BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ

2011-11-13 16:28:53 | Boxing
王者 マニー・パッキャオ VS 挑戦者 ファン・マヌエル・マルケス

パッキャオ マジョリティーディシジョンで勝利

考察 ~パッキャオ~

管理人採点ではドロー。
最初スコアが読み上げられた瞬間には「すわ、ユナニマスドローか?」
結果はパッキャオの勝利だが、これはかなり分の悪い勝利。
というかジャッジが好意的だったと言っていいかもしれない。

仕上がりが悪かったとは思わないが、良かったようにも見えなかった。
ベストなウェートであることは間違いないが、
ある意味それ以上に重要なメンタルのコントロールを狂わせた、
もしくは狂わされた影響が実戦にも顕れていた。
マルケスの言動やパフォーマンスTシャツに激怒していたと報じる記事を読んで
言い表しようのない不安を覚えたファンは多かったことだろう。
贔屓の選手の常ならぬ言動に変調を感じるのがファンだからだ。

試合では潜在的なカウンターへの恐怖感がところどころで顔を出していたように思う。
このレベルに達しても過去の亡霊が蘇ってくるのか。
また踏み込んでの左ストレートがことごとく空を切ったのは、
打ち出しのタイミングを読まれていたからだ。
おそらくほんのちょっとした目線の動き、爪先や肩、胸の筋肉の動き、
微妙な息遣いに至るまでじっくり研究、観察されており、
そのことを察知したがゆえの不気味さも手伝って、
あの異常なペースの踏み込みが最後まで見られなかった。
ただし小さい右フックはそこここで当たっており、
ダメージングブローにはならなかったが、ポイントを奪う一助として機能した。
これは終盤近くになって見せ始めた左アッパーについても当てはまる。

力が落ちたとか、調整失敗だとかではなく、peace of mindを失ったことが苦戦の最大の原因。
ボクシングにおいて psychological game はしばしば策として弄され、
実際に心理的に乱されて勝てるはずの試合を落とした選手は歴史的に多い。
最大の例としてはやはりキンシャサの奇跡(アリの"You've disappointed me!")。
そのフォアマンに敗れた人間機関車ジョー・フレイジャーが試合前に追悼されたのも
パッキャオの縁と言えるのかもしれない。


考察 ~マルケス~

本人としては完璧なプランで臨み、そして完璧にプランを実行したのだろうが、
あと一歩が足りなかった。
パッキャオを懐まで踏み込ませないまでは確かに完璧。
しかし、攻め込ませていてはポイントを取り切れるものでもない。
ジャッジに対して圧倒的な(=三者が一致するような)印象を与えなければ
今のパッキャオから判定を奪えるものでもない。

それでもプラン自体は素晴らしく練り上げられており、
なぜマルケスがパッキャオに分が良く、他のボクサーはそうではないのか
という疑問に一定の答えが出たようにも思う。
まず異口同音に語られる「パンチが見えない」について。
これは少し前述もしたが、パンチを見るのではなく、
踏み込みの予兆を見ることでかなり解決する問題ではないか。
パンチを時速40km、ボクサー間の距離を1mとしたとき、
そもそもパンチに反応できるものではない。
マルケスは他のボクサーが勘で把握できない部分を超えて
パッキャオを視ているのだと考えられる。

もう一つはガードの置きどころについて。
ハットンは残念ながら論外、クロッティは全く逆ベクトルで論外。
コット、マルガリートらとマルケスを比較するに、
前者はガードをアゴ、テンプルにがっちりと貼り付け、
後者は打ち易さだけでなくパリーも意識した、どちらかというと
キックボクサーにも見られるようなガードの位置。
これが実はパッキャオにとって攻略しづらい、
いわば先回りする空間ガードになっているような気がする。

当日150lbでよくバランスを崩さないものだと感心するが、
年齢以外の要素でやはりスタミナを減じていたようだ。
ライト級に帰る気はどうもなさそうだね。
Chapter 4 はさすがに勘弁して欲しい。