大正時代の京都。立命館中学に在籍していた中原中也(木戸大聖)はフランスのダダイズムに傾倒して詩を書いていた。17歳の時、3歳年上の女優・長谷川泰子(広瀬すず)と同棲生活を始める。中原は「女郎を買いに行ってくるよ」と言って外出するような男であったが、酒に酔って通行人と喧嘩すると泰子は体を張って中原をかばった。二人はたびたび子供のように取っ組合いの喧嘩をしたが、いつも腕力で勝るのは泰子の方だった。それは喧嘩というよりも、姉弟がじゃれあっているような、形を変えた愛情表現に見えた。
中原は中学を中退して泰子と共に上京し、友人の紹介で小林秀雄(岡田将生)を知るようになる。小林は中原の詩のよき理解者であったが、中原の家に出入りしているうちに泰子に魅せられ、泰子と一緒に暮らすようになった。中原は嫉妬と怒りに駆られるが、自分の才能を認めてくれる小林との関係を切るには忍びなく、また小林も中原の詩に心酔していた。泰子は中原も小林もどちらも愛しているように見えた。かくして三人は奇妙な三角関係を続けていくことになる。
女一人男二人の三角関係は恋愛映画によく出てくる類型で、フランス映画ではトリュフォーの『突然炎のごとく』(62)のように、男同士の友情を描くホモソーシャル(ホモセクシュアルではない)な物語が多い。中原と小林は友人の関係というよりも詩人と批評家の関係で、中原の詩を媒介とした芸術上の同志のように見える。
泰子は中原とはつかみ合いの喧嘩はするが、小林に対しては自分の弱さをさらけ出した。小林は料理のできない泰子を献身的に支えたが、強迫神経症的な症状がひどくなって、泰子はたびたびパニック状態になった。遂には小林が大事にしていた壺を割ってしまう。小林は途方に暮れた。
三人でダンスホールに行くと、中原と泰子は軽快にチャールストンを踊ったが、ステージ上でまたつかみ合いの喧嘩を始めた。二人は今なお仲の良い喧嘩友達だった。そんな二人を見て小林は泰子を中原に返そうと思ったのではないか。本作でははっきりとは描かれていないが、泰子の精神の混乱に手を焼いた小林は中原に救いを求めたように思われる。もし救いを求められたら、中原も小林の頼みを聞き入れただろう。そもそも小林が泰子を好きになったのも、中原の恋人であったからと言えなくもない。このあたりの心理を掘り下げたら、単なる詩人と批評家という関係だけではない、中原と小林の不可思議な友情を描けたのではないか。三角関係にもっと厚みが出たのではないかと思う。女一人男二人の三角関係は男同士の友情が前提となっているからだ。
やがて小林は泰子に別れを告げ、一人で奈良に旅立った。中原は泰子に「おまえとやっていけるのは俺ぐらいだ」と嘯いたが、泰子は「一人でやってゆく」と答えた。中原と泰子はその後は再び同居することはなく、中原はまもなく遠縁にあたる女性と結婚した。産まれた男の子が2歳で亡くなり、ひどい精神的ショックを受けた中原はその悲しみが癒えぬまま病に倒れ、30歳の短い生涯を閉じた。
泰子は中原との関係を「神経と神経のつながり」と言っている。中原とは似た者同士で姉弟のような一体感を感じさせるが、年上の小林に対しては依存的な態度を取り、愛を引き留めようとしているように見える。映画の最後で泰子は小林に「さようなら」と言って去って行くが、小林に追いかけてきて欲しいのではないかと思わせるような別れ方だ。しかし小林は追いかけて行かない。なぜなら泰子と小林の関係が成立するためには中原の存在が必要であるからだ。 (KOICHI)
監督: 根岸吉太郎
脚本: 田中陽造
撮影: 儀間眞悟
出演: 広瀬すず 木戸大聖 岡田将生
中原は中学を中退して泰子と共に上京し、友人の紹介で小林秀雄(岡田将生)を知るようになる。小林は中原の詩のよき理解者であったが、中原の家に出入りしているうちに泰子に魅せられ、泰子と一緒に暮らすようになった。中原は嫉妬と怒りに駆られるが、自分の才能を認めてくれる小林との関係を切るには忍びなく、また小林も中原の詩に心酔していた。泰子は中原も小林もどちらも愛しているように見えた。かくして三人は奇妙な三角関係を続けていくことになる。
女一人男二人の三角関係は恋愛映画によく出てくる類型で、フランス映画ではトリュフォーの『突然炎のごとく』(62)のように、男同士の友情を描くホモソーシャル(ホモセクシュアルではない)な物語が多い。中原と小林は友人の関係というよりも詩人と批評家の関係で、中原の詩を媒介とした芸術上の同志のように見える。
泰子は中原とはつかみ合いの喧嘩はするが、小林に対しては自分の弱さをさらけ出した。小林は料理のできない泰子を献身的に支えたが、強迫神経症的な症状がひどくなって、泰子はたびたびパニック状態になった。遂には小林が大事にしていた壺を割ってしまう。小林は途方に暮れた。
三人でダンスホールに行くと、中原と泰子は軽快にチャールストンを踊ったが、ステージ上でまたつかみ合いの喧嘩を始めた。二人は今なお仲の良い喧嘩友達だった。そんな二人を見て小林は泰子を中原に返そうと思ったのではないか。本作でははっきりとは描かれていないが、泰子の精神の混乱に手を焼いた小林は中原に救いを求めたように思われる。もし救いを求められたら、中原も小林の頼みを聞き入れただろう。そもそも小林が泰子を好きになったのも、中原の恋人であったからと言えなくもない。このあたりの心理を掘り下げたら、単なる詩人と批評家という関係だけではない、中原と小林の不可思議な友情を描けたのではないか。三角関係にもっと厚みが出たのではないかと思う。女一人男二人の三角関係は男同士の友情が前提となっているからだ。
やがて小林は泰子に別れを告げ、一人で奈良に旅立った。中原は泰子に「おまえとやっていけるのは俺ぐらいだ」と嘯いたが、泰子は「一人でやってゆく」と答えた。中原と泰子はその後は再び同居することはなく、中原はまもなく遠縁にあたる女性と結婚した。産まれた男の子が2歳で亡くなり、ひどい精神的ショックを受けた中原はその悲しみが癒えぬまま病に倒れ、30歳の短い生涯を閉じた。
泰子は中原との関係を「神経と神経のつながり」と言っている。中原とは似た者同士で姉弟のような一体感を感じさせるが、年上の小林に対しては依存的な態度を取り、愛を引き留めようとしているように見える。映画の最後で泰子は小林に「さようなら」と言って去って行くが、小林に追いかけてきて欲しいのではないかと思わせるような別れ方だ。しかし小林は追いかけて行かない。なぜなら泰子と小林の関係が成立するためには中原の存在が必要であるからだ。 (KOICHI)
監督: 根岸吉太郎
脚本: 田中陽造
撮影: 儀間眞悟
出演: 広瀬すず 木戸大聖 岡田将生
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