BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

Nashiro - Cazares : The Post-Fight Report Card

2009-10-03 00:35:14 | Translated Boxing News
名城信男 vs ウーゴ・カサレス:試合後の総括

クリフ・ロルド氏の記事をまたまた翻訳の上お届けします。
北米地域でのこの試合の評価は日本のコアなボクシングファンなら
興味がおありだと思いますので。
語訳その他の事実との齟齬は翻訳者の涼しい木星の文責に帰します。
原文はhttp://www.boxingscene.com/?m=show&id=22561を参照のこと。


スポーツには勝者と敗者が存在する。

そうではないケースもまれにある。

引き分けとは自分の妹にキスするようなものだと言い伝えられているが、今週水曜日、日本は大阪の地で
両者が血と汗を弾けさせながら壮絶に打ち合った死闘の後に、WBAのSフライ級「正規」王者の名城信男
(13勝1敗1分8KO)と挑戦者にして元世界Lフライ級王者のウーゴ・カサレス(30勝6敗2分22KO)
のどちらが妹にキスしたかなど論じられそうにない。

引き分けは好ましい結果ではないが、引き分けこそが次につながる最も公正な道となることも時にある。この試合が
それだ。全ラウンドの映像を求めてYouTubeを検索してみたが、1~8、最終12ラウンドのみフルで視聴でき、
9~11ラウンドはハイライトでしか観戦できなかった。ゆえにここでは試合の採点はしない。しかし、ハイライト映像と
殿堂入りも果たしたジョー小泉によるFightNews寄稿の素晴らしいレポートから分かるように、引き分けという結果はいかなる
論議にも利さない。

全ラウンド視聴可能な部分を観る限り、再戦のメリットはある。今年2月のファン・マヌエル・マルケス対ファン・ディアスの
桁外れのライト級王座頂上決戦には及ばないものの、名城vsカサレスはものすごい試合で今年の最高の試合の一つに位置づけられる。

両者の総括をしてみよう。
試合前の戦力比較                   試合後の戦力比較 
スピード:  名城 B+  ; カサレス B  /  名城 B+ ; カサレス B+
パワー:   名城 B   ; カサレス B+ /  名城 B+ ; カサレス B+
ディフェンス:名城 B   ; カサレス C+ /  名城 B  ; カサレス B
精神力:   名城 B   ; カサレス B+ /  名城 A  ; カサレス A

カサレスは108lbでの対イヴァン・カルデロンとの二戦では減量で消耗しきっていたように見えたが、今では
115lbに完全に順応しており、スピードと構えにシャープさを増している。サウスポーの基本に忠実に戦いながらも、
リング中央での打ち合いにも長時間にわたって応じ、アップライトのスタンスから時にカウンターパンチャーに、
時に侵略者の如く攻め込み、試合の前半を戦ったカサレスは、最初の2ラウンドで名城を手ごわい相手だと悟った。
大きな右のパンチを数発もらい、インサイドでは印象的な左フックも2発ほど被弾した。3ラウンドまで名城のラッシュの
タイミングを測り、そこで一瞬王者にたたらを踏ませる場面も訪れたが、またもラッシュを止める努力を強いられた。
名城は第4ラウンドをきわどく押さえたが、カサレスはラフなアタックで5、6ラウンドを連取、試合をイーブンに戻した。

カサレスの勢いは7、8ラウンドにも持ちこされ、そして第8ラウンドに突入。アドレナリンの分泌にかけては今年最高の
3分間の一つとなったラウンドだ。左をリードにカサレスが切り込んでいくと死闘が幕を開け、両者互いに打ちつ打たれつ
を演じる。残り30秒でカサレスがスリップダウンをするが、これさえなければラウンドの流れからして年間最高ラウンド
だった。

いずれにせよ仮定の話である。9~11ラウンドのハイライトを見る限りでは優勢だったのは名城だった。より勢いのある
連打を繰り出し、クリーンなパンチを当てたのは名城だったからだ。だがカサレスも常に反撃していた。最終ラウンドには
名城が右の大砲2発をコーナー近くで命中させ、カサレスをぐらつかせた。メキシカンは判断を誤らずクリンチし、脚を動かし、
再び応戦したが、日本人王者は断固たる決意をいささかも緩めることなく戦い切った。

この試合が観衆が支払った円に見合う価値のあるものだったことは確実である。

パワー面では両者とも相手をぐらつかせたが、根性と顎のタフさ、そして両者とも一発KOアーチストではなかったという
幸運で耐えしのいだ。体格の割には両者ともハードパンチを振るったが、パンチのハードさはKOには至らず、
互いのグローブが交錯し続けるという展開にとどまった。ディフェンスでは名城が若干上回っており、腕と肩で相手の左を
何度も受け流したが、カサレスも主導権は握っていたものの、ショートレンジでは名城のパンチをもらってしまった。

両者を称えるならば、二人ともトレーニングでは得られない部分で最高点をマークしたと言える。両者とも精神力、プライド、
意志の力でラウンドを重ねるごとに激しさを増す試合を戦い抜いたのだから。また、緊張感が極限まで高まり、熱気がいや増すなか、
両者ともに屈することを最後まで拒んだのだから。

今後の展望

プロ5戦目でベテランの本田秀伸を打ち負かして以来、これまでに対戦してきた相手の質の高さを考えると
名城がこれでプロ14戦目を終えたばかりだというのは驚天動地だ。そこから足掛け11戦での対戦相手の成績を
合計すると260勝56敗5分、これには傑出した王者のマーティン・カステイーリョやアレクサンデル・ムニョスも
含まれている。そこへもってきて今度はカサレスである。

カサレスとは再戦が行われなくてはならない。

両者ともに自分が勝ったと興奮するに足る理由を数多く持っていたが、実際は誰の腕も勝者として高々と掲げられることはなかった。
再戦があるとすれば、より幅広い層、つまり我々アメリカ人にも視聴可能であることを願おうではないか。両者とも同階級に
三人のタイトルホルダーを認めているWBAとか言う団体の、いくら頭をかきむしって考えても釈然としない論理の元でリングに
上がったのだ。ヴィック・ダルチニャン(32勝2敗1分26KO)が同階級の本当の世界王者で、「スーパー王者」の称号を持つ
一方で、ノニト・ドネア(22勝1敗14KO)が「暫定」王者だという。不自然極まりないかもしれないが、ダルチニャンvsドネアⅡに
名城vsカサレスⅡもセットにしたカードはボクシングにとって最高の一夜となろう。

そのカードの勝者同士が激突するというのは論理的にも可能性の面からも大いに見込みがある話だ。

今でもボクシング界のプレミア階級の一つであるSフライ級の今後に希望を抱き続けようではないか。

追記
FightNewsのジョー小泉の記事に目を通してみたが、この人の英語は凄いね。
不自然なまでにナチュラルな英語になっている。
仕事以外でもかなりの英語の読み書きをしているのだろう。
英語に自信のある人はこの記事の原文とジョー小泉の記事、
両方を読んでみてください。
ボクシング記事かくあるべしという格好の見本になっている。
ボクビー、ボクマガの記者もこれだけのpassionとfashionで記事を書いてほしいものだ。