喫茶 輪

コーヒーカップの耳

『歩』第四歌集

2024-03-19 11:03:30 | 文芸
但馬に住む従姉からお贈りいただきました。


その従姉が指導するグループの歌集です。
一年間の結晶ともいえるもの。
50ページ余りあるこの冊子、その10人が役割分担して力を合わせ作成したとのこと。
作品を読むとほぼ尊年の様子。「尊年」とは昔の中国で使われていた高齢者を指す言葉。

ご苦労様でした。
中にたどたどしさも見えます(門外漢のわたしが言うことではないかもしれません)が、皆さん、誠実に歌に向かっておられます。
作品には純真さが漂っています。

わたしの印象に残った歌を順にあげて見ます。
素人のすることなので、作品の良否は責任持てませんが。
10人それぞれが24首ずつ載せておられます。
括弧内はわたしの寸感です。

足立幸子さん
  夕陽背にお尻振りふり歩く影その自らの影の可笑しさ        (自分を客観的に捉える視線)
  幼き日に祖母と廻した糸車 木屋の片隅が今も脳裏に
  石橋に江戸期の石工の刻みしか往時の文字の擦るるを撫づ      (この視線も貴重)

足立ゆう子さん
  朝ドラに生まれし赤子の名は「歩」その朝ドラに親しみの増す
  重症にてヘリに運ばれ行く兄を見守りおくれ朧月光         (朧月が効果的)
  天仰ぎ感謝と祈りをささやけば笑みくるる星を両手に包む
  断捨離にて札の「伊藤博文」の挟まるる本は抱きしめており     (ユーモア!)

今村明美さん
  池の面の浮き来る鯉の口髭をくすぐり揺るる桜はなびら       (情景が活き活きと)
  小春日の届くベンチに並びいて君と「四季の歌」をハミング
  ふわふわと風船かずらの揺るる道 術後の君の試歩に寄り添う    (心根がよく見えます)
  三歳が口から出まかせ読む絵本「はらぺこあおむし」お気に入りにて (ありますね、子どものこの仕草)
  ホスピスの友の部屋を訪れて肩寄せ窓に夕陽みている

うぐ森まる美さん
  芽を出せるチューリップの球根が春はまだかとひそひそ話      (童心が)
  新しい本の表紙を撫でてみるその指先は期待に満ちて        (本好きの心が)
  見上ぐれば満天の星 恐竜も同じ場所から見上げたりけむ
  
大垣ひとみさん
  自らは抗うこともままならず伐採されゆく木ぎの嘆きよ       (木は大切にしたいです。長い年月が二度と戻らない)
  赤黒く月が食われるその様は未知なる宇宙の営みならむ
  ざぁざぁと降り頻く雨音その中に調子はずれの音の紛れて       (鋭い感性)
  亡骸になりても煌めく玉虫を掲げる蟻の葬列が行く

中治やゑ子さん
  映画館に小声に囁くふたり連れ 恋をしていたころ思い出す
  見上ぐれば満天の星 君と居て今なら言える「ありがとうね」と   (心情があふれて)

中島寿美子さん
  注連飾りを綯いいる息子のその背はこの頃そっくり夫に似て来て   (温かさがあふれていて)
  「内緒ね」とささやき呉るる孫の声優しく甘く耳をくすぐる     (孫の声は息まで甘い)
  
羽淵千都子さん 
  諦めず本気でやれば叶うもの地道ながらも続けてゆかむ       (続けて下さい)
  初ひまごの男の子抱けば間をおきて次から次へ夢は広がる      (ひ孫ですか。いいなあ)

羽淵維子さん
  きらきらと水平線が光る朝自分を包みて呉るるこの陽よ
  「過ちを洗い流せ」とさざ波が波打ち際にささやきくるる
  「大丈夫、自分を信じて!」満天の星は輝き励ましくるる       (わたしも励まされます)
  黒豆が鞘から一つ転がるに「さみしくない?」孫のささやく     (子供の言葉は宝石ですね)
  盤上にパチリパチリと夫が打ち傍に碁石を並べる幼子
  折り紙を孫にせがまれ幾重にも折り跡のこし「くじら」完成
  出番待つ孫がその母見つけ出し笑顔がもどりてスタートを待つ
  待望の命の芽ばえを知らさるる「まだ内緒ね」とはずんだ声に
  間をあけず話す切り札「あれあれ」と脳は必死に「あれ」を探して  (同感)

古屋鶴江さん
  ポトポトと落ちる点滴ベッドより見上げ元気な日常おもう      (わたしにも経験があります)
  うら若きナースの清拭受けにつつ米寿のこの身は感謝あるのみ
  高齢の仲間が集まり耳元に話しているにてんでばらばら       (笑っちゃいます)
  畑にてトマト・胡瓜を捥ぎ取りて頬張る孫の夏休みかな       (孫はいいですね)

 
これで10人分ですが、この後「リレー短歌」というページがあります。
これが面白いです。

みなさん吹っ切れて書いておられます。
なんとも色っぽい。
華やぎが感じられます。
いいですね。若返って書いておられます。

楽しませてもらいました。ありがとうございます。
コメント
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