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「竜とそばかすの姫」 (2021年 日本映画)

2021年09月01日 | 映画の感想・批評


 オリンピックが終了し、現在パラリンピックの真っ最中。様々な障害を持ちながらも懸命にプレイする選手の姿に、オリンピックとは少し違った心の琴線に触れる感動を毎日味わわせてもらっている。また、その感動をSNSを通じ、全世界からたくさんのメッセージが送られ、すぐに視聴者や競技者に届けられるようになり、新たな感動を呼び起こしてくれる。インターネットのおかげで不可能が可能になることがずいぶん増えてきた。まさにインターネット様々なのだが、このインターネットの世界に入り込んだ少女を主人公にしたアニメ作品がこの夏一番のヒット作となっている。「竜とそばかすの姫」だ。
 すずは自然豊かな田舎町に住む17才の高校生。幼い頃、目の前で起こった水難事故で母を亡くし、それまで好きだった歌を歌うことができなくなってしまっていた。そんな彼女を心配するネットが大好きな親友に誘われ、ネット上の仮想世界「U(ユー)」に参加することに。そこでは「AS(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、全く別の人生を送ることができるのだ。すずは「ベル」という歌姫になり、世界中の人気者になっていく。しかしそこはネット社会、いいことばかりではない。ベルの大規模コンサートの日、突然「竜」と呼ばれる侵入者が現れ、コンサートは台無しに。だが、竜もまたベルと同じように、大きな心の傷を負っている誰かの分身であることは確か。果たしてその正体とは?!
 手元の資料によれば、細田守監督はこれまでにも2000年に「デジモンアドベンチャー/僕らのウォーゲーム」、2009年には「サマーウォーズ」と、インターネットを題材にした作品をおよそ10年の周期で作っているが、どんどん進化していくネットの世界、自分たちの生活に関わる内容もずいぶん変化してきている。もはやネットと共に生きているといえる現在を、映画という媒体の中で表現するために、今回世界各国のクリエイターたちが集結。今までにないダイナミックで煌びやかな世界が目の前に広がった。これはアニメーションだからこそ実現できた技だろう。
 現実世界の舞台になったのは、大きな川にかかる「沈下橋」の出現で気づいた。そう、高知だ。日本の中でも人口減少が著しく、「限界集落」という言葉もこの地から最初に発せられたそうだが、どんな田舎からでも仮想世界には入れる。廃校となった学校が主人公たちの発信の場となっていて、仮想世界と現実世界のギャップが、何とも面白い。東映動画に入社したばかりの頃、ディズニー版の「美女と野獣」を観て感銘を受けたという細田監督、アニメでミュージカル映画を作ることが夢だったそうで、まさに今回の歌姫「ベル」(「美女」と同じ名)は夢の実現となった。ベル役には京都出身のミュージシャン、中村佳穂を起用。数々の歌はもちろん、すずとベルという違ったキャラクターを見事に演じきった。また、心に傷を持つ竜には佐藤健、すずの同級生には成田凌や染谷将太、玉城ティナ、幾田りらと、今をときめく若手スターが多数登場し、若者の心をつかむにはもってこいのキャスティングとなっている。
 煌びやかなUの世界とともに、現代社会が抱えている問題にもしっかり目を向け、日本アニメのクォリティの高さを証明してみせた細田監督、カンヌ映画祭での14分間のスタンディングオベーションも納得のいくところである。
 (HIRO)

監督:細田守
脚本:細田守
撮影:李周美、上遠野学、町田哲
声の出演:中村佳穂、佐藤健、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世、石黒賢、役所広司




 


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