
ショパン:バレエ音楽「レ・シルフィード」
ドリーブ:バレエ組曲「シルヴィア」
バレエ組曲「コッペリア」
オッフェンバック:バレエ音楽「パリの歓び
ファリャ:バレエ「三角帽子」の三つの舞曲
グノー:歌劇「ファウスト」よりバレエ音楽
指揮:ユージン・オーマンディ
管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団
CD:CBS/SONY 52DC 375-6
ユージンン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団は、わが青春の思い出と言ったらいいのか、名前を聞いただけで何かあの“フィラデルフィアサウンド”が自然に聴こえてきそうで、心が浮き立ってしまう。それほど当時は、定番の指揮者・オーケストラとして有名であったわけである。ユージン・オーマンディは“音の魔術師”と言ってもいいほどオーケストラから音を引き出すことに長じており、当時のフィラデルフィア管弦楽団はオーマンディの要求に万全のテクニックで応えることのできる力量を持ったオーケストラだった。このフィラデルフィア管弦楽団の3代目の指揮者がレオポルド・ストコフスキーであり、ストコフスキーのめがねにかなったのがオーマンディというわけである。オーマンディは以後実に42年の長きにわたって同管弦楽団の常任指揮者の地位に留まった。42年間というから凄いの一言だ。こんな例はほかにはないのではないか。いかにオーマンディが楽団から信頼されていたかが分かろう。
このオーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団の名コンビにより、有名なバレエ音楽を収録したのがこのCDである。CDが市場に提供されてから2年半後にこのCDが発売されたようだが、今聴いてもその音はみづみづしく息づいているのは真にうれしいことだ。ライナーノートによると「このマスター・テープは、今回特に米CBSに依頼して、当時の3~4チャンネル・オリジナル・テープからデジタル2チャンネルに新たにトラックダウン(ニュー・リミックス)し直したもの」という。このためマスター・テープさながらの新鮮で迫力に溢れたフィラデルフィアサウンドを聴くことができる。例えば、ドリーブのコッペリアなどは、音だけを聴いてもバレリーナの踊りが自然と目に浮かび上がるほど、真に迫る演奏に感動させられる。クラシック音楽は、ベートーベンやブラームスあるはワグナーなど何か哲学みたいなものが背景にあるのが優れていて、バレエ音楽などは踊りの付随音楽と考えられがちだが、決してそんなことはない。オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団のこれらのバレエ音楽を聴くとそんな既成概念はどこかに吹っ飛んでしまうほどで、つくづく「クラシック音楽っていいな」と感じさせてくれる名盤となっている。
残念ながらこれまで私は1回だけしかバレエ公演をみたことがない。東京・初台の新国立劇場で見たが、バレリーナの踊りの迫力に圧倒されて、どういうオーケストラの伴奏がなされていたのか、記憶に残らなかった。何回も見れば音楽にも集中できるのであろうが、1回ではななかなか難しい。さらに、幕間の休憩時間ではロビーはさながら女子高校か女子大の謝恩会の雰囲気で、男の姿はほんの少しという状況では、正常な判断はつきかねる。多分、DVDでもバレリーナの姿に目が行き、音楽の方はお留守になるのではないか?バレエ音楽を聴くには修行するような心構えで臨まねばなるまい。そんなわけで、バレエ音楽を聴くにはCDが最適だというのが私の結論だ。CDなら音楽だけに集中できる。その中でもオーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団の演奏は、バレエの伴奏という範疇を超え優れたオーケストラ作品として十分に堪能することができる。“たかがバレエ音楽、されどバレエ音楽”なのだ。(蔵 志津久)