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◇クラシック音楽CDレビュー◇ジャニーヌ・ヤンセンのメンデルスゾーン:バイオリン協奏曲ホ短調 /ブルッフ:ヴィオラと管弦楽のためのロマンツェ /ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番

2020-03-10 09:34:22 | 協奏曲(ヴァイオリン)


メンデルスゾーン:バイオリン協奏曲 ホ短調
ブルッフ:ヴィオラと管弦楽のためのロマンツェ
      ヴァイオリン協奏曲第1番

ヴァイオリン/ヴィオラ:ジャニーヌ・ヤンセン

指揮:リッカルド・シャイー

管弦楽:ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団

録音:2006年9月5日~9日、ライプツィヒ、ゲバントハウス(ライヴ録音)

CD:ユニバーサルミュージック UCCD‐52019
 
 ヴァイオリンのジャニーヌ・ヤンセン(1978年生まれ)は、オランダ、ユトレヒト州出身。ユトレヒト音楽院で学ぶ。14歳でオランダ放送交響楽団と共演してデビュー。2003年にはデッカと専属録音契約を結ぶ。その後、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団など、世界の主要オーケストラと共演を重ねる。 2000年にヴァレリー・ゲルギエフ指揮ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーにソリストとして参加し、初来日。2012年には日本での初めてのリサイタルを開催。最近もしばしば来日を果たしている。また、ソロ活動のほかに室内楽にも積極的に取り組み、2003年「ユトレヒトに国際室内楽フェスティバル」を創設し、自ら音楽監督を務めている。 2003年「オランダ音楽賞」を受賞したほか、これまでに「エディソン・クラシック聴衆賞」「エコー賞」「ドイツ・レコード批評家賞」「NDR音楽賞」など、数多くの賞を受賞している。
 
 指揮のリッカルド・シャイー(1953年生まれ)は、イタリア、ミラノ出身。1972年から2年間、クラウディオ・アバドの元でミラノ・スカラ座管弦楽団の副指揮者を務めると同時に、同年、ミラノのテアトロ・ヌオーヴォでオペラ指揮者としてデビューを飾る。 1978年にはミラノ・スカラ座でデビューを果たし国際的な注目を集める。ベルリン放送交響楽団(現在のベルリン・ドイツ交響楽団)首席指揮者、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団常任指揮者、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団音楽監督、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団第19代カペルマイスター、ライプツィヒ歌劇場音楽総監督を歴任。2016年より、ルツェルン祝祭管弦楽団音楽監督、2017年より、ミラノ・スカラ座の音楽総監督を務めている。
 
 メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 Op.64は、1844年に作曲された。ドイツ・ロマン派音楽を代表する名品で、ベートーヴェン、ブラームスと並んで、3大ヴァイオリン協奏曲と称される。 この曲は、3つの楽章からなっているが、これらを中断なく続けて演奏するよう指示がされている。この曲でのジャニーヌ・ヤンセンの演奏は、華やかな演奏を指向せず、あくまで足を地にしっかりと付け、一音一音を確かめるように弾き進む。しかし、一見地味な演奏のように感じられるが、その分内に秘めた情熱の密度が濃く、それが聴き進むうちに徐々にリスナーの心の内に染み渡って行くのである。一方、リッカルド・シャイー指揮ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団は、時折メリハリが強く感じられる伴奏を見せ、ジャニーヌ・ヤンセンのヴァイオリン独奏を奥行きのある演奏へと導くことに成功しているようだ。曲の本質を見極めるようなジャニーヌ・ヤンセンの演奏は、とかく表面的に流れ易い現在においてこそ、評価されるべきであろう。
 
 エルネスト・ブルッフ(1880年―1959年)はスイス、ジュネーブ出身の作曲家。アメリカで活躍し、アメリカにおける新古典主義音楽の興隆を推進した。 1920年新設されたばかりのクリーブランド音楽学校の首席音楽監督に就任し、1925年までその任を務める。その後、1930年代はスイスに帰省していたが、後にアメリカに戻った。 初期作品は、新ドイツ楽派のリヒャルト・シュトラウスや、フランス印象主義音楽のドビュッシーの両方からの影響を受け、成熟期の作品は、主にユダヤ教の典礼音楽やユダヤ人の民俗音楽をベースとしている。ヴァイオリン協奏曲第Ⅰ番、チェロと管弦楽のための「コル・ニドライ(ヘブライの旋律)」は、現在でも演奏会でしばしば取り上げられる。
 
 ブルッフ:ヴィィオラと管弦楽のためのロマンツェOp.85は、1911年に出版された作品で、ソロ楽器として取り上げられるのが珍しいヴィオラが主役を務め、美しい旋律を朗々と奏でるブルッフのあまり演奏されることのない佳品。この曲でのジャニーヌ・ヤンセンのヴィオラ演奏は、一層、内面的な美しさ溢れるものとなった。ヴィオラは、それ自身主役となることはあまりないが、オーケストラの中核を担う重要な役割を持つ。そんなヴィオラの特質をジャニーヌ・ヤンセンは熟知しており、色彩感覚豊かな旋律をヴィオラの落ち着いた響きで、しっとりと聴かせてくれて、聴き応え十分。
 
 最後の曲は、ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 Op.26。この曲は、ブルッフの代表作であり、古今の数あるヴァイオリン協奏曲の中でも広く愛好される作品の一つ。1864年に着手され1866年に完成したが、友人のヨーゼフ・ヨアヒムに助言を求めて大規模な改訂を進め、この改訂版は1868年に完成した。ブルッフは第2番、第3番のヴァイオリン協奏曲も作曲したが、現在では、ブルッフのヴァイオリン協奏曲というと第1番を指すことが多い。全部で3つの楽章からなる。この曲でのジャニーヌ・ヤンセンの演奏は、何か満を持していたものを一挙に吐き出すように、完成度の高い仕上がりを見せた演奏内容となった。ここでのジャニーヌ・ヤンセンの演奏は、繊細さと大胆さとがうまく組み合わさった内容を見せる。ここでも内に秘めたエネルギーは高い。優美な旋律を奏でるジャニーヌ・ヤンセンのヴァイオリン演奏の巧みさは、その繊細な表現力を聴けば万人が納得するであろう。(蔵 志津久)
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