西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

軒端の松

2010-04-11 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
46-「軒端の松」(1845・弘化2年)

「花の友」(4月6日記載)でも触れたが、
三味線曲での宣伝ソングで、今度は新酒の売り出しだ。
江戸新川の酒問屋が「軒端の松」を売り出した。

1841年、老中首座に就いた水野忠邦による天保の改革は、
奢侈禁止、贅沢品の製造販売禁止、
料理茶屋の隠れ売女・女浄瑠璃・女髪結い・私娼・
賭博等、ことごとく禁止。寄席、芝居小屋にも規制が及ぶなど、
徹底的に庶民の楽しみを奪うものだった。
江戸三座を、日本橋葺屋町から浅草聖天町に強制移転させたのも水野。

庶民に総スカンを食っていた水野が、こともあろうに病気で職を辞し、
この年(1845年)、渋谷の下屋敷で隠居療養に入ったのだ。

万歳! 
江戸の町に笑いが戻り、以前のようにのびのびとした日常が帰って来た。
そんな満を持しての新酒発売。

酒屋の主人は贔屓の杵屋勝三郎(2世)に曲を作らせた。

酒の宣伝なのだから、当然ともいえるが、
“酒の銘づくし”で、女心を拗ねてみた。

『一筋な 女心を汲みもせで
 ほんに浮気な男山
 つい言うことも つとどなき
 言葉に角の剣菱や
 愛想もこそも 七ツ梅
 粋な心についたらされて
 嘘と知りても 誠に受けて
 末は白菊 花筏』

● 私の一途な心も知らないで、まったく男は浮気者なんだから。
つい何気なく言うことも、言葉のはしばしに角がけんけん。
愛想もこそもあったもんじゃない。
でも、粋な心意気についほだされて、嘘と知りつつ真に受けてしまったの、
後は野となれ、散る桜。

男山・剣菱・七ツ梅・白菊・花筏が売れ筋、酒の銘。

“軒端の松”を飲みながら、「軒端の松」を鑑賞する。
水野がいてはできない贅沢だ。

 〓 〓 〓

tea breaku・海中百景
photo by 和尚
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