徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

来春の花粉は今年の2倍飛ぶ

2012年10月31日 22時31分06秒 | 小児科診療
風邪に混ざって秋の花粉症(ブタクサ、ヨモギ、アキノキリンソウなど)患者さんがちらほら来院される今日この頃。
早くも来春のスギ花粉症に関するニュースがはいってきました:

来春の花粉、今年の7割増=飛散量の全国平均予想-民間気象会社
(2012.10.31:時事通信)
 民間気象会社ウェザーニューズは30日、2013年春に予想されるスギやヒノキの花粉飛散量を発表した。九州を除き今年より多めとなり、全国平均で1.7倍となる見通し。平年と比べても1.4倍に増えるという。
 同社によると、東日本は残暑や小雨など雄花の生育に適した条件がそろい、スギ花粉は今年の2倍前後となる見込み。西日本は曇りや雨の日が多かったため1.3倍程度で、ヒノキ花粉も同様の傾向が予想される。

 
 私自身もスギ花粉症ですので人ごとではありません。
 趣味の「鎮守の森巡り」「巨樹巡り」ができない憂鬱な季節がまたやってきます。
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小児科外来で行う「迅速診断」について

2012年10月21日 06時57分23秒 | 小児科診療
 RSウイルス感染症の項目で質問を受けしましたので、より多くの人が閲覧できるよう回答をこちらに再掲します。

小児科外来における迅速診断を行う意義・価値について記してみます。

現在、外来で施行可能な迅速診断検査には以下の7つがあります;
※ ( )は当院の状況;○は採用、×は不採用、△は準備中

1.インフルエンザウイルス(○)
2.アデノウイルス(○)
3.ノロウイルス(×)
4.ロタウイルス(×)
5.RSウイルス(△)
6.溶連菌(○)
7.肺炎マイコプラズマ(×)


この中で当院が採用しているものは3つ(1・2・6)のみ。
他の検査をなぜ導入しないかというと「検査結果が治療・診療に反映されないから」です。

採用している迅速診断
1のインフルエンザは陽性なら抗インフルエンザ薬を、6の溶連菌が陽性なら有効な抗生物質の処方を考慮することになります。

2のアデノウイルス(学校伝染病に指定されているプール熱の原因)が陽性の場合は、治療に反映されませんが、感染対策として一定期間集団生活を休んでもらう義務が発生します。

不採用の迅速診断
3のノロ、4のロタは嘔吐下痢の原因として有名ですが、残念ながら特効薬はなく、脱水予防対策は共通しているので区別する必要性が少ないと考え採用していません。
経口補液など家庭療養のポイントをプリントを渡して説明しています。

7のマイコプラズマは他の検査と異なり、病原体そのものを検出するのではなく、感染後に人体が産生した免疫抗体を検出する検査です。
なので、発症後すぐには陽性にならず、信頼できる結果は症状が出てから1週間以降とされています。つまり、こじれてからでないと陽性にならないことになり、「迅速」ではありますが「早期」という意味ではなく、治療に反映しにくいのが欠点です。
さらに、マイコプラズマ感染後は免疫抗体の産生が半年~1年以上続くので、陽性に出た場合でもそれが今回の感染を表しているのか、半年前の感染の影響なのか区別できません。このような理由により、約30%が疑陽性(陽性ではあるがマイコプラズマ感染ではない)との報告があります。

さて、RSウイルスですが、ブログに記したように特効薬はなく、診断しても治療は変わりません。乳児の場合は家庭療養のポイント、重症化徴候のチェック方法などを、これもプリント渡して説明しています。

以上、迅速検査はその結果により患者さんにどれだけメリットがあるかを判断して導入・採用していることをご理解いただければ幸いです。
そして目の前の患者さんに迅速診断検査を行うかどうかは、周囲の流行状況や重症度を勘案してその都度決めていますので、「心配だから」という理由だけで全員には施行していません。

現実には保育園・幼稚園から「検査してもらってきてください」とプレッシャーをかけられて受診される方が後を絶ちません。
園などの施設管理者が心配しているのは「感染拡大」であり「感染力があれば休むべきである」との考えが根底にあります。
ここで問題点を整理してみたいと思います。

各感染症が感染力を有する期間はどれくらいでしょうか?
実は症状が治まれば感染力が無くなるというわけにはいきません。乳幼児では免疫力が未熟であり、大人よりウイルス排泄期間(感染力のある期間)が長引く傾向があります。

感染力持続期間
・嘔吐下痢のノロウイルス/ロタウイルスは乳児では数週間。
・呼吸器感染症のRSウイルスでも乳幼児で数週間。
・マイコプラズマでは年齢にかかわらず数週間。

※ 参考:「風邪のおはなし

つまり上記の感染症に関しては、感染拡大を阻止するためには診断後数週間は集団生活を休む必要があります。もちろん、本人は症状も落ち着いて元気なのに、ガマンさせるわけです。

また、「治癒証明」を要求される場合もあります。
上記を読んでおわかりだと思いますが、感染力がゼロになったからOKという「治癒証明」は数週間書けません。
元気になったので園生活に復帰可能ですという意味の「登園許可」なら書けますが・・・。

園関係者にお願いしたいのですが、検査を要求するのであれば、病気を理解した上での事後措置(陽性の場合の対応)をあらかじめ決めておいていただきたいと思います。
ロタウイルスやRSウイルス陽性となっても、その子どもたちを1ヶ月弱自宅療養させることは現実的ではありません。園内の感染対策(手洗い、マスク)を徹底させ、かつ集団生活の場では感染を防ぐのに限界があることを園児家族に啓蒙し理解していただくのがよいと考えます。

というわけで、迅速診断を乱用すると混乱を招きがちです。
検査に振り回されず、賢く有効活用したいものです。

当院で行う検査は限定されておりますので「なにがなんでも検査をして欲しい」という患者さんは他院を受診されている様子。
ここに記したことを患者さんごとに説明する時間はありませんので、小児科医の胸の内をネット上に公開した次第です。
ご参考になれば幸いです。

追記
実は迅速診断の価値を更に減らす病態が存在します。
それは「不顕性感染」。
これは「感染していて人にうつす力もあるけど、本人には症状がない」という、まことにやっかいな病態です。
※ 参考:「風邪のおはなし」の「不顕性感染」項目

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日本脳炎ワクチン接種後の死亡事例について

2012年10月19日 21時36分23秒 | 小児科診療
TVや新聞での報道でご存じの通り、予防接種関連で痛ましい事例が発生しました。

日本脳炎の予防接種後急変、死亡 美濃市の小5男児
(2012年10月18日岐阜新聞)
 17日午後5時15分ごろ、美濃市藍川の「平田こどもクリニック」(平田正士院長)で、日本脳炎の予防接種を受けた関市内の学校に通う小学5年の男児(10)=美濃市=が接種後間もなく意識不明、心肺停止状態となり、搬送先の関市の病院で約2時間30分後に死亡が確認された。関署は19日午後、司法解剖し、男児の死因、予防接種との因果関係などを調べる。
 同署や同クリニックによると、男児は17日夕、母親に連れられ、妹らと来院。小学生の妹が先に接種を受け、男児も平田院長(73)から接種を受けた。その5分後、「待合室で寝ている男児の様子がおかしい」と看護師が気付き、平田院長が確認したところ意識不明で心肺停止状態だった。妹に異常はないという。
 平田院長は「接種前の問診に異常はなかった。ワクチンの期限や用量は適正だったので、原因が思い当たらない」と話している。
 同クリニックによると、男児が注射器を見て院内を逃げ回ったため、母親と看護師で押さえ、平田院長が腕に注射したという。
 男児の状態が悪くなった後、母親が平田院長に男児が関市内の特別支援学校に通っていることや、別の病院で処方された薬を飲んでいることなどを伝えたという。
 同クリニックによると、男児は就学前に3回受けるのが標準とされる定期接種を受けておらず、今回が初めての接種だった。
 厚労省は18日、事実関係の確認のため県や市を通じて情報収集を始めた。



この報道に関して、医療の現場にいる人間として感じたことを記してみます。

ワクチンの安全性について
 このような事例が発生すると、例外なくワクチン反対派が「それみたことか」と反論を展開しますが冷静に判断する姿勢を持ちたいものです。
 ワクチンは科学的データの集積により証明されたもを国が認可し安全性を保証している医薬品です。今回使用されたワクチンもそのような経路で生産され、保管状態も問題なかったと紙面から読み取れます。

予診表は正確に記載されていたか?
 予診表はワクチンを受けることが適切であるかどうか、評価する重要な情報です。正確に記載していただかないと、正確な判断ができません。
 今回の事例では、「男児の状態が悪くなった後、母親が平田院長に男児が関市内の特別支援学校に通っていることや、別の病院で処方された薬を飲んでいることを伝えたという」とあり、この事実を母親が予診票に記載していなかったことが窺われます。特に「別の病院で処方された薬を飲んでいる」ことは問題です。他の病院で治療中の場合は、予防接種を受けてよいかどうか、その主治医からの許可が基本的に必要です。
 病名と投薬内容が不明なのでこれ以上の言及は避けます。
 
 他の医療機関で継続診療を受けている子どもが予防接種を希望された場合、当院では「接種許可証」の提出を義務づけています。接種が可能かどうか、もし問題が発生するとしたらどのようなことが予測されるか、について主治医に記載していただいています。

悩ましい「嫌がる子ども」への接種
 針を刺す予防接種を子どもが嫌がるのは当然ですが、物心つく頃にはほとんどの子どもがいじらしく我慢して接種を受けてくれます。しかし、中には逃げ回って接種困難な子どももいます。どこまで無理をして押さえつけて接種すべきか、悩ましい問題です。
 今回の事例では「男児が注射器を見て院内を逃げ回ったため、母親と看護師で押さえ、平田院長が腕に注射した」と記載されており、尋常な状況ではなかったことが窺われます。

 もし私が当事者だったら、接種をあきらめたかもしれません。
 当院では5歳のお子さんが本気で暴れて複数の看護師が抑えても無理だった経験があり、それ以降は接種を嫌がって逃げ回る5歳以上の子どもの場合「本人が納得していないと接種はできませんので、時間をかけて説得してみてください」と家族に説明しています。

ワクチンは医薬品であり、副反応(副作用)はゼロではありません。
 日本脳炎ワクチンの添付文書には、重篤な副反応の最初にアナフィラキシーの記載があります;
 「ショック、アナフィラキシー様症状(0.1%未満):ショック、アナフィラキシー様症状(蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫等)があらわれることがあるので、接種後は観察を十分に行い、 異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。

 今回の事例では時系列からこのアナフィラキシーが起こった可能性が指摘されています。ただし、アナフィラキシーは蕁麻疹などの皮膚症状、咳や呼吸困難などの呼吸器症状、嘔吐などの消化器症状が次々と現れたのちにショックに陥るのがふつうであり、「気がついたら心停止状態であった」という経過は考えにくく非典型的です。
 患者さんの体質に起因する発作性疾患(不整脈発作など)も否定できません。

 添付文書を読んでいただくと、あまりにもたくさんの副反応が記載されているので、予防接種を受ける側の人は怖くなってしまいそうです。しかし、他の医薬品の添付文書をみていただくと分かるように、例えばかぜ薬でもたくさんの副作用の記載があるのが事実です。

(例)ペリアクチン(鼻水止め)
 ついでと言っては何ですが、「抗ヒスタミン薬と熱性けいれん」について記しておきます。抗ヒスタミン薬であるペリアクチンの添付文書の副作用欄をみると、「重大な副作用(頻度不明)」の2番目に「痙攣」とあります。さらに「小児への投与」の項目には「乳・幼児において、過量投与により副作用が強くあらわれるおそれがあるので、年齢及び体重を十分考慮し、用量を調節するなど慎重に投与すること。[抗ヒスタミン剤の過量投与により、特に乳・幼児において、幻覚、中枢神経抑制、痙攣、呼吸停止、心停止を起こし、死に至ることがある。]」と記載されています。
 このような記載より、ペリアクチンというかぜ薬を飲むことによって痙攣のリスクが増える可能性を考慮し、小児科医は熱性けいれんを起こしたことのある乳幼児にはペリアクチン(抗ヒスタミン薬)を処方しないのが一般的です。

副反応発生時の適切な処置
 アドレナリン(商品名:ボスミン)の筋肉注射をはじめ、蘇生処置が「予防接種ガイドライン」の中でマニュアル化されています。
 今回の事例では、蘇生状況の詳細が不明なので言及は避けます。


 以上、気になることを列挙してみました。
 要約すると、
・ワクチンの副反応としてのアナフィラキシー・ショックの可能性がありますが、他院で治療を受けていたことから子ども自身の体質による発作性疾患も否定できません。
・家族が事前に他院での治療を報告していなかったことが残念です。
・また、嫌がる子どもに無理やり接種する行為がどの程度まで適切と云えるのか、検討の余地があると思いました。
 今後、専門家による解析により真実が解明され、かつ公開されることを強く希望します。

 最後に一言。
 今回のニュースを見ていて疑問を感じた点があります。
 患者さんの情報は限定的に報道された一方で、接種医師・医院は実名で非限定的に報道されました。
 「個人情報保護」が謳われるこの時代に、医師の個人情報は保護はされたのでしょうか?
 
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