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「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年アメリカ映画)

2013年03月11日 | 映画の感想・批評
 2時間40分に及ぶ長尺の力作である。しかし、その長丁場を感じさせないほど、この映画は緊迫感に満ちており、しかも力強い。女性とは思えないキャスリン・ビグロー監督の力わざにはいつもながら感心する。
 米国人には、いまわしい記憶としてアメリカ同時多発テロ事件(9.11テロ)がある。CIAは首謀者であるビン・ラディンの行方を血眼で捜す。担当官の女性は中東へ飛び、現地のCIA関連施設にとらわれたアルカイダの情報運び人の尋問に立ち会うが、いきなり苛酷な拷問を目の当たりにしてひるむ。しかし、そのうち、彼女自身が拷問を指示し、テロリストには人権などないとばかりに、ビン・ラディンにつながる幹部の居所を吐くよう迫るのである。度重なるテロが起きて同僚を犠牲にされ、彼女の公憤はやがて私憤へと変質して行く。ここが恐い。ビン・ラディンの隠れ家と推定される場所を特定したとき、彼女の心の中に明白な殺意があらわれ、実行部隊に必殺を指示するところは、もはや国家対テロリストの対立軸を逸脱して、個人的な怨恨が戦争を遂行するうえできわめて重要な要素であることを暴いて見せる。すなわち、国家はそうした個人的感情を利用して愛国心を煽り、国民を戦争に駆り立てるのである。
 深夜の0時30分(原題)に実行部隊が隠れ家を急襲し、ビン・ラディンと思しき人物を殺害する。彼女が死体を検分し、かれに間違いないと確認したあと、こみ上げる嗚咽を抑えきれずただ泣きくれるのだが、その姿をラストにもってきた監督の演出意図は重くて深い。彼女の涙は果たして達成感からか、それとも、底知れない喪失感からなのか。われわれに、その選択を突きつけるのである。(ken)

原題:Zero Dark Thirty
監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
撮影:グレイグ・フレイザー
出演:ジェシカ・チャスティン、ジェイソン・クラーク、ジョエル・エドガートン、ジェニファ・イーリー、マーク・ストロング


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