シネマ見どころ

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「思秋期」(2010年英国映画)

2012年11月27日 | 映画の感想・批評
 英国映画の伝統は真実の探求をめざすドキュメンタリーだ。その精神は劇映画にも脈々と流れていて、同じアングロサクソンでもこれほど違うのかと思えるほどアメリカ映画の理想主義とは異なる。たとえば、男というものを描くとき、アメリカ映画はこうあるべき理想を示す。しかし、英国映画は男の真実を赤裸々に暴いてみせる。おまけに、フランス映画が女性の描出を得意とするなら、英国映画は間違いなく男の映画である。
 たしかに、こういうどうしようもない粗暴な男がいる。主人公は、やたら喧嘩っ早くて、常につっぱっていて、人生をすねているような男だ。酒場で気に入らないことがあって、自分の飼っている犬に八つ当たりして殴り殺してしまう。これだけの場面で、この男の人となりを一筆書きしてしまった手法は鮮やかだといわなければならない。
 ある日、怪我をした男が近くのリサイクルショップに立ち寄り、そこで働く中年女に介抱してもらう。女は一見平穏な毎日をすごすように見えて実は夫の家庭内暴力に耐えているのだ。それを知った男は自らの罪を購うかのように暴力亭主を懲らしめようと相手の家に向かう。だが、しかし・・・
 人生に背を向けた男が、人生から背を向けられた女と心を通い合わせ、やがて人間らしい心を取り戻して行くプロセスがすてきだ。(ken)

原題:Tyrannosaur
監督:パディ・コンシダイン
脚本:パディ・コンシダイン
撮影:エリック・ウィルソン
出演:ピーター・ミュラン、オリヴィア・コールマン、エディ・マーサン