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たんぽぽ計画:生命の源、宇宙で探せ 11年にも「きぼう」で=国際宇宙ステーション

2008年07月06日 | 宇宙へ
 地球上の最初の生物はどのようにして誕生したのか? 「生命」の根源的な謎の解明に挑む実験が計画されている。舞台は国際宇宙ステーション(ISS)に設置された日本の有人宇宙施設「きぼう」。宇宙を飛び交う「ちり」を捕獲し、その中から生命の誕生につながる有機物を探し出す。宇宙を飛び交う生命の種をイメージし、計画は「たんぽぽ」と名付けられた。早ければ11年にも実験が始まる。【奥野敦史】

 ◆最初の「命」どこから

 最初の生命は宇宙から来た、という説は、20世紀初頭、スウェーデンの物理化学者でノーベル賞受賞者のスバンテ・アレニウスが唱えた「パンスペルミア仮説」が有名だ。長年、少数意見の域を出なかったが、96年、米航空宇宙局(NASA)が「南極で見つかった火星由来の隕石(いんせき)に生命の痕跡を発見した」と発表し、この説が注目を集めた。

 この痕跡は後に「生命活動でなくても生じる」とされたが、逆に地球上の微生物が火山の噴火で宇宙に飛び出している可能性も指摘され、宇宙空間での生物の移動についての検討が始まった。宇宙生物学(アストロバイオロジー)とも呼ばれる分野だ。

 従来の研究手法は主に二つ。宇宙から降ってくる隕石の解析と、気球や飛行機、ロケットを使った高空での微生物・有機物採集だ。しかし、隕石は大気圏に入った時点で地球の生物や有機物が付着する問題がある。気象観測ロケットを使った方法では、高度58キロで細菌が採取された例が最高で、宇宙を含むそれ以上の高度での調査は不可能だった。

 ◆粒子を採集、分析

 「たんぽぽ」計画には、東京薬科大、横浜国大、宇宙航空研究開発機構(JAXA)など、9大学・機関の研究者約20人が参加する。研究の要は二酸化ケイ素で作った「シリカエアロゲル」という板だ。縦横10センチ、厚さ2センチのタイル状の板数十枚を、高度約400キロを周回するきぼうの船外実験施設に張り付け、宇宙にさらす。板は宇宙空間を飛び交うさまざまな粒子を、スポンジのように受け止め、それを1~5年後に回収して、地上に持ち帰り分析する。研究チームの代表を務める山岸明彦・東京薬科大教授(極限環境微生物学)は、この実験で「何らかの有機化合物を採集できる可能性は十分ある」と言う。

 宇宙空間にある分子の雲に宇宙線(高エネルギーの放射線)が当たると、アミノ酸の20~30倍もの大きさの有機化合物「複雑有機物」ができることが、地上での実験で分かっている。さらに複雑有機物を分解するとアミノ酸ができる。

 原始の地球では、大気中のメタンなどが、雷の作用などで有機化合物になり、たんぱく質や核酸ができたと考えられている。だが、この作用だけで十分な量の有機化合物ができたかどうかが疑わしい。山岸教授は「当時、宇宙から大量に降っていたちりに含まれる複雑有機物が、有機化合物の供給源だったのでは」と指摘する。

 ◆生物は火星まで?

 一方「たんぽぽ」計画では、地球の生物が宇宙を遠く旅する可能性も探る。数種類の細菌を地球から持ち出し、きぼうで長期間宇宙空間にさらし、どれほど生存できるかを調べる。

 ほぼ真空状態で超低温、さらに強烈な紫外線を浴びるという宇宙の厳しい環境に、細菌をそのままさらすとあっという間に死滅する。しかし山岸教授は「地球上の微生物は、火山の爆発などで土砂と一緒に宇宙に飛び出す可能性がある。その場合、直径数ミリ程度の粘土などに細菌が包まれて休眠状態になり、かなり長期間生き続けるのではないか」と推測する。数年間生きることが確認できれば、地球の生物が火星まで“漂着”している可能性すら出てくる。山岸教授は「従来の生物学の常識を覆す発見をしたい」と話している。

 ◇超軽量ゲルでキャッチ
 たんぽぽ計画が捕獲しようとしている「ちり」は、地球の周りを超高速で飛び交っている。「きぼう」との衝突速度は最大、秒速約16キロにも達する。これを壊さぬよう、やさしく受け止めるのが「シリカエアロゲル」だ。

 新開発のゲルは体積の99%以上が小さな穴でできており、重さは1立方センチあたり0・01グラム。受け止めたちりを、摩擦熱で変質させないよう、すき間だらけで軽いものの開発が進められてきた。今回のゲルは、従来のものより3倍も軽くなり、持ち上げても重さを感じないほどだ。

 チームはこのゲルの性能実験も行った。細菌を粘土と混ぜてポリカーボネート製の弾丸に入れ、秒速4キロでゲルに衝突させ、細菌を採取できることを確認。今後、さらに衝突速度を上げて実験する予定だ。

[毎日新聞 2008年07月06日]

http://mainichi.jp/select/science/news/20080706ddm016040063000c.html