徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

卵アレルギーで注意すべきワクチン問題は解決? 〜アップデート2022〜

2022年08月19日 09時30分06秒 | 小児科診療
私が小児科医になった30数年前は、
卵アレルギー患者はインフルエンザワクチンを打ってはいけない
とされていました。
麻疹ワクチン、風疹ワクチン、おたふくかぜワクチンもそれに準じていました。
これらのワクチンは製造時に鶏卵を使うので、その成分の混入が心配されたのです。

その後、いわゆる“科学的エビデンス”が重要視される時代になり、
ワクチンに入っている卵成分はアレルギー症状を惹起する量より無視できるほど少ない
ことが判明し、アメリカではどんどん卵アレルギーで注意すべきワクチンの数が減っていきました。

日本の動きは鈍く、アメリカの様子をうかがいながら追従するスタンスが見え隠れしました。
まあ、今の新型コロナ対策と同じですね。

アメリカでは、
卵アレルギー患者と非卵アレルギー者で、インフルエンザワクチン接種後の副反応発生率に差がない
という報告を根拠に、
卵アレルギーがあってもインフルエンザワクチンは安全に接種できる
ととうとう縛りを外しました。

今回、予防接種に関する問診を作成する機会があり、
卵アレルギーとワクチンに関して「予防接種ガイドライン2022年版」で確認してみました。

すると、麻疹・風疹・おたふくかぜワクチンの項目では卵アレルギーの記述が消えつつあることに気づきました。

そして極めつけが、
インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーの原因は、卵成分ではなくワクチン蛋白そのものである
という報告の引用です。

よって、
卵アレルギーがあってもインフルエンザワクチンは接種可能
という結論が導き出されます。

ずっとこの問題をウォッチしてきた私は、
「ようやくここまで来たか・・・」
というのが率直な感想です。

ん、待てよ・・・インフルエンザワクチンの定期接種(65歳以上の高齢者)ではどうなっているだろう?

このガイドラインは予防接種ガイドラインよりも慎重な記載が続いていました。
手元にある2020年度版(最新?)を確認すると、
インフルエンザワクチンは、ウイルスの増殖に孵化鶏卵を用いるので、卵アレルギー患者が明確な者(食べるとひどいじんましんや発疹が出たり、口腔内がしびれる者)に対しては接種の際に注意を要する」(p10)
とまだ過去を引きずっています。

以上より、下記ワクチン接種の際に、卵アレルギーの有無を気にしなくてよくなったと私は判断します。

・季節性インフルエンザ
・MR(麻疹・風疹)
・おたふくかぜ

まあ、重症の卵アレルギーでアナフィラキシーの経験がある方で心配な方は精神衛生上、病院レベルで受けた方が安心、程度でしょうか。

では、卵アレルギーを気にすべきワクチンは他に残っているのか?
という問いの答えは「YES」です。それは「黄熱病ワクチン」。

黄熱病ワクチンは、海外に出かける際に、黄熱病が流行している熱帯地域に行くときに必要となります。接種すると「イエローカード」(接種証明書)が発行されるのですが、その提示がないと入国できない国際ルールがあります。


<参考>
予防接種ガイドライン2022年度版
監修:予防接種ガイドライン等検討委員会
発行:公益財団法人予防接種リサーチセンター

該当する箇所を抜粋します;

(p26)⑦予防接種不適当者
ウ 当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によって、アナフィラキシーを呈したことが明らかな者
・・・鶏卵、鶏肉、カナマイシン、エリスロマイシン、ゼラチン等でアナフィラキシーを起こした既往歴のある者は、これらを含有するワクチンの接種は行わない(ワクチン添付文書参照)。

(p88)③乾燥弱毒生麻しん風しんワクチン混合(MR)ワクチンの特徴
 弱毒生麻しんウイルスをニワトリ胚培養組織で増殖させ、また、弱毒生風しんウイルスをウズラ胚培養組織、又はウサギ腎培養組織で増殖させ・・・

(p103)③インフルエンザワクチンの特徴
・・・流行の中心となることが予想されるインフルエンザウイルスA型株(H1N1株とH3N2株の2種類)及びB型株(山型系統株とビクトリア系統株の2種類)をそれぞれ孵化鶏卵内で培養し・・・

(p104)④(インフルエンザワクチンの)接種上の注意点
ウ 卵アレルギー:現行のインフルエンザワクチンは、有精卵(孵化鶏卵)から作られ、卵白アルブミンの混入が懸念されていたが、その量は数 ng/mL と極めて微量でWHO基準よりはるかに少ない。
 添付文書には、本剤の成分又は鶏卵、鶏肉、その他の鶏由来のものに対して、アレルギーを呈する恐れのある者は接種要注意者、本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことが明らかな者は接種不適当者と記載されている。しかしながら、接種後の鶏卵アレルギーによる重篤な副反応の報告はなく、鶏卵アレルギー患者であっても接種可能である。インフルエンザワクチン接種後のアナフィラキシーは鶏卵由来のタンパクではなく、インフルエンザHA抗原によるものであることが報告されている。

(p133)【参考3】予防接種要注意者の考え方
5.接種液の成分に対してアレルギーを呈する恐れのある者
(ア)鶏卵由来成分
 卵成分が関連するワクチンはインフルエンザ及び黄熱である。
 国内の現行インフルエンザワクチンは、有精卵(孵化鶏卵)から作られ、卵白アルブミンの混入が懸念されていたが、その量は数 ng/mL と極めて微量でWHO基準よりはるかに少ない。
 添付文書には、本剤の成分又は鶏卵、鶏肉、その他の鶏由来のものに対して、アレルギーを呈する恐れのある者は接種要注意者、本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことが明らかな者は接種不適当者と記載されている。しかしながら、接種後の鶏卵アレルギーによる重篤な副反応の報告はなく、鶏卵アレルギー患者であっても接種可能である(文献1)。インフルエンザワクチン接種後のアナフィラキシーは鶏卵由来のタンパクではなく、インフルエンザHA抗原によるものであることが報告されている(文献2)。


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オミクロン株BA.5の特徴を確認してみました。

2022年08月14日 07時46分42秒 | 小児科診療
オミクロン株BA.5が世界中を席巻しています。
といっても、一番騒いでいるのは日本かもしれません。
諸外国は、どんどん制限を緩和してきて、
「新型コロナはふつうの風邪」
にソフトランディングさせつつあります。

最近、「日本の患者数が世界一」というニュースが流れました。
諸外国は検査をしなくなったので当然かもしれません。
さらに、諸外国はオミクロン株BA.1とBA.2に相当数感染済みなので、
BA.5には感染しにくいという医学的理由もあるようです。

日本は「制限のない夏休み」までなんとかたどり着いたものの、
現在も感染症報第二類相当の扱いで全数把握し続けています。

さて、流行拡大に伴いBA.5の臨床像・症状が見えてきました。

忽那賢志:感染症専門医(2022/8/13)

いったい、どの程度怖がるべきなのでしょうか。
忽那先生がまとめたわかりやすい図表を読み解いて説明します。


▢ オミクロン株BA.5の症状


武漢株〜デルタ株の頃は、咳〜呼吸困難、倦怠感、味覚/嗅覚異常がクローズアップされていました。
上のグラフを見ると、のどの痛みが特徴ではありますが、ほかは咳・鼻水、頭痛、発熱とふつうの風邪とかわらず、よく指摘される強い倦怠感・関節痛/筋肉痛は30%弱にとどまります。

私は小児科医で、日々、新型コロナPCR陽性者を診療していますが、
発熱・全身倦怠感でつらそうな患者さんがいる一方で、
咳・鼻汁というふつうの風邪症状の人もいます。

「ものを飲み込めないほど強い咽頭痛」はあまりいません。
強い咽頭痛を訴える場合は、新型コロナよりも夏風邪のヘルパンギーナを疑います。

それから、嘔気・嘔吐が目立つ患者さんも多くいて、
上のグラフとちょっと異なりますね。

小児科医の間では、
「ワクチン接種済みの子どもの方が、未接種の子どもより症状が軽い」
という印象が共通認識です。


▢ 小児患者の発熱率は高い


高齢者と比較して、子どもでは発熱率が高いという報告があります。
これは本来の症状にワクチン接種が影響していると考えられます。

もともとある季節性の風邪コロナウイルスは、
小児期から何回も罹り、
だんだん軽く済むようになり、
大人になって罹っても熱が出にくい鼻風邪に落ちつきます。

新型コロナウイルスにおいても、この性質が観察されるようです。

ワクチン接種1回は、1回感染したのと同等の免疫獲得ができます。
ワクチン接種4回の高齢者は、すでに4回罹ったのと同じと見なすことができます。
つまり軽く済むのですね。

今回のパンデミックで当初高齢者が重症化してたくさん亡くなったのは、
高齢で免疫力が落ちたタイミングではじめて罹ったから、と分析されています。


▢ 年齢別重症化率


やはり重症化は高齢者ほど多い、という現象は武漢株〜デルタ株〜オミクロン株でもかわりません。

小児でも希に重症化することはありますが、
従来からふつうの風邪でも希に重篤な合併症は小児科医の常識でした。
・夏風邪のコクサッキーウイルスによる心筋炎
・おたふくかぜの無菌性髄膜炎
・RSウイルスの細気管支炎
これらと比較しても、コロナの重症化率は突出する頻度ではありません。

小児の入院患者が増えてきたと話題になりますが、
入院しているのは肺炎ではなく熱性けいれんが多いとTVで報告していました。


 重症化するタイミング

武漢株は発症するまでに7日、デルタ株は5日、オミクロン株BA.1は3日、
と潜伏期がだんだん短くなってきましたが、
オミクロン株BA.5では2.4日とさらに短くなっています。

実際に家庭内感染では数日以内に順番に発症する現象が認められ、
インフルエンザに近い印象になりました。

重症化するタイミングも、武漢株では発症後約1週間でしたが、
現在のオミクロン株BA.5では発症後2-3日がピークとこちらも短縮してきて、
あっという間に重症化するので臨床現場が大変です。


以上、オミクロン株BA.5情報を拾ってみました。
今後も新型コロナは変異株に振り回されながら、ふつうの風邪にソフトランディングしていくものと思われます。



感染対策も、基本を抑えて、ゆるめてもよいとわかったところはゆるめて生活していきましょう。
つまり、屋内では換気を重視し、接触感染対策はある程度ゆるめてもOKということです。

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遅ればせながら、「サル痘」(Monkeypox)について調べてみました。

2022年08月11日 07時35分56秒 | 小児科診療
「サル痘」というワードがマスコミを賑わしてからしばらく経ちました。
「新型コロナがまだ終わっていないのに次のパンデミック?」
と一時期は戦々恐々となるも、どうやらパンデミックのようには広がらないようです。
しかしWHOは注意喚起をしています(2022.7.23に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言)。

一体どういう感染症なのでしょう。
我々はどのようなスタンスで向き合うべきでしょうか。
メディア(TV、ネット)情報から垣間見えることは・・・

・“サル痘”と呼ばれているがサル固有の感染症ではないらしい。
・ヒトの感染例はほとんどが男性で、いわゆるLGBTQの“ゲイ”。
・男性同士の性交渉(?)で感染しやすい。
・症状は天然痘に似ている。
・種痘(天然痘に対するワクチン)が有効らしい。

等々。

ちょっと知識を整理したいと思い、調べてみました。



【概要】
・新たな感染症ではない。
・サル痘ウイルス(Monkeypox virus, ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属(※1)のDNAウイルス、長径300nmとウイルスの中では大きい)による感染症、感染症法第4類(※2)指定感染症。
・ウイルスの分類としては水痘(ヘルペスウイルス科の水痘帯状疱疹ウイルス)とは異なる。
・元々の宿主はげっ歯類(ネズミの仲間)で、ラット、リス、サル、チンパンジー、プレーリードッグ、ウサギなどに感染する。サルも感染することもあるくらいなので“サル痘”というネーミングは適切ではない。
・感染した動物に噛まれたり、体液などに直接触れたりすることでヒトに対する感染が成立する。
・類似疾患である天然痘と比較すると感染率は低く、重症度も軽症であるが、時に重症化して死亡することもある。

※1)オルソポックスウイルス属:天然痘ウイルス、牛痘ウイルス、ワクチニアウイルスも同属。
※2)感染症法第4類:おもに動物を介して人に感染する感染症

【疫学】

<従来のサル痘>
・1970年にアフリカのザイール(現在のコンゴ民主共和国)で初めて報告され、アフリカ大陸で地域的発生・散発的流行をしていた。WHOによると1981-1986年のサル痘患者発生数は338名、1996-1997年のコンゴ民主共和国での流行では患者発生数511名。それ以外の地域ではアフリカへの渡航歴やペットとして輸入された動物などに関連した例に限られていた。
・患者からの二次感染率は数%。
・ウイルスにはいくつかの株・系統が知られており、重症化率や致死率が異なる。強毒なコンゴ盆地型とやや弱毒な西アフリカ型が代表的で、今回の流行は西アフリカ型系。
・小児や妊婦、免疫不全者で重症となる場合あり。

<今回流行のサル痘>
・2022年5月以降、欧米中心に感染拡大して問題視されるようになった(2022.7.22時点、世界で16836例)。特にスペイン、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス。
・日本では2022.7.25に初めてサル痘患者が報告された。
・今回の流行は9割以上が男性で発症しており、少なくとも60%が男性間で性交渉を行う者(MSM;Men who have sex with men)。

【感染経路】
・元々は動物由来感染症であり、サル痘ウイルスを持つ動物に噛まれる、引っかかれる、血液・体液・皮膚病変に接触しても感染する。
・今回のヒト-ヒト感染流行では接触感染・飛沫感染とされるが、2022年5月以降の患者は男性間での性交渉による接触感染がほとんどで20代から40代の比較的若い世代に多い。
・サル痘では人から人へ感染する頻度は天然痘より低い。

(接触感染)感染者の体液・皮膚病変(発疹部位)などとの接触、感染者が使用した寝具を介する感染
(飛沫感染)感染したヒトの飛沫(唾液など)を浴びて感染
(性的接触)男性間での性交渉(※)

※ )医学誌「The Lancet Infectious Diseases」(2022.8.2)に発表された研究では、サル痘患者の精液が感染拡大の源となる可能性が示唆されている。

【潜伏期間】
・7〜14日間(1〜3週間)(平均12日)

【症状】
天然痘に似ており、症状だけでは区別できない(天然痘は1980年に世界から根絶されているが)。初期には水痘とも区別できない。

・発熱
・疲労感
・頭痛
・発疹
・リンパ節の腫れ(首の後ろが多い)(頚部・鼡径部)・・・天然痘では腫れない。

【経過】
・発熱、頭痛、リンパ節の腫れなどが5日ほど続く。
・発熱1〜3日後に発疹出現。赤い発疹 → 水ぶくれ(0.5-1cmで後に膿疱化) → かさぶたという経過を取る。発疹は顔面から出現し全身へ拡大していく。水痘の皮疹は新旧混在するが、サル痘(天然痘も)ではすべての皮疹が同一段階の状態という特徴がある。
・2〜4週間で自然回復。
・死亡率は1〜10%(※1)、アメリカで起きたアウトブレイク(※2)では死亡例ゼロ。免疫不全状態では重症化しやすい。

※1)天然痘の死亡率は20~50%なので、重症度は天然痘より低い。
※2)アメリカでのアウトブレイク:2003年にガーナから輸入されたサル痘ウイルス感染愛玩用げっ歯類(サバンナオニネズミ、アフリカヤマネ)からプレーリードッグに感染が広がり、これを感染源とする流行により71名のサル痘患者が発生。病原ウイルスが弱毒な西アフリカ型だった。

<今回流行例の特徴>
・今回の流行では上記典型例とは特徴が異なるとの報告あり。
・16カ国528例の検討で、潜伏期約7日間、発熱・頭痛・リンパ節の腫れなど先行症状がない例が半数、また皮疹の状態もそれぞれの部位で進み具合が異なる事例も報告されている。
・皮疹の部位が生殖器に多い、というのが今回の流行における大きな特徴。
・症状の頻度;
(皮疹)95% ・・・肛門/生殖器(73%)、体幹・四肢(55%)、顔(25%)、手掌/足底(10%)
(発熱)62%
(リンパ節腫脹)56%
(疲労感)41%
(筋肉痛)31%
(咽頭炎)21%
(頭痛)21%
(直腸炎/肛門の傷み)14%
(気分の落ち込み)10%

【検査・診断】
・サル痘ウイルス感染症に特異的検査所見はない。
・診断にはサル痘ウイルスの存在を証明する;皮膚病変(水疱や膿疱などの内容物)、血液、リンパ節生検を検体とし、サル痘ウイルスの分離、電子顕微鏡によるサル痘ウイルスの確認、PCR法・LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法を用いたサルとウイルス特異遺伝子の検出。
・血液検査でサル痘ウイルスに対する抗体検出(※)。

※ オルソポックスウイルス属間では抗原性の交叉が非常に強く、血清診断による感染ウイルス種の同定はできない。

【治療】
・特効薬はない。対症療法のみ。
・海外(アメリカやイギリス)では天然痘に対する治療薬(シドフォビル、Tecovirimat、Brincidofovirなど)が承認されており実際に投与も行われているが、現時点では日本では未承認(国立国際医療センターでTecovirimatの臨床研究が開始されたところ)。

【予防】
・天然痘に対するワクチン(種痘)が有効。
・日本でも天然痘ワクチンのサル痘への適用拡大が厚生労働省により承認され、接触リスクの高いヒトへの接種が可能となった。
・患者看護の際は、接触飛沫感染対策(手袋、マスク、ガウン、手洗い)を行う。水痘と区別できない初期は空気感染対策も必要。

<天然痘ワクチンの歴史>
・18世紀末イギリス人医師ジェンナーにより牛痘(牛の天然痘)ウイルスから開発され、種痘と呼ばれた。
・日本では江戸時代末期に導入され、明治時代以降定期接種化。
・日本では1968年以前の出生者は2-3回の種痘歴があり、1969-1975年の出生者では1回の種痘対象となっていた。種痘の免疫持続期間は不明であるが、日本人約1000人の抗体検査では、2回以上の種痘歴がある場合、種痘後30年以上経過しても効率に抗体が維持されていたという報告あり。さらに、ウイルス特異的メモリーT細胞は種痘後数十年後でも効率に維持されていた
・1956年以降日本では天然痘が報告されておらず、1976年に国内定期接種は終了した(昭和50年以降に生まれた人は接種していない)。

<サル痘予防に使われる天然痘ワクチン>
乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」:サル痘ウイルスと同属のワクチニアウイルスを弱毒化して作成した生ワクチン。
・接種対象者:サル痘暴露リスクのある医療従事者、サル痘と診断されているモノと濃厚接触して14日以内の者。
・接種回数:1回(他のワクチン接種とは27日間の期間を開ける)
★ まず東京、愛知、大阪、沖縄の4都道府県で投与可能となる予定
★ 日本では国内で生産・備蓄している天然痘ワクチンのサル痘予防への使用が承認されている。

<アメリカのワクチン事情>(参考5より)
米国でサル痘に使えるワクチンは2種類ある。
・ジンネオス(Jynneos):2回接種ワクチン。ウイルスに曝露した人や、感染リスクのある人に接種することができる。
・ACAM2000:1回接種ワクチン。天然痘用に承認されており、サル痘にも使えるものの、このワクチンには比較的有害な副作用が多く、特にHIV患者(※)のような免疫不全の人々は注意が必要だとCDCは警告している。
 しかし現在のところ、ワクチンの供給量は、対象となる人々(男性と性交渉を持つ男性、セックスワーカー、ウイルスにさらされた医療スタッフなどを含む)の需要にははるかに及ばない。
※ 米国、英国、欧州連合の調査データでは、HIVにも感染しているサル痘感染者の割合は28〜51%だった。


参考1の資料ではサル痘・新型コロナ・季節性インフルエンザを比較一覧表にしていてわかりやすいです;


参考2ではサル痘・天然痘・水痘(水ぼうそう)の比較表を提示しています;


<参考>
3.サル痘(Medical Note)
4.サル痘(厚生労働省研究班、バイオテロ対応ホームページ)
(2022.08.10:NATIONAL GEOGRAPHIC)
岡 秀昭:埼玉医科大学総合医療センター(2022/08/02:日経メディカル)


以上、結構なボリュームになってしまいました。
調べる前と後で以下のことがわかりました。

・私は1963年生まれなので種痘を2回接種した世代、そういえば肩に接種痕が残っています。すると今でも免疫が残っている可能性あり(^^)。

・1975年(昭和50年)以降に生まれた人(現在45-6歳)は種痘接種歴がないので免疫がありません。

・元々はアフリカの地域病であったが、男性同性愛者の性交渉で感染が広がったという“性感染症”という性質が浮かび上がってきました。未確認情報では、男性性愛者を斡旋する海外ツアーがあるらしいけどそれが根源?

・ウイルスの変異があったのか明言している文章は見当たらず、なぜ今のタイミングなのかは不明。サル痘ウイルスの感染力が強まった結果とは考えにくく、男性同性愛者の性的ネットワークが感染拡大しやすい環境をつくり出したという記述も目にしました。アメリカ大陸を発見したとされるコロンブスが梅毒をヨーロッパに持ち帰り、あっという間にヨーロッパ中に広がった史実を思い出しますね。

・性行為感染がメインなので新型コロナのような広がり方はしないでしょう。

・果たして日本人は種痘を再開するのか、興味深く見守りたいと思います。種痘は天然痘が撲滅されて終了したとの文章が多いのですが、実は副反応が強いワクチンで被害者が訴訟を起こし(種痘禍)、国が負け続けて中止に追い込まれたというダークな歴史があります。これが日本人に“ワクチンは怖いモノ”という考えを根付かせた原点なのです。ただし、現在使用されている、あるいは使用されようとしている天然痘ワクチンは安全、という記述も目にしました。

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新型コロナは「空気・飛沫・接触」以外の“第四の感染経路”に注目すべし。

2022年08月06日 21時24分58秒 | 小児科診療
その第四の感染経路とは「マイクロ飛沫によるエアロゾル感染」です。
理解しにくいのは、聞き慣れない新しいワードが2つ並ぶから。

(マイクロ飛沫)空気中に漂う約5μm前後(未確定)の物質
(エアロゾル感染)病原体を含むマイクロ飛沫を吸うことによる感染

う〜ん、空気感染・飛沫感染とどこが違うの?
 → それは浮遊物質の大きさです。

飛沫感染 → “飛沫”(直径が5μm以上、マイクロ飛沫より大きい)
エアロゾル感染 → “マイクロ飛沫”(約5μm前後・・・未確定)
空気感染は → “飛沫核”(マイクロ飛沫より小さい)

つまり、病原体を含む粒子の大きさが、
飛沫感染>エアロゾル感染>空気感染
ということ。

飛沫はくしゃみの祭に飛び散る唾のイメージ。
ほかのエアロゾルと飛沫核は目には見えません。

いや、目に見えるエアロゾルもありました。
それは「タバコの煙」(後ほどまた登場)。

さて粒子が大きい程、浮遊する距離と時間が短くなり、地面や床の落ちます。

飛沫 → 1-2mの範囲に数秒で落下(ソーシャルディスタンディングの根拠)
マイクロ飛沫 → しばらく浮遊(30分?)
飛沫核 → ずっと浮遊

そして新型コロナの感染経路は、
・飛沫感染:7割
・エアロゾル感染:2割
・接触感染:1割
程度と推定されています。

では各々に対する感染対策はどう違うのでしょうか。

屋内では、
・飛沫感染 → マスク
・エアロゾル感染 → マスク+換気
・空気感染 → N95マスク+換気

が標準的でしょうか。

マスクを正しく装着すると飛沫感染(7割)を予防できますが、
エアロゾル感染(2割)に対抗できません。

十分な換気が必要です。
では換気はどの程度をイメージすればよいのでしょう。
よくシミュレーション動画で、

「部屋の窓を2カ所5-10cm開けておいて空気の流れる道を造る」
「ドアの近くに扇風機をおいて強制換気する」
「30分〜1時間に1回は窓を全開にする」

等、いろいろ言われてきましたが・・・

私は某講演で聴いたフレーズ、
「新型コロナウイルスを含むエアロゾルはタバコの煙をイメージしてください」
感染者が吐く息やくしゃみ・咳に含まれるエアロゾルは、タバコの煙を追い出すほどの換気をしないと部屋からなくなりません
に大いに頷きました。

タバコの煙はまだしも、ニオイってしばらく部屋に残りますよね。
ニオイがする限り粒子は浮遊している≒ウイルスは浮遊している、
ということになります。

部屋の窓を5-10cm開けたくらいでは、
タバコの煙やニオイはすぐになくなるとは思えません。
これはやっかいです。

やはり窓全開か、
それができなければ強制換気する以外方法はないでしょう。

タバコを吸う人は、洋服にもニオイが染み付いていますよね。
同じようにウイルスも付着しているはずなので、接触感染の原因になり得ます。

当院では“エアロゾル感染”が話題になった頃から“換気”に注力してきました。

診察室は窓の他に3カ所の出入り口を半開しており、
さらにウイルスを捕獲する空気清浄機と、
新たに設置した(音がうるさくて困るほど)強力な換気扇で、
強制換気をしています。
その結果、CO2濃度モニターは高いときでも600台(<1000が換気十分の指標)です。

そのおかげで、私を含めてスタッフの感染者はゼロ更新を続けています。


<参考>
飛沫対策とエアロゾル対策は本質的に違う〜COVID-19対策における適切な「換気」
(2022年08月02日:メディカルトリビューン)
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学校での「運動器検診」について

2022年08月02日 08時46分49秒 | 小児科診療
この度、中学校の学校医就任の依頼があり、
いろいろ調べている最中です。

その中で話題になるのが健診に含まれる「運動器検診」。
これは2016年に導入された、新しい分野です。

そのマニュアルを読むと、
以前からあった脊柱検診(脊柱側弯症の早期発見)の他に、
整形外科領域の病名が並んでいます。
小児科医の私には縁がなく、
名前くらいしかわからないものばかりです。

(例)
単純性関節炎
足部疲労骨折
下腿疲労骨折
大腿骨頭すべり症
ペルテス病
発育性股関節形成不全
先天性股関節脱臼
腱板断裂
肩甲骨高位症(スプレンゲル変形)
腋窩神経麻痺
分娩麻痺(腕神経叢麻痺)
・・・

これらを診療経験のない整形外科医以外の医師に診断しろというのは無理があります。

検索したところ、
運動器検診は整形外科医が中心に提案して実施された経緯があるようです。
それを整形外科医が担当すれば何の問題もありませんが・・・。

しかし実際に学校医を担当するのは整形外科医以外が多く、
他科の医師からは反対意見が多かったそうです。

なんだかなあ。

であれば、怪しい所見のある学童生徒は、
整形外科へ二次検診として誘導・紹介するしかありませんね。

前項の「上半身裸の学校健診はセクハラ?」で調べた際に、
形骸化・儀式化した学校健診は淘汰されて消えゆくもの、
と感じてきましたが、
「専門外のこともチェックすべし」
というヘンな横槍が入って負担が増え、
しかし報酬は従来通りで、

調べれば調べるほど、
学校医を引き受けるモチベーションが下がってきてしまいます。

どうしたもんだろう。

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新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは同時接種可能

2022年08月02日 06時08分00秒 | 小児科診療
新型コロナワクチン(mRNAタイプ)の有効性と安全性については、
イメージできる程度に日本人に認識されたと思います。

変異株への感染防御率は徐々に落ちていくものの、
重症化予防率は保たれ、
高齢者は接種回数を重ねることで自分の身を守れることもわかってきました。

現在の私の興味は、
1.オミクロン株対応ワクチン
2.インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンのハイブリッドワクチン
の有用性です。

しかしまだ市場に出回っていないので、あまり情報がありません。

そんな折、先日の政府の会議で現在単独で行われている新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種可能と決定されました。

その判断の根拠となった、新型コロナワクチンと従来のインフルエンザワクチンの同時接種の安全性を検討した報告を紹介します。

要約すると、
「インフルエンザワクチン単独と、新型コロナワクチン(ファイザー製あるいはモデルナ製)と同時接種による副反応を比較すると、ほぼ同等」
と心配には及ばないようです。


■ コロナとインフルワクチンの同時接種での副反応、ファイザー製vs.モデルナ製
ケアネット:2022/08/02)より抜粋;
  
 日本国内でも先日開催された厚生労働省の厚生科学審議会・予防接種・ワクチン分科会にて、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種が了承された。世界ではすでに同時接種を行う例もあり、米国・CDC COVID-19 Response TeamのAnne M Hause氏らが同時接種による有害事象の増加有無、ワクチンメーカーによる違いについて調査した結果、新型コロナワクチンのブースター接種とインフルエンザワクチンを同時接種した者は新型コロナワクチンのみを接種した者と比較して、接種後0~7日の全身反応の報告が有意に増加していたことが明らかになった。ただし、それらは軽度~中等度であること、また、同時接種による調整オッズ比[aOR]はファイザー製で1.08、モデルナ製で1.11であったことも示唆された。本研究はJAMA Network Open誌2022年7月15日号に掲載された。

・・・用いたデータはv-safe*から収集したもので、12歳以上の2021年9月22日~2022年5月1日のワクチン接種後0〜7日目の情報(接種部位反応[注射部位疼痛]と全身反応[倦怠感、頭痛、筋肉痛…]および健康への影響)だった。

・v-safeに登録されている12歳以上98万1,099例のうち、9万2,023例(9.4%)が新型コロナのブースター接種とインフルエンザワクチン接種を同時に行った。女性が5万4,926例(59.7%)、男性が3万6,234例(39.4%)で、性別不明は863例(0.9%)だった。
・年齢構成は、12〜49歳が3万7,359例(40.6%)、50〜64歳は2万3,760例(25.8%)、65〜74歳は2万4,855例(27.0%)、75歳以上は6,049例(6.6%)だった。
・ワクチン接種翌週の回答によると、ファイザー製とインフルエンザワクチンを同時接種したうちの3万6,144例(58.9%)と、モデルナ製とインフルエンザワクチンを同時接種したうちの2万1,027例(68.6%)が全身反応を報告し、ほとんどの反応は軽度または中等度だった。
・報告はワクチン接種の翌日が最も多く、その症状は倦怠感、頭痛、筋肉痛だった。ファイザー製とインフルエンザワクチン同時接種群(6万1,390例)とファイザー製単独群(46万6,439例)を比較した場合の報告割合は、接種部位反応(注射部位疼痛):62.2% vs.61.1%、疲労:44.2% vs.43.6%、筋肉痛:33.2% vs.33.4%、頭痛:33.7% vs.34.8%だった。一方、モデルナ製群(3万633例)とインフルエンザワクチン同時接種群(42万2,637例)では、接種部位反応(注射部位疼痛):70.6% vs.67.4%、疲労:52.8 vs.48.9%、筋肉痛:43.6 vs.39.6%、頭痛:43.1 vs.40.3%だった。
・インフルエンザとワクチンと同時接種した場合のファイザー製とモデルナ製でのaORを算出したところ、さまざまな全身反応については、ファイザー製が1.08(95%信頼区間[CI]:1.06~1.10)、モデルナ製が1.11(同:1.08~1)だった。接種部位反応については、ファイザー製が1.10(同:1.08~1.12)、モデルナ製が1.05(1.02~1.08)だった。
・さまざまな健康への影響についてはファイザー製が0.99(0.97~1.02)、モデルナ製が1.05(1.02~1.08)だった。そのうち、通学や業務への支障は、ファイザー製が1.04(1.01~1.07)、モデルナ製が1.08(1.04~1.12)だった。
(ケアネット 土井 舞子)

<原著論文>

<参考文献・参考サイト>

なお、現時点ではインフルエンザワクチン以外のワクチンと新型コロナワクチンの同時接種は認められていません。
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