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「よこがお」 (2019年日本映画)

2019年09月11日 | 映画の感想、批評
 看護師の市子は末期癌のおばあちゃんの看護のために大石家に通っている。市子は大石家の長女である基子をかわいがっていて、介護福祉士を目指す基子の勉強をみてやっていた。ある日、基子の妹のサキが誘拐、監禁される事件が起きる。逮捕された犯人は市子の甥の辰男であったが、市子は甥が犯人であることを周囲の人に言えなかった。基子はその事実を知っていたが、誰にも言わない方がよいと市子にアドバイスをし、あくまでも市子を守ろうとした。そんな折、基子は市子が医師の戸塚と結婚しようとしていることを知り、激しく動揺する。基子は市子に憧れ以上の想いを抱いていたのだ。基子は市子が辰男に幼児虐待をしていたかのような話をマスコミに流し、そのことが原因で市子は仕事も家も結婚の機会もなくしてしまう。失意のどん底に突き落とされた市子は基子への<復讐>を決意する・・・
 この映画は復讐劇として作られているが、<復讐>という概念は二人の関係にそぐわない気がしてならない。基子は市子に同性愛的な感情を抱いており、市子を失いたくない一心で、虚言を弄して結婚を阻止しようとした。基子の行為は愛情の裏返しであり、歪んだ愛情であったとしても、市子を貶めようという悪意に起因するものではない。市子が失ったものは大きかったけれど、基子を報復の対象とすることは的外れであり、また逆効果ではないかと思う。
 基子は一途に市子を想っているが、市子は基子を恐れるばかりで相手の心を理解できない(市子が見る幻覚は基子に対する恐怖心の表れである)。基子の恋人である和道と恋愛関係になり、和道のケータイで基子に自分の裸の写真を送るという幼稚でピントの外れた<復讐>をしようとする。基子は一貫して市子を愛しているので、和道を寝取られたことなど痛手にならない(すでに和道と別れていたらしいが・・)。むしろ基子は市子を盗られたと和道に嫉妬するかもしれない。基子は送られてきた市子の写真を見て、複雑な感情にかられたと思う。大好きな市子に憎まれることは辛いが、たとえ憎まれていても、自分に関心を持ってくれていることに一縷の希望を抱いたのではないか。
 「噂の二人」(61)という映画があった。オードリ・ヘップバーンとシャーリー・マクレーンは親友同士だが、シャーリーはオードリに友情以上の感情を抱いている。オードリが結婚することになり、シャーリーは激しく動揺する・・・人間関係の構図が「よこがお」とよく似ている。愛の不可能性に絶望したシャーリーは自死を選ぶが、基子は結婚を阻止するためになりふり構わぬ行動に出た。市子が勇気をもって基子と対峙すれば、愛は成就しなくても希望は見い出せるかもしれない。二人の再会を予感させるシーンで映画は終わっている。(KOICHI)

原題:よこがお
監督:深田晃司
脚本:深田晃司
撮影:根岸憲一
出演:筒井真理子  市川実日子  池松壮亮


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