱よりも2℃くらい低い温度にしてゆっくりと入れる。まったくの水風呂ではないし、勢いよく入れろというわけではない。時間は約10分程度。高くなりすぎた熱を、冷たい風呂で少し下げてあげるのだ。
 発熱は免疫力を上げ、ウイルスや細菌が増殖しにくい体温にするための防御機能のひとつと考えられているため、解熱剤はあまり使われない。また脱水症状を防ぐため、こまめな水分補給をこころがける。水風呂(本当はぬるま湯)は、もちろんすべての症状に適しているわけではない。まずは小児科にかかり、医師の判断を仰ぐことが欠かせない。
 そういえば、たくさんの人が亡くなった2003年のカニキュール(猛暑)の時も、新聞やテレビなどで、こまめな水分補給とともに水風呂が盛んに勧められていた。冷房が完備されていないフランスの住宅では、独り暮らしの老人などが脱水症状でずいぶんと亡くなった。この時は霊安室が一杯となったため、遺体収容のために冷凍トラックまで使われてニュースになった。
 イギリスに住む友人に聞いてみたところ、やはりフランス同様、子どもが高熱を出した場合は、ぬるま湯に入れるらしい。


 というわけでヨーロッパでも同様の習慣がある様子。

 ただし、小児科医である私の立場から一つ云わせていただくと、上記ブログでは風邪の発熱と熱中症の発熱を同列に扱っていますが、これは間違いです。
 風邪の発熱は体の防御反応(免疫反応)として自ら作り出す熱、一方熱中症は熱の放散ができなくて体に熱がたまる状態。
 ですから対処法も異なります。
 基本的に風邪の発熱は「つらかったら免疫反応を低下させない程度に少し下げる」ことがよく、一方の熱中症は「強制的に下げて脳を守る」必要があるのです。

 さて、世界各国で行われているらしい「発熱時の水風呂」。
 以下にネットで検索し得た範囲で列挙してみます:

<アメリカ大陸>
アメリカ
・アメリカに住む友人にも聞いたことがあります。友人の話では、かなりの高熱が続くようなら、室温程度の水風呂に入れるようにと病院で言われたそうです。ただし「子供が震え始めたら素早く水風呂から出して。」との事。
・以前アメリカに留学中に何度か目にしたのですが、あちらの人は風邪で高熱を出したりするとバスに氷水をはってその中にしばらく身を沈めるんです。ブルブル震えながら・・・
・5歳になる息子が1歳半くらいのときだったでしょうか、すごい高熱(確か40度くらい)を出し、アメリカ人のだんなが「よし水風呂に入れよう」と言ったときには「この人は一体ナニを考えてるの?」と心の底から思いましたが、あとでいろいろ調べたらそれは正しい対処法と分かりました。特にアスピリン系(だったと思う)の解熱剤を子供に与えると脳炎などにつながる恐れもあるので絶対に与えるなと記憶してます。
・大草原の小さな家で、ネリーが熱を出したときに、氷水のお風呂に浸かってて、すっごくびっくりしたのを思い出しました。
・氷をいれるお風呂は聞いた事がありません。アメリカの家の御風呂場は,一般に暖房が行き届いている為他の部屋とそれほど温度差がありません。熱があり,腰湯にはいり,出てくるという作業は日本の御風呂場の状況で想像するよりも,はるかに簡単でスムーズにできます。本格的高熱の場合ですが。ぬるいお湯の腰湯につかり,肩からスポンジ等でぬるま湯をゆっくりかけること5分くらいでしょうか。熱も下がりますが,なにはともあれ気分がさっぱりします。子供達の高熱の対処は小児科医の電話の指導でこれでした。

<ヨーロッパ>
ドイツ】「39度以上のときは、 裸にしてパンツ一丁(おむつ一丁)で、部屋ですごすように。また、ぬるい(冷たい30度位)お風呂にいれるのも効果的。」
イギリス】子供が熱を出したとき医者に行くと「水風呂に入れなさい」と言われるという話をイギリスで聞いたことがあります。
複数の方から聞いた話ですから、本当だと思います。日本ほど湿度が高くないので(すぐ乾く)水にぬれることをあまり嫌がらないことも、感覚の違いの理由かもしれません。
フランス】フランス出身の主人は子供が熱を出すとぬるめのシャワーを浴びさせると熱が下がりやすくなり、回復も早いといいます。
ギリシャ】友人(ご主人はギリシャ人)夫婦がギリシャに住んでいた時、娘さん(当時5歳位)が高熱を出し何をしても下がらない為、医者が氷風呂に娘さんを入れたそうです。

<ユーラシア>
ロシア】ロシア人の友人はやはり冷たいお風呂で冷やすといってましたが、水道数では充分冷たくないとぶつぶつ言っていました。
トルコ】「39.7度に上がった時に、K(熱冷ましの薬)を飲ませましたが、吐いてしま・・・」終わりまで聞かずに、この医師は、「あなたのやったことは間違いではない。しかし、Kはそんな場合あまり役に立たない。一番良いのは、ぬるい水風呂に入れること」「まず、帰ったら薬を飲ませ、ぬるい水を張ったお風呂に身体を漬けること」

<オセアニア>
オーストラリア】オーストラリアに住んでいますが、こちらでも同じです。例えば子供が熱を出すと、日本では温めて寝かせますよね、こちらでは、水風呂にいれたり、スポンジで体をふいたりして、その後は完全に乾かさずに、蒸発させます。つまり、熱を蒸発する水と一緒に吹き飛ばすと言う意味です。それから、どんどん冷やして、肺炎になったとしても肺炎なら治療できるが、熱が上がって、脳に異常をきたしたら、治療はできないと言う考えもあります。

<アフリカ>
コスタリカ】コスタリカ人の友人は熱いお風呂に入って汗を出して寝るといっていました。

<アジア>
日本】意外なことに、日本でも「発熱に水風呂」という習慣があることを発見しました;
風邪で熱がある時に水風呂を入れと 昔から父親に言われてたのを思い出しましたが ...

 ・・・調べてみて「発熱に水風呂」にも2つの理由があることに気づきました;
1.薬のない時代からの習慣
2.解熱剤が怖いから(アスピリン系解熱剤によるインフルエンザ性脳症のリスク上昇)
 1は世界各国で行われており、2は欧米系の考え方ですね。
 
 まあ、最初に記した「解熱剤を使うタイミング」でふだんの体温程度のぬるま湯につかるのは問題ないと思います。
 でも「悪寒が走るタイミング」で水風呂に入れると・・・もっとブルブル寒がることになりそう。

 視点を変えて、漢方医学の考え方を紹介します。
 発熱の初期、悪寒が走る時は「熱を上げて発散させて治りをよくする」薬を使います。
 発熱という免疫反応を促進してゴールを近づける方法ですね。
 「冷やす」とは真逆の「温める」考え方もあるということ・・・東洋医学のみの特徴と思い込んでいましたが、上記コスタリカにも同じ考え方があると知りました。

 発熱時に体を温める・冷やすのは、やはり発熱相(phase)を見極め適切なタイミングで行うことが必要であることは共通認識と思われます。
 ネットからの情報では、以上の知識がゴッチャになり一般の方は消化不良を起こしそうですね。
 当院HP「風邪のお話」の「子どもの発熱と対処法」もご参照ください。
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タバコによるPM2.5汚染

2013年03月07日 06時29分01秒 | 小児科診療
 まず、このニュース動画をご覧ください;

■ 「気になるPM2.5・・・喫煙スペースの汚染は北京以上?」(産業医科大学の大和浩教授のお話)
※ その後動画が削除されましたので、大和教授のコメントだけ抜粋します;
「例えば、タバコを吸われている喫茶店は、700マイクログラム・パー・立方メートルぐらいあります。北京の一番ひどい日と同じぐらい高いです。だから、私は、怖がる所が違うんじゃないかと思います。屋外の『70』を怖がるんだったらば、タバコを吸っている喫茶店の『700』の方を怖がってほしいと思います」


 驚きました。
 PM2.5は身近なタバコからも排出され、居酒屋や喫茶店喫煙スペースのPM2.5汚染度は北京並みとのこと。
 ハァ~(ため息)、喫煙者は自らPM2.5汚染をつくって吸い込んできたのですねえ。
 喫煙室で自分の体を痛めつけるのは自己責任ですが、親が吸うタバコのせいで受動喫煙する子どもたちは被害者と云うことができます。

 中国からの越境汚染を非難する前に、禁煙対策が先でしょう。

 タバコとPM2.5の緊密な関係は、禁煙指導に携わってきた医師達には以前から常識で、今回の騒ぎは「何を今更騒いでいるんだ」という感覚らしい。興味のある方は、以下の資料をご覧ください(非常に長文です);

■ 受動喫煙ファクトシート 2「敷地内完全禁煙が必要な理由
 NPO 法人 日本禁煙学会(理事長 作田学)
■ 【PM2.5問題に関する日本禁煙学会の見解と提言
 ~日本では国内の受動喫煙が最大のPM2.5問題です
 ~禁煙でない日本の飲食店内は1月13日の北京の大気と同じPM2.5レベルです


 実際に、北京では子どもの喘息罹患が増えてきたとのニュースも;

ぜんそくの子供増加傾向=北京の発病率3%超-中国(時事通信:2013/03/05)
 【北京時事】5日付の中国紙・新京報は、中国でぜんそくを患う子供が増えており、北京での発病率は3~5%に達すると報じた。首都小児科研究所付属児童病院ぜんそくセンターの医師の話として伝えた。大気汚染のほか、化学物質の増加、生活環境の急変などが原因という。

 PM2.5は呼吸器疾患のみならず、循環器疾患のリスクも増やし、死亡率を上昇させます;

■ PM2.5と循環器疾患の”危険な関係”(日経メディカルメール 2013.3.1)
 中国からの越境汚染が懸念されている、粒径2.5μm以下の微小粒子状物質「PM2.5」。先ごろ、環境省の専門家の検討会が「大気中のPM2.5濃度が国の環境基準値の2倍に当たる70μg/m3を超えた場合は、外出や部屋の換気を控えることが望ましい」とする指針を示し、国民の関心は高まるばかりです。
 PM2.5による健康被害の可能性として、現時点では、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺癌などの呼吸器疾患の発症・増悪との関連が主に取り上げられています。一方、米国では以前から、PM2.5などの粒子状物質が、呼吸器疾患だけで
なく心血管疾患も引き起こす可能性が指摘されており、PM2.5の年平均濃度が10μg/m3上昇するごとに、地域住民の心肺疾患による死亡率が6%増えたという報告もあります。米国心臓協会(AHA)も、2004年に声明を発表し、粒子状物質が
心血管疾患の罹患率や死亡率の上昇に関連すると警告しています。

 自分の体をむしばみ、周囲の家族の健康も損なうタバコ・・・これで日本の禁煙も進むことを期待したいところです。
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小児科開業医院における専門外来は可能か?

2013年03月05日 19時30分32秒 | 小児科診療
 勤務医時代に開業を考え始めた頃、診療の幅を広げられると希望に胸が膨らんだものです。

 「毎日アレルギー専門外来ができる」
 「15歳以降も引き続き診療できる」
 「自分が医者にかかる余裕のない子育て中のお母さん・お父さんの診療もできる」

 等々。

 しかし、蓋を開けてみれば風邪の患者さんの診療に忙殺され、上記のことはほとんど実現できていないのが現実
 
 ところが、最近ちょっと雰囲気が変わってきました。
 実は今年2月はインフルエンザ流行が一段落した後は患者さんが激減し、非常に暇になりました。
 夏以上に閑古鳥が鳴いている状態。
 すると、一人一人の患者さんにかけられる時間に余裕が出てきます。
 従来であれば待たせている患者さんが多くて説明を一部省くこともあり、「あの説明が足りなかったなあ」とあとで後悔したものでした。
 今は自分も納得する過不足ない説明が提供できているように思います。

 アレルギーの相談をご希望の患者さん、今がチャンスですよ!

 ただ暇な状態が続くと、診療所経営が危うくなるのが問題です(苦笑)。
 なかなかうまく行きませんね。

 日本の医療は外国と比べると「薄利多売」。
 振り返ると、昨年の2月はB型インフルエンザが流行して1日平均100人の診療をしていました。

 そこで思い出すのがこんなブラック・ジョーク。

<ある国際学会での雑談>
 日本の医師が、
 「患者さんを100人診ているんですよ」
 するとアメリカの医師が、
 「それはすごい。1週間に100人も診療するなんて!」
 と驚いたそうな。


 解説しますと、日本の医師は「1日に100人診療する」という意味で言ったのですが、アメリカの医師の感覚では「1週間に100人でも多い、1日で100人なんて考えつかない」というオチです。
 かの国では、専門外来の診療は一人に30分くらいかけるそうです。
 当然診療できる患者数が1日10人程度に限定されますが、それで収支がマイナスにならないような医療行政なのですね。
 アメリカでは医療費がべらぼうに高いと噂される所以です。
 日本で同様の診療をすると、すぐにその病院は赤字で潰れてしまいます。

 しかし日本の医療行政は、この状況を改善するどころか「改悪」し続けています。
 少子高齢化と共に膨らむ医療費を抑制しようと、1回当たりの診療報酬を年々少しずつ減らしてきました。
 するともっとたくさんの患者さんを診なければ経営が成り立たなくなり、一人にかける時間も少なくなりがちで「3分間診療」なんて言葉も生まれました。

 悪循環。

 では対策をということで「5分間診療しなければいけない」などというヘンなルールを数年前に作ったり(顰蹙を買ってすぐに消えましたが)。
 根本的対策は「じっくり診療しても経営が成り立つように医療行政を変えること」なのに、枝葉末節のすり替えばかりで呆れるばかりです。
 まあ、どこの世界でもズルをして金儲けをしようとする輩は存在しますので、それを防止するルールも作る必要がありますが。
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大脳を抑制する機能を失った人類

2013年03月05日 19時14分32秒 | 日記
 解剖学や生理学を学び始めた頃の医学生時代に「大脳の抑制が取れている」という文言がクラスで流行りました。
 人間が他の動物と違うところは「本能を抑制してコントロールする能力」を備えていることと教わり、周りが見えずに感情的に突っ走る友人を「アイツは大脳の抑制が取れている」と冷やかしたものです。

 さて「核」を手に入れた人類、どうも「大脳の抑制が取れている」としか思えない行動が目に付きます。
 日本は唯一の被曝国なのに原子力発電所という核爆弾のバリエーションを全国各地に配置し、東日本大震災で放射能汚染による甚大な被害に遭ってもなお核を捨てようとせずにしがみついています。

 世界各国もしかり。
 こんなニュースが流れてきました;

「核の非人道性」議論 オスロ、初の国際会議 保有5カ国は不参加
(共同通信社 2013年3月5日)
 【オスロ共同=西村誠】核兵器の使用が人体、環境、社会に与える破滅的影響について議論する「核兵器の非人道性に関する国際会議」が4日、ノルウェー政府の主催により、首都オスロで始まった。核の非人道的側面を国家間で話し合うのは初めてで、日本を含む120カ国以上から政府、国際機関、非政府組織(NGO)の専門家ら計約550人が参加した。
 ノルウェー政府は、会議の目的を「(核使用の)非人道性の問題に焦点を当て、核不拡散や核軍縮の必要性を認識してもらうことだ」と説明。5日まで開き、議長総括をまとめる。核拡散防止条約(NPT)下で核保有を認められている米、英、フランス、ロシア、中国の5カ国は、核軍縮のアプローチへの支障を理由に参加しなかった
 日本は、日赤長崎原爆病院院長の朝長万左男(ともなが・まさお)さん(69)、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の田中熙巳(たなか・てるみ)事務局長(80)ら政府代表団4人が出席。被爆地の惨状について英語で訴えた。
 朝長さんは「核兵器爆発による医療上の影響」をテーマに報告。原爆投下後の広島、長崎の爆心地やその付近で、熱線や爆風、高線量の放射線により多数が死亡し、生き残った人々もがんや白血病などで長年苦しんできた実態を、被爆者の写真を交え詳しく説明した。
 また「永遠に消えることのない、心理的ダメージが残った。生きる意志を失い、自殺する人もいた」と指摘。「核兵器は根本的に非人道的であり、医者からみると流行の病のようだ。この病気を治すには、廃絶するしかない」と結論づけた。
 ノルウェーのアイデ外相は冒頭、「冷戦時代より核保有国は増えた。テロ組織が核を持つかもしれず、核が意図的に使われるリスクは高まっている」とあいさつ。「NPTは極めて重要だが、北朝鮮の最近の挑発は、あらためて問題点を浮き彫りにした」と述べた。


「三つの方法で殺された」 核の惨禍、医学的に説明
(共同通信社 2013年3月5日)
 【オスロ共同】「原爆投下直後、人々は三つの方法で同時に殺された」。オスロで4日始まったノルウェー政府主催の「核兵器の非人道性に関する国際会議」で、日赤長崎原爆病院院長の朝長万左男(ともなが・まさお)さん(69)は、被爆国日本を代表して核の惨禍を医学的に説明した。三つの方法とは、原爆により生じた2千度の熱線、毎秒80メートルの爆風、高線量の放射線を指す
 発表テーマは「核兵器爆発による医療上の影響」。広島、長崎で1945年末までに亡くなった計20万人超の原爆犠牲者に起きた症例を紹介、「被爆地は病院機能が失われ、抗生物質の投与など満足な医療行為ができなかった」と報告した。
 原爆の被害を世界各地で訴えるうちに「被爆者の苦しみが今も続いていることは、あまり知られていない」と実感。専門分野である白血病の研究成果を基に、被爆者が多発性のがんや白血病に長く悩まされてきた事実を発表内容に加えた。
 朝長さんによると、被爆者の白血病発症率は原爆投下から10~15年でピークを迎え、その後は徐々に減少。だが、朝長さんが"第二の白血病"と考える「骨髄異形成症候群」が、子ども世代だった被爆者の間で近年増えてきているという。
 68年前に受けた遺伝子の損傷が被爆者を生涯苦しめる。核は"遺伝子標的兵器"と指摘した。



 次は核保有国を議長国に指名していただきたいものです。
 北朝鮮やイラン、パキスタンなどから核兵器がテロ組織にわたり使われることで人類が滅亡するシナリオが現実味を帯びてきた今日この頃・・・。


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