徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

新型コロナによる「小児多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)

2023年02月23日 09時58分37秒 | 小児科診療
新型コロナが流行してから、小児科医の目が釘付けになった疾患です。
ここではMIS-C(ミスシー)と表記します。

子の病気の症状を見ると、
いわゆる「川崎病」とほぼ一致します。

川崎病は全身の血管の炎症を起こす乳幼児の病気で、
重症の場合、心臓の冠動脈に後遺症を残す、
やっかいな病気です。

しかし原因がずっとわからないままでした。
今回の新型コロナウイルス感染とMIS-Cがリンクしたことで、
学会レベルで、川崎病のウイルス感染説が俄然盛り上がると思われます。

MIS-Cについてこちらの動画「小児におけるコロナ後遺症の実際」(森内浩幸Dr.)を参考に紹介します。

▢ MIS-C;
・新型コロナウイルス感染後に、多臓器にわたる強い炎症を起こす病態
【経過】
・無症状もしくは軽症の新型コロナウイルス感染症罹患から2-6週後に、
 高熱、下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状
・前後して血圧低下、ショック、心不全
・しばしば川崎病に類似した症候群(※)を伴う
※ 発疹、眼球結膜充血、口唇・口腔粘膜の発赤やいちご舌、指趾の発赤など
・日本での報告は欧米に比べて少ない
※ 11例(2021年7月-2022年1月)

・・・注意すべきは「無症状」の新型コロナ感染の場合にもあり得るということ、
つまり感染歴がないからといって、除外するわけにはいかないのです。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小児のCOVID-19後遺症(2023年2月)

2023年02月23日 09時39分26秒 | 小児科診療
新型コロナ後遺症は、
「long-covid」と呼ばれることがありますが、
正式名称ではないようです。
ここでは「罹患後症状」と表記します。

小児科医院の現状では、
後遺症と思われる患者さんを数名経験しました。
・咽頭痛と倦怠感、食欲不振が半年続いた小学生
・咳が2か月続いた幼児
などが記憶に残っています。

こちらの動画「小児におけるコロナ後遺症の実際」(森内浩幸Dr.)を参考に紹介します。

シンプルにイメージすると、
新型コロナ乾癬の急性期が過ぎても症状が残ること、
となりますが、
言葉で定義しようとすると結構やっかいです。

▢ 海外における定義;
以下のような症状を子どもまたは若年者(17歳以下)が有する状態;
(少なくとも一つは身体的症状)
・COVID-19であることが検査によって確定診断された後に、
 継続して、または新たに出現した
・身体的、精神的、または社会的な健康に影響を与える
・日常生活に何らかの形で支障を来す
(例えば、学校、仕事、過程、人間関係など)
・COVID-19の診断が付いてから最低12週間持続する
(その間、症状の変動があっても良い)

・・・「最低12週間(つまり3ヶ月)持続」という定義があるのですね。

▢ 小児における罹患後症状の特徴
・成人の報告と比べると少ない
・小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや高く、
 特に複数の症状を有する場合が多い
・症状の内訳は、嗅覚障害を除くと、対照群との間に大きな差はない
・小児では元々機能的身体症状を呈することが多く、COVID-19に罹患したストレスによって、さまざまな症状が出現する可能性がある
・COVID-19に罹患していなくても罹患後症状と似た変調を訴える小児が増加
 ⇩
小児の罹患後症状を単一の疾患概念として捉えることは困難

・・・「対照群との間に大きな差はない」ということは、コロナの後遺症ではないということ? それにHPVワクチン後遺症でも有名になった「機能的身体症状」がここでも登場し、「罹患していなくても似た変調を訴える小児が増加」したということは、「コロナ禍」という異常事態により社会現象化しているのかもしれません。

<追記>
(2023.6.20)
同じく森内浩幸先生のレクチャーで治療にも言及しているものを見つけましたので引用・抜粋します。

小児におけるCOVID-19~罹患後症状を中心に~

Q. 小児にかける罹患後症状診療のポイントは?
A. 本人と保護者から十分に話を聞き丁寧に身体診察を行う。基本的な検査を行い、症状に応じて体系的にアプローチする。
・心理社会的因子の関与が疑われる場合
 → 本人の性格や生育・生活環境などの背景因子も捉える
・基本的な検査で異常がなくても、器質的疾患を鑑別する必要があると判断した場合
 → 高次医療施設での精査を検討する
・心理社会的ストレスの影響が強く対応困難と判断された場合
 → 患者との関係性が構築された状況下で専門医への紹介を検討する。

Q. COVID-19感染後の小児で注意すべき疾患は?
A. MIS-C、けいれん、急性脳症などです。

1. 小児多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)
・頻度:日本での報告数は約30例、死亡例0(2021年7月~2022年10月)
・経過:
✓COVID-19感染後2~6週目に高熱、下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状
✓前後して血圧低下、ショック、心不全を呈する
✓しばしば川崎病に類似した症状を伴う
・診断の注意点
✓重症胃腸炎や敗血症に伴うショックと診断されることもある。
✓COVID-19感染そのものは無症状の場合もあるため、
 感染既往のない場合も疑いの目を持つ必要がある。

2. けいれん
・オミクロン株流行期で増加傾向
・対応;
✓Dravet症候群など、けいれんが重積する例では入院加療
✓痙攣重積型脳症のリスクを下げるため、すみやかに止痙させる。

3. 急性脳症
・インフルエンザや突発性発疹に伴う急性脳症と同じく、発熱、けいれん、意識障害、異常行動などを認めるときは急性脳症を疑い、高次医療機関へ搬送する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

子どものコロナ:デルタ株 vs. オミクロン株

2023年02月23日 08時31分37秒 | 小児科診療
2023年2月現在の北関東の小児科医院の現状は、
新型コロナ第8波は尻すぼみ、
大流行が予想されたインフルエンザは小流行で収まっています。
市内の学級閉鎖も片手で足りるくらいの数。

やはり、マスクや手洗いなどの感染対策が、
園や学校で浸透した影響なのでしょう。

ただ、ニュースで報道されているように、
症状と診察所見では区別できません。
デルタ株流行期は、
「唾が飲み込めないほどのどが痛い」
と訴える患者さんが目立ちましたが、
オミクロン株流行期になると、
それほど強い咽頭痛を訴える患者さんはいなくなりました。

この冬は、発熱患者さんには希望があれば、
コロナとインフルエンザが両方わかる抗原検査をしています。

コロナを心配して検査したらインフルエンザが陽性になったり、
その逆のパターンもあり、
ほんと、わかりません。

一つ違う点を挙げるとすれば、
胃腸炎症状が前面に出たときは、
インフルエンザよりコロナが陽性に出る可能性が高くなる、
というくらい。

ようやく最近になり、
子どもの新型コロナの症状がまとめられて報告に上がるようになりました。

今回は、デルタ株とオミクロン株の比較を紹介します。
(念を押しておきますがコロナとインフルエンザの比較ではありません)

ポイントを抜粋しますと、
デルタ株よりオミクロン株の方が、
・発症年齢が低い
・発熱率が高い
・熱性けいれん発生率が高く、学童でも発生
・味覚/嗅覚障害は少ない
・入院率は低いが酸素使用率は高い
というところでしょうか。


▢ 小児入院患者の年齢中央値
 デルタ株:8.0歳
 オミクロン株:6.0歳

▢ 症状
(デルタ株<オミクロン株)
・38°C以上の発熱(約20%:約40%)
・けいれん発作(約2%:約10%)
・咽頭痛(約40%:約60%)
(デルタ株>オミクロン株)
・味覚障害(6-13%:1-2%)
・嗅覚障害(5-13%:0%)

▢ 熱性けいれん
    (流行初期) (デルタ株) (オミクロン株)
1-4歳:  1.3%     3.0%     9.4%    
5-11歳:  0.4%     0.0%     3.5%

▢ 重症度(デルタ株:オミクロン株)
・入院(53.4%:28.6%)
・酸素投与(3.7%:7.2%)
・ICU入室(1.5%:1.5%)
・死亡(0%:0%)

▢ 重症化リスク因子(リスク比)
(2歳未満)
・慢性肺疾患(2.2)
・神経疾患(2.0)
・心血管疾患(1.7)
・早産児(1.6)
・気道の異常(1.6)
(2歳以上17歳未満)
・経管栄養(2.0)
・糖尿病(1.9)
・肥満(1.2)

▢ ポイント
・小児における新型コロナ感染症は多くの場合軽症。
・患者数の増加に伴い、小児でも重症例や死亡例が報告されるようになった。
・新型コロナ感染で入院した18歳未満患者のうち、46%は基礎疾患がなかった。


<参考>
・「小児COVID-19軽症から中等症の治療フローチャート」(日本小児科学会、2022年9月、2023年2月改定)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新型コロナ、抗原検査の感度はPCRの6割

2023年02月03日 07時44分07秒 | 小児科診療
新型コロナの診断は、自宅で抗原キットを使用して行うことが定着しつつあります。
しかし以前から指摘されてきたように、抗原検査の感度はPCRより低いため、
「抗原検査で陽性なら確定」
「抗原検査で陰性ならPCR検査が必要」
というスタンスが推奨されています。

それから、
・発熱がない場合は陽性に出にくい
・発熱初日には陽性に出にくい
という噂も耳にします。

実際のところ、どうなのでしょう?

これらの疑問に答えてくれる記事が目に留まりました。
答えは、
・抗原検査の感度はPCRの6割
・発症後の検査時期により感度に変化はない
・症状の有無により感度に変化はない
というものでした。

オミクロン株の抗原検査、陽性判定の精度はPCRの6割…「回数を増やせば十分に実効性がある」
※ 下線は私が引きました。
 新型コロナウイルスのオミクロン株の抗原検査(抗原定性検査)で陽性を正しく判定できる精度は、PCR検査の63%だったとする研究成果を、大阪大などのチームが発表した。抗原検査はPCR検査より安く短時間で済むため、チームの村上道夫・大阪大特任教授(リスク学)は「回数を増やせば十分に実効性がある。2週間に1回のPCR検査より、週2回の抗原検査の方が、感染拡大を抑えるには効果的だ」と話している。
 抗原検査は一定以上のウイルス量が必要で、PCR検査より精度が低いとされる。チームは、オミクロン株「BA・1」が流行していた2022年1~3月、同じ日にPCR検査と抗原検査を受けたJリーグの選手ら延べ656件のデータを分析した。その結果、PCR検査で陽性だった103件のうち抗原検査でも陽性だったのは65件(63%)だった。
 感染直後は抗原検査の精度が下がる可能性も指摘されていたが、検査時期や症状の有無は精度に影響しなかった。論文が1月30日、国際科学誌に掲載された。
 京都大の長尾美紀教授(臨床病態検査学)の話「約6割というのは想定された程度の数字。抗原検査は一般の人も手軽にできるのが長所。結果が陰性でも感染している可能性があることに注意しながら、今後も活用していくべきだろう」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“ヒトメタニューモウイルス”って何?

2023年02月02日 08時42分24秒 | 小児科診療
このウイルスの名前が話題になったのは5年くらい前でしょうか。
春先になり、乳幼児の気管支炎(ゼーゼー/ヒューヒュー)が目立つ年がありました。

小児科医にとっては、乳児がゼーゼーする感染症はRSウイルスが定番です。
しかしRSウイルスは幼児期にゼーゼーすることはあまり経験しませんし、
RSウイルスは冬の前期、季節性インフルエンザの前に流行し、
インフルエンザが流行し始めると消えていく、
というパターンを取るとされてきました。

そこに登場したのが「ヒトメタニューモウイルス」。
どうやら、春先の乳幼児気管支炎の犯人はこのウイルスらしい。
RSウイルスによる気管支炎は乳児がメインですが、
ヒトメタニューモウイルスは乳児<幼児がターゲットになり、
少し年齢層が異なります。

その後、迅速検査キットが開発されて市民権を得るようになりました。
現時点では隔離期間の設定はありませんので、
診断されても「症状が治まって元気になった」ら登園できます。

ヒトメタニューモウイルスを扱った記事が目にとまりましたので紹介します。
ポイントは、

・1〜3歳の幼児で流行しやすく、2歳までに約半数、遅くとも10歳までにほぼ全員が1回は感染する。
・多くの人は何度も繰り返し感染するが、年齢が上がるにつれて徐々に免疫がつき、症状が軽くなる。
・小児の呼吸器感染症の5~10%、大人の呼吸器感染症の2~4%は、ヒトメタニューモウイルスが原因。
・春先に流行(1月から報告件数が上昇し、3~4月にピークを迎える)し、感染経路は飛沫と接触、潜伏期間は4~6日。
・咳、鼻水、発熱などが主症状で、通常1週間程度で症状は治まるが、乳幼児や高齢者では重症化することもある。
・ワクチンや特効薬はなく対症療法のみ。

RSウイルスと似ており、違う箇所を探すと、
前述のように季節と年齢層が少しずれることくらいです。
つまり、症状・診察所見では区別はできません。


■ 「ヒトメタニューモウイルス感染症」10歳までにほぼ全員が1回は感染する
(荒川隆之/薬剤師)
2023/2/1:日刊ゲンダイ Digital)より一部抜粋;
 ヒトメタニューモウイルスは、小児を中心とした急性呼吸器感染症のウイルスのひとつです。1~3歳の幼児の間で流行するケースが多いのですが、大人にも感染します。 
 初感染は生後6カ月ごろから始まり、2歳までに約半数、遅くとも10歳までにほぼ全員が1回は感染します。小児の呼吸器感染症の5~10%、大人の呼吸器感染症の2~4%は、ヒトメタニューモウイルスが原因だと考えられています。  ヒトメタニューモウイルス感染症は春先に流行することが知られていて例年1月あたりから報告件数が上昇し、3~4月にピークを迎えます。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスと同じく飛沫や接触により感染し、4~6日の潜伏期間の後に発症します。
 いわゆる風邪症状、咳、鼻水、発熱などが主症状です。通常、1週間程度で症状は治まりますが、乳幼児や高齢者では重症化することもあり、注意が必要です。多くの人は何度も繰り返し感染してしまいますが、年齢が上がるにつれて徐々に免疫がつき、症状が軽くなる傾向にあります。 
 ヒトメタニューモウイルス感染症は、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスとは異なり、ワクチンや抗ウイルス薬がなく、重症度に応じた対症療法を行います。 
 また、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスと同様に抗原検査キットによる迅速診断が可能で、鼻咽頭を細い綿棒でぬぐった後、3~15分程度で診断されます。 
 確定診断ができても治療薬がないのだから意味ないじゃないかと思われるかもしれませんが、原因ウイルスを特定することにより、不安を解消できますし、家庭内や保育施設などでの流行を把握することができます。また、何より「ウイルス感染」であるとわかれば、不要な抗菌薬の使用を避けることにつながるのです。

なお、当院ではカゼ症状に対する抗菌薬投与は最低限としており、ヒトメタニューモウイルスと診断されても治療に反映されない(変わらない)ので抗原検査は行っておりません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする