徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

2017/18シーズンのインフルエンザ流行の主役は?

2017年09月23日 15時01分58秒 | 小児科診療
 今シーズン(2017/18)は9月現在、すでにA型インフルエンザが一部で流行し学級閉鎖が始まっていると報道されています。

 インフルエンザは毎年流行しますが、その中身は微妙に違います。
 インフルエンザにはA型が2種類とB型が2種類あることは、近年よく知られるようになりましたが、毎年の流行はその比率が異なるのです。
 たとえば、
 2015/16シーズンの流行の主役は、AH1pdm09亜型(A/H1N1pdm09)
 2016/17シーズンはAH3亜型(A/H3N2)でした。
 だいたい、AH1pdm09とAH3が交互に流行の主役を担うパターンです。

 すると、順番から行くと今シーズンはAH1pdm09が来ることになりますが・・・ 日経メディカルの関連記事を紹介します。

■ 流行ウイルスはAH3? それともAH1pdm09?
今季インフルエンザで気になる3つの懸念
2017/9/8:日経メディカル:三和護=編集委員
 暦上、9月4日から今季のインフルエンザシーズンが始まった。日本での昨シーズンまでの流行状況や南半球の今シーズンを見ると、流行の主流となるウイルスはAH1pdm09亜型あるいはAH3亜型の可能性が浮かんでくる。それぞれに懸念事項があるが、加えてワクチン接種率の低下という問題も浮上しそうだ。
 例年、暦上は第36週から翌年の第35週までの1年間がインフルエンザシーズンとなる。スタートした2017/18シーズンでまず気になるのは、流行するインフルエンザウイルスがどのタイプになるかだ。

AH3とAH1pdm09が交互に流行
 国立感染症研究所がまとめているレビュー「今冬のインフルエンザについて (2016/17シーズン) 」を読み返すと、昨シーズンは、シーズン中に検出されたウイルス全体に占める割合が85%と、AH3亜型(A/H3N2)が流行ウイルスの主流だった。AH3が主役だったのは、2014/15以来となる。
 1つ前の2015/16シーズンは、AH1pdm09亜型(A/H1N1pdm09)が主流(全体の48%)で、近年はAH1pdm09とAH3が交互に流行の主役となってきた。この経験則に立つなら、今シーズンはAH1pdm09が主流の番となりそうだ。
 主流になっていないが、B型も無視はできない。2016/17シーズンの後半には、B型の流行も見られた。2017年第9週から検出されるB型ウイルスが増え始め、第13週以降は流行が下火になっていたAH3を上回っていた。なお、B型にはビクトリア系統と山形系統がある。その比を見ると、1.6対1でビクトリア系統が多かった。
 感染研のまとめはこうなる。

 (1)2015/16シーズンは、AH1pdm09亜型を中心にB型(両系統とも)など複数のインフルエンザ・ウイルスが同時に流行した。
 (2)しかし、2016/17シーズンは、AH3亜型による流行の早い立ち上がりが見られた。その後もAH3が主流のまま推移し、シーズン後半まで流行ウイルスの大部分をAH3亜型が占めていた。
 (3)傾向としては、2014/15シーズンと同様だった。

オーストラリアではAH3が主役
 ところが、既に今シーズンの流行が始まっている南半球の状況を見ると、経験則に立つAH1pdm09主流説には疑問符が付いてしまう。
 オーストラリア政府が発表した「Australian Influenza Surveillance Report No 07」によると、同国では、昨シーズンを上回る勢いでインフルエンザが流行している。2017年の1月から8月18日までに、確定症例は前年同期のほぼ2.5倍の9万3711人に上った。年齢階層別で見た感染者数は、80歳以上が最も多く、それには及ばないものの5~9歳にもピークが存在している。
 流行しているウイルスは、AH3亜型が主流だ。2017年1月から8月21日までに検出されたウイルスの亜型を見ると、全体の628件中、AH3が322件(51.3%)、AH1pdm09が154件(24.5%)、B(山形系統)が136件(21.7%)、B(ビクトリア系統)が16件(2.5%)となっている。
 南半球で流行したウイルスは、必ずしも北半球での流行の中心に座るわけではない。しかし、これだけ多くの人が世界中を行き交うようになった現代にあっては、人の移動とともにウイルスの拡散も容易になる。つまり、北半球の流行ウイルスを予想する上で、南半球の流行状況は大いに参考にすべきなのだ。
 結局のところ現時点では、今シーズンは、AH3主流説がやや優位と見るべきではないだろうか。

AH3で思い浮かぶワクチンの鶏卵馴化の壁
 流行ウイルスのAH3主流説をとった時、まっさきに思い浮かぶのが、「鶏卵馴化による抗原変異」だ。ワクチンの基になったインフルエンザウイルス株と、実際に流行したウイルス株の間で抗原性が一致していたとしても、ワクチン製造のためのウイルスは鶏卵で作るため、その過程で抗原性が変化することがあるのだ。
 これまでも度々、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスが発育鶏卵に馴化するという難題に直面してきた。例えば、2012/13シーズンにAH3亜型が流行したときは、ワクチンに選定した株と実際に流行した株で抗原性の一致率は高かったものの、製造したワクチン株と流行株との一致率は低下していた。つまり製造過程において、ワクチン株が馴化という洗礼を受け、その抗原性が低下していたのだ。この教訓からAH3のワクチン株に、馴化の影響を受けにくい株を選ぶなどの工夫が行われるようになっている。
 しかし2度あることは3度あるもので、昨シーズンは、また「鶏卵馴化による抗原変異」が起こり、流行株と抗原性が乖離するという傾向が認められた(図1)。流行したウイルス(分離株)の9割以上が、ワクチン製造株に対する抗血清との反応性が低下しており、ワクチン株と流行株の抗原性相違が推定されたのだ。つまり、流行の主流だったAH3に対して、ワクチンは期待された効果を発揮できなかった可能性がある。

 果たして、今シーズンはどうなるのか。

図1 2016/17シーズン流行株のワクチン株抗血清との反応性(感染研「インフルエンザウイルス流行株抗原性解析と遺伝子系統樹、2016年12月28日」より)


AH1pdmならインフルエンザ脳症の多発に留意
 仮にAH1pdm09が流行の主流となった場合、何が懸念されるのか。それは、子どもたちのインフルエンザ脳症やインフルエンザ肺炎の多発リスクではないだろうか。
 近年では、2015/16シーズンが思い返される。インフルエンザ脳症の患者が200人を超え、前シーズンから倍増したのだ。感染研が公表した感染症週報(2016年第13週)によると、この時点でのインフルエンザ脳症はシーズン累計で202例となった。報告時の死亡例は計12人だった。死亡報告の割合は2009/10から14/15シーズンの6.8%よりは低かったが、5.9%に上った。
 新型インフルエンザ(A/H1N1pdm2009)が発生した2009/10シーズンには、319例のインフルエンザ脳症が報告されている。以降は、80例、88例、64例、96例と推移し、2014/15シーズンは101例が報告されている(図2、IASR 2015;36:212-3.)。

図2 インフルエンザ脳症の報告数の推移(2014/15まではIASR 2015;36:212-3.より作成。報告遅れの症例数も含む)


 専門家によると、新型インフルエンザ(A/H1N1pdm2009)が季節化して以降、AH1pdm09ウイルスの性状はそれほど変わってはいない。つまり、AH1pdm09流行時には新型インフルエンザ発生時のように、特に免疫のない低年齢層にインフルエンザ脳症やインフルエンザ肺炎のリスクがあることを念頭に置いておくべきだろう。

ワクチン接種率が低下傾向、2015/16は41.5%に
 3つ目の懸念事項は、ワクチン接種率が低下傾向にある点だ。8月末に2015/16シーズンの接種率が公表されたが、全体で41.5%だった(図3)。前シーズンの45.8%から4.3ポイントも低下した。



 2015/16シーズンは、インフルエンザワクチンにとって画期的な変更が行われた年だった。これまでの3価(抗原の種類がA型2種類、B型1種類)から4価(A型もB型も2種類)に改良され、カバー範囲が広がった。
 しかし予期せぬ事態も起こってしまった。それはワクチン接種料金の値上げだ。4価へ増えたことに対応するため、インフルエンザワクチンの製造コストはアップ。販売価格にも影響が及んだ。
 接種率の低下にワクチン料金の値上げがどれだけ影響したのかは、定かではない。が、全く影響しなかったとも言い難い。この低下傾向が続かないよう、原因の解明を急ぎ、有効な手立てをとらないといけない時期に来ている。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 全国で検出される同一遺伝子O... | トップ | インフルエンザワクチン不足... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小児科診療」カテゴリの最新記事