徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

一部のテレビゲームで脳の灰白質が萎縮?

2017年09月04日 08時18分01秒 | 小児科診療
 テレビゲームは脳の発達にどんな影響を与えるか・・・
 よい影響という報告もありますが、昨今は否定的な見解が目立ちます。

 今回紹介する報告も、一部のゲームでは脳萎縮が見られたと報告されています。
 一方で、ゲームの種類によっては脳の容積が増加することも併せて報告されていますね。

■ 一部のテレビゲームで脳の灰白質が萎縮?
HealthDay News:2017/09/04
 アクション型のテレビゲームをプレイする人の一部で、脳の灰白質と呼ばれる部分の萎縮が認められたとする研究結果が「Molecular Psychiatry」8月8日オンライン版に掲載された。ただ、同研究ではゲームをプレイする際の脳の働かせ方やゲームの種類によっては灰白質の容積が増加することも分かったという。
 これまでに、テレビゲームには注意力や短期記憶力を向上させる利点があるとの研究結果が報告されていたが、今回の研究からは、こうしたゲームによる効果を得るには代償を伴う可能性が示唆された。
 この研究は、18~30歳の男女約100人を対象にモントリオール大学(カナダ)のGregory West氏らのグループが実施したもの。参加者にはゲームの熟練プレーヤーと未経験者が含まれていた。
 参加者には、一人称視点で3次元(3D)マップを移動して敵を攻撃するファーストパーソン・シューティングゲーム(FPS)または三人称視点でプレイするサードパーソン・シューティングゲーム(TPS)である「コールオブデューティ」や「バトルフィールド」、「キルゾーン」などのゲーム、あるいは3Dプラットフォームでプレイする「スーパーマリオ」シリーズのゲームを90時間プレイしてもらい、MRI検査を実施して脳の海馬と呼ばれる空間や物事の記憶を司る領域への影響を評価した。
 その結果、「空間的戦略(spatial strategies)」に基づいてゲームをプレイしていた人には、海馬における灰白質の容積の増加が認められた。それに対し、「反応学習(response learning)」に基づいてゲームをプレイしていた人では、灰白質の容積が縮小していたという。West氏らによると、空間的戦略では頭の中に地図を描いて地形を理解するのに対し、反応学習では単に左右に曲がる場所を覚える感覚でゲームを進めるという。
 さらに、プレイ時の脳の働かせ方によって差がみられるだけでなく、「スーパーマリオ」シリーズのゲームをプレイした群では、海馬だけでなく嗅内皮質と呼ばれる脳領域の容積も増加することが示唆された。
 この結果を踏まえ、研究グループの一員でマギル大学(カナダ)准教授のVeronique Bohbot氏は「ゲームをプレイする人が誰でも精神疾患を発症するわけではないが、海馬の灰白質が萎縮した人は統合失調症や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、アルツハイマー病などのリスクが高いことが分かっている」と説明している。
 一方、米ステッソン大学のChris Ferguson氏は、今回のようなテレビゲームによる脳への影響に関する研究には問題点があると指摘。「脳にはさまざまな領域があるが、その一部にたまたま認められた差を研究者が大袈裟に取り上げ、その原因はテレビゲームにあるとしている場合もあるのではないか」としている。その上で、同氏は「脳の研究を全体的に見ると、テレビゲームは安全であることが示されている。暴力的なゲームであっても脳に短期的あるいは長期的な悪影響を及ぼすとの報告はなく、脳の変化が実際の行動に関連することを示した研究もほとんどない」と説明している。
 なお、West氏は「成人がシューティングゲームをプレイする時間は週2~3時間以内とすべき」と助言しているが、Ferguson氏は「ゲームによりストレスが軽減され、問題解決能力が向上することを示す研究もある。オフラインでの人付き合いや運動、仕事や学校、家族、十分な睡眠の時間を確保し、ゲーム以外の時間とのバランスを維持できれば、テレビゲームによる脳への有害な影響はない」としている。

<原著論文>
・West GL, et al. Mol Psychiatry. 2017 Aug 8.


 ふむふむ・・・反射的に指を動かすだけのゲームでは萎縮し、あれこれ間考え迷いながらするゲームでは容積増大するのですね(スーパーマリオは○)。
 まあ、頭を働かせるかどうか、という単純な結論です。
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子どもの野菜嫌いの原因は・・・

2017年09月03日 12時09分54秒 | 小児科診療
 子どもに「こうあるべき」と教えたいときは、親自身が手本を示せば真似る、という原則があります。
 口うるさく云ってしまうのは「自分が行動でお手本を示せないから」言葉と親の権威に頼らざるを得ないと読んだことがあります。

 食事の好き嫌いもその要素がありそう、という報告を紹介します;

■ 母乳の味を変えれば野菜好きの子に育つ?
[2017年8月4日/HealthDayNews]
HealthDay News:2017/08/30
 幼い子どもに野菜好きになってほしければ、母親が授乳中に野菜を食べておくとよいかもしれない。「American Journal of Clinical Nutrition」7月号に掲載された研究で、母親が授乳前に野菜ジュースを飲むと母乳が野菜の風味になり、その母乳を飲んだ子どもは後に同じ味のする食べ物を嫌がる可能性が低くなることが示された。
 今回の研究では、母乳育児中の母子97組を5つのグループにランダムに割り付け、第1~第4グループの母親には授乳前に野菜ジュース(ニンジン、セロリ、ビートなど)を半カップ飲んでもらうことにした。その時期は、第1~第3グループではそれぞれ子どもの生後2週間目、1.5カ月目、2.5カ月目から1カ月間とし、第4グループでは生後2週間目から3カ月間とした。第5グループは水を飲む対照群とした。
 子どもの離乳後(生後8カ月頃)、母親が子どもに対してプレーンまたはニンジン風味、ブロッコリー風味の離乳食用シリアルを与える様子をビデオ撮影し、子どもの嫌がるサイン(鼻にしわを寄せる、唇を尖らせる、顔をしかめる、スプーンを強く拒絶するなど)を観察した。
 その結果、野菜風味の母乳を飲んだ子どもはプレーンなシリアルや不慣れなブロッコリー風味のシリアルよりも、ニンジン風味のシリアルを好むことが分かった。また、生後2週間目から1カ月間、野菜風味の母乳を飲んだ子どもは、他のグループの子どもに比べてニンジン風味のシリアルをより多く、より勢いよく食べていた。この結果について研究では「生後数週間は授乳の頻度が高いためか、もしくは味覚の形成に影響を及ぼしやすい時期であるためだろう」と推測している。
 なお、母親の野菜摂取量は研究期間中を通して変化しておらず、8割が推奨量を満たしていなかったが、母親は次第に野菜ジュースの味を好むようになっていた。そのため、その後も子どもに健康的な食べ物を与え続ける可能性が高まっているかもしれないという。
 研究を率いた米Monell Chemical Senses CenterのJulie Mennella氏は「乳児の感覚的経験はそれぞれの児に固有のものだが、味覚の経験は子宮内にいるうちから始まり、母親が食べたものによる影響を受ける母親から与えられる母乳は精密医療の極致といえるだろう」と述べている。母親が野菜を食べると、その風味が羊水や母乳に移行し、子どもに伝わる。それにより子どもが早期から野菜の味を学べば、固形食を取り始めたときに嫌がりにくくなる可能性があるという。
 米国栄養・食事療法学会(AND)スポークスパーソンのJennifer McDaniel氏は「他にも複数の研究で、母乳育児により食べ物の好き嫌いを少なくできる可能性が示されている。しかし、母乳育児をできない母親は自分を責めなくてよい。健康的で多様性に富む食事を与えれば、子どもは異なる味や食感を経験して受け入れていき、選り好みしない健康的な食事パターンを身につけられる可能性が高い」とアドバイスしている。

<原著論文>
Mennella JA, et al. Am J Clin Nutr. 2017; 106: 67-76.
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日本人の身長の伸びが止まった理由

2017年09月03日 08時04分06秒 | 小児科診療
 日本人の身長はずっと伸び続けていずれ欧米人に近づくと信じていました。
 確か、私が高校生の頃でしょうか。
 「日本人男子高校生の平均身長が170cmを超えた」とニュースで流れたことを記憶しています。

 しかし、私が結婚し子どもができて次の世代を見ていると・・・なんだか中学生・高校生はあまり大きくない。
 むしろ小さくなったのでは、と感じることもあります。

 そんな疑問に答える報告が目にとまりました;

■ 日本の成人の身長低下、低出生体重が原因か
ケアネット:2017/08/28
 国立成育医療研究センターの森崎 菜穂氏らが、わが国における1969年以降の出生特性と成人の平均身長の推移を調査したところ、20世紀は増加し続けていた成人の身長は1980年生まれから低下し始めていた。一方、低出生体重(LBW)での出生はU字型を示し、成人の身長の低下がLBW出生の増加に起因する可能性が示された。Journal of Epidemiology and Community Health誌オンライン版2017年8月19日号に掲載。
 著者らは、1969~2014年の人口統計における6,411万5,249人の出生特性の長期的推移と、全国・地方・地域で実施された79の調査から、1969~96年に生まれた成人314万5,521人の平均身長の推移を観察した。
 主な結果は以下のとおり。

・LBWの割合は1978~79年(5.5%)まで減少した後増加するU字型を示し、逆に、成人の平均身長はその同じ時期に生まれた人(男性:171.5cm、女性:158.5cm)でピークに達し、その後減少していた。
・LBWの割合と成人の身長は、強い逆相関を示した(男性:r=-0.98、女性:r=-0.88)。
・出生と経済的特性に基づく予測モデルによると、成人の身長の全国平均は低下し続け、2014年に生まれた人では、男性170.0cm(95%CI:169.6~170.3)、女性157.9cm(95%CI:157.5~158.3)になると予測された。

<原著論文>
Morisaki N, et al. J Epidemiol Community Health. 2017 Aug 19.


 確かにしばらく前から「小さく産んで大き育てる」風潮が無きにしも非ず。
 お母さんのお腹の中で大きくなると妊娠線が残りやすいとかの議論もあったような・・・。

 しかし一方で、「小さく産んで大きく育てる」と将来糖尿病や生活習慣病のリスクが高くなるとの報告も耳にします。
 「スリムな妊婦さん」はお母さん自身の満足感はあるかもしれませんが、生まれてくる赤ちゃんにはマイナス面が多いようです。

■低出生体重と糖尿病リスクの関連裏付ける因子を特定
[2015年1月8日/HealthDayNews]
 低体重で出生した児は将来の2型糖尿病発症リスクが高いことが知られるが、その関連を確認し、さらにリスク上昇に関わる因子を特定する知見が、「Diabetologia」オンライン版に1月8日掲載された。
 米ブラウン大学(ロードアイランド州)疫学・医学のSimin Liu教授らによる研究の結果。同氏は、低出生体重によってどのように生理学的過程が混乱し、糖尿病という結果につながるのかの解明に役立つ知見になると述べている。
 研究では、2型糖尿病患者1,200人以上および約1,800人の非糖尿病患者を対象として出生時体重との関係を検討した。その結果、出生時体重が2.72㎏(6ポンド)未満の場合、2.72~3.63㎏(6~8ポンド)の場合に比べて、将来の糖尿病リスクが1.27倍高いことが分かった。3.63~4.54kg(8~10ポンド)の場合に比べると糖尿病リスクは2.15倍とさらに上昇した。
 低出生体重と糖尿病発症リスク上昇の関連に影響する因子として特定された生化学的因子は、インスリン抵抗性、性ホルモン結合グロブリンの減少、血管内皮障害、収縮期血圧高値だった。
 Liu氏は同大ニュースリリースで、「それぞれの経路の重要性を理解するため、低出生体重に起因するリスクのどの割合がこれら生化学的因子によって説明できるのか、検討を続けている」と述べている。
 同研究は、米国立衛生研究所(NIH)の資金援助を受けて実施された。


妊娠、出産にまつわるデータ集:第1回「小さく産んで大きく育てる」は間違い?低出生体重児のリスク


厚労省研究班調査、低出生体重児は糖尿病の可能性 要因は妊娠適齢期女性の「喫煙」や「低栄養」
2013年6月:ヘルスネットメディア
 日本では、80年代に入って、低出生体重児の出現率が増加、今やOECD加盟国の中でもトップといわれている。要因として妊娠適齢期女性の「喫煙」や「低栄養」が挙げられているが、低出生体重児が成人になると糖尿病になりやすいことが厚生労働省研究班調査で明らかになった。
低出生体重児の出現率、1975年以降増加傾向
 体重が1.5kg未満の低体重児が成人になると3割近くが糖尿病になりやすい---。
先頃、厚生労働省研究班がそうした報告を行った。調査は1990年に体重1.5kg未満で生まれた平均年齢20.3歳、66人を対象にした。
 日本では、80年代に入って、低出生体重児の出現率(出生時体重2.5kg未満)が増えている。人口動態統計によると、低出生体重児の出現率は1975年以降、増加傾向にあり、1975年は男児4.7%、女児5.5%だったが、2000年にはそれぞれ7.8%、9.5%へと増加している。
 低出生体重児誕生の要因として、妊娠適齢期女性の「喫煙」や「低栄養による痩せ」が指摘されている。とくに若い女性の痩せ願望による無理なダイエットで、母体の妊娠前の栄養不良が低出生体重児出現のリスクファクターとなっている。
低出生体重児、生活習慣病に罹患しやすい(バーカー説)
 低体重出生児は死亡リスクが高いばかりでなく、成人期における冠動脈疾患、高血圧、糖尿病といった生活習慣病に罹患しやすいとされている。 これについては、バーカー説(成人病胎児期発症説)がよく知られる。母子の健康状態や栄養状況が現代と比べて劣っていた1920~30年代に生まれたヨーロッパ人を追跡調査した研究で、胎内及び早期乳児期の低栄養保育は、身体の組成や生理機能、代謝に生涯にわたって影響を及ぼすことが示唆された。
 これによりバーカー説では、「子宮内環境で低栄養の赤ちゃんが育つことが成人病の原因となる。これに出生後、生活習慣でリスクファクターが加わると成人病が発症しやすくなる」としている。そのため、乳幼児期ばかりでなく、妊娠前の女性の栄養摂取が乳幼児の成人期における生活習慣病のリスク軽減の重要なカギとなる。
 現在、日本の低出生体重児の出現率は9.1%、OECD加盟国中では日本がトップになっている。平均すると現在10人に1人の割合で低出生体重児が誕生していることになる。
糖尿病、ガンのリスクを高める
 今回の厚生労働省研究班の報告で、低出生体重児の成人後の糖尿病リスクが指摘されたが、糖尿病はガン罹患のリスクも高めることが最近報告されている。5月15日付けの朝日新聞で、日本糖尿病学会と日本癌学会の研究で、糖尿病患者はガンになるリスクが1.2倍に高まることが分かったと報じている。
 研究では、35歳以上の男性15万5千人、女性18万1千人を平均10年間追跡調査。調査期間中、男性約2万人、女性約1万3千人が、ガンになったが、この人達を糖尿病の人がガンになるリスクを糖尿病でない人と比べると、ガン全体で2割ほど高くなっていたという。
 現在、日本における糖尿病患者は900万人、予備軍を含めると2千万人を超すといわれている。


■低体重児、成長後にリスク やせ形妊婦や喫煙が要因
2016/3/15:日本経済新聞


■妊婦さん痩せすぎにご用心、子どもの病気リスク高める
2014/10/12:日経ヘルス&メディカル


 一方、発展途上国では栄養状態が悪くて胎児が十分育たないことが問題になっています。
 同じ地球の上でも出生体重が少ない理由が真逆です。

■ 低・中所得国では新生児の2割が胎児発育遅延/BMJ
ケアネット:2017/09/06
 低・中所得国では、新生児のうちおよそ5人に1人が胎児発育遅延(Small for gestational age:SGA)で出生し、そのうち4人に1人が新生児期(生後28日以内)に死亡しているという。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のAnne CC Lee氏らが、低・中所得国の14の集団ベースから成る出生コホートChild Health Epidemiology Reference Group(CHERG)のデータを分析して明らかにした。BMJ誌2017年8月17日号掲載の報告。
2012年の低・中所得国14の出生コホートのデータを分析
 CHERGには、14の出生コホートの在胎期間、出生時体重、新生児追跡調査のデータが含まれていた。SGAは、在胎期間と性別および民族性を反映したINTERGROWTH-21stの出生児体重標準値から、出生時の体重が10パーセンタイル値未満の場合と定義。SGA児の出生率と新生児死亡リスク比を、地域レベルのデータセットで算出しプールした。また、入手できた国レベルのSGA出生率と、SGA起因の新生児死亡率も推算した。
 主要評価項目は、2012年の低・中所得国における、新生児のSGA数と割合であった。SGA起因の新生児死亡数と割合を評価し、またSGA出生率を10%に減らすことで回避可能な新生児の死亡数と割合を評価した。
SGA児の新生児期の死亡は全新生児死亡の21.9%
 2012年に低・中所得国で誕生したSGA児は、約2,330万例(不確定範囲[UR]:1,760万~3,190万)であった(SGA出生率19.3%)。また、満期産かつ非低体重(2,500g以上)の児は1,120万例(UR:80万~1,580万)、満期産だが低体重(2,500g未満)の児は1,070万例(UR:760万~1,500万)で、早産児は150万例(UR:90万~260万)であった。
 低・中所得国でのSGA児の新生児期の死亡数は約60万6,500例(UR:49万5,000~77万3,000)で、全新生児死亡の21.9%であった。負荷が最も大きかったのは南アジアで、SGA出生率は最も高率の34%で、新生児死亡の約26%をSGA児が占めていた
 これらの国で、SGA出生率を19.3%から10.0%に減らした場合、新生児死亡率は9.2%(25万4,600例:UR:16万4,800~44万9,700)にまで減らすことが可能と推算された。
 著者は、「低・中所得国における高リスク新生児の生存のためにも、ケアの質を改善する、さらなる努力が求められる」とまとめている。

<原著論文>
Lee AC, et al. BMJ. 2017;358:j3677.
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