シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ブリッジ・オブ・スパイ」(2015年アメリカ映画)

2016年01月11日 | 映画の感想・批評
 

 実話の映画化である。米ソ冷戦下のアメリカ。画家を装いながらスパイ行為を働くソ連国籍の男をFBI捜査官が追いつめ拘束する冒頭から、観客の感興を鷲づかみにするスピルバーグの手法は衰えていない。
 たとえソ連のスパイといえども法治国家アメリカでは公正な裁判を受ける権利がある。司法当局は大手法律事務所に弁護を要請し、保険訴訟を専門とする敏腕弁護士(トム・ハンクス)に白羽の矢が立てられる。しかし、誤解してはならない。政府や判事が目指すのは形式的な裁判の公正さを世に示して民主主義国家としてのアリバイを作ろうという腹づもりなのだ。それで、弁護士が四面楚歌の法廷に立たされるのが前半の見せ場である。
 時を経ずして米軍はソ連に偵察機を侵入させるのだが、撃墜されたパイロットがソ連の捕虜となる事件が発生する。東独を通じてソ連のスパイと米軍パイロットの交換の提案がなされ、当時まだ東独と国交の無かった米国は、くだんの弁護士に交渉役を託す。時あたかもベルリンの壁が建設され東西分断の悲劇が訪れて、そのとばっちりを受けたアメリカ人の男子留学生が東独にスパイとして拘束される。ベルリンに渡った弁護士はそれを知り、無辜の大学生こそ救うべきだと確信して、米国政府の方針を無視しパイロットと学生のふたりを交換条件に譲らないのである。この人質交換交渉が第二の見せ場。国益より人権を重視するリベラルな弁護士の信念、一般人など放っておけという国家の論理、ソ連と東独の威信をかけた思惑がせめぎ合い、緊迫した最後の見せ場を迎えるのだ。
 脚本にコーエン兄弟がかかわったことは映画のおもしろさを確実に担保した。そうして、相変わらずハラハラドキドキさせたり笑わせたり、しんみりさせたり感動させたりと、スピルバーグの映画術は「うまい」の一語に尽きる。これを「あざとい」と感じる人もいるだろうが、私はそこがスピルバーグの持ち味だと言いたい。(健)

原題:Bridge of Spies
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:マット・チャーマン、イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
撮影:ヤヌス・カミンスキー
出演:トム・ハンクス、マーク・ライランス、エイミー・ライアン、アラン・アルダ、オースティン・ストウェル


最新の画像もっと見る

コメントを投稿