猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

アウシュヴィッツ・レポート

2021-08-03 22:31:12 | 日記
2020年のスロバキア・チェコ・ドイツ合作映画「アウシュヴィッツ・レポ
ート」を観に行った。

1944年4月のアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。遺体の記録係を
務めるスロバキア系ユダヤ人のアルフレート・ヴェツラー(ノエル・ツツォ
ル)とヴァルター・ローゼンベルク(ぺテル・オンドレイチカ)は、毎日多く
の命が奪われる収容所の惨状を外部に訴えるため脱走を決行。同じ収容棟の
囚人らが過酷な尋問に耐える中、やっとのことで収容所の外に脱出した2人
は国境を目指して山林を歩き続ける。その後救出された2人はアウシュビッ
ツの実態を赤十字職員に告白し、大虐殺の真実を報告書にまとめる。

実話を基にした映画。ホロコーストについて描いた映画はたくさんあるが、
脱走して収容所の内情を世界に知らせるために尽力した囚人たちの映画はそ
うないのではないだろうか。アルフレートとヴァルターはもちろん実在の人
物で、彼らは日々多くの人が殺される収容所の実態を外部に伝えるため、脱
走を実行した。脱走が明るみになり、残された同じ収容棟の囚人たちは何日
も寒空の下で立たされ、執拗な尋問を受けていた。仲間の助け、思いを背負
った2人は、何とか収容所の外に脱走し、ひたすら国境に向けて歩き続けた。
激しい疲労の中、奇跡的に助かり、赤十字によって救出された2人は、赤十
字職員にアウシュヴィッツの信じられない実態を告白し始める。
冒頭から残酷なシーンで、この映画R指定でなくていいのだろうかと思った。
目を覆いたくなるようなシーンは続き、収容所ではユダヤ人たちが人間とし
て扱われていなかったのがよくわかる。皆囚人服を着ているが、大体悪いこ
ともしていないのに何故囚人なのだろう。将校たちが新しく収容されてきた
人たちに、「ここでの最初の任務は名前を忘れることだ。名前はいらない。
数字でいい」と言ったのが印象的だった。こうやってユダヤ人たちはそのア
イデンティティを奪われていったのだ。
アルフレートとヴァルターが逃げている間(最初は隠れていた)、仲間たちは
寒い中囚人服1枚で飲まず食わずで立たされ続け、ガタガタと震えている。
その悲惨な様子に言葉も出ない。殺される者もいた。けれども物語には救い
もあって、アルフレートとヴァルターは森の中で通りすがりの若い女性に食
べ物を恵んでもらったり、彼女の義兄に国境まで案内してもらったりしてい
る。そして老夫婦に助けられ、赤十字に連絡を取ってもらう。
アルフレートとヴァルターは、赤十字に収容所の実態を話しても、あまりに
悲惨すぎて信じてもらえないのではないかと懸念したという。実際話を聞い
た職員はしばらく絶句していた。今でこそ世界中の人々が強制収容所でどん
なにおぞましいことが行われていたか知っているが、当時はあまり外部に漏
れていなかったようだ。アルフレートとヴァルターはタイプライターを渡さ
れ、アウシュヴィッツについてのレポートを完成させる。詳細に書かれたレ
ポートはとても説得力のある内容で、このレポートは連合軍に報告され、結
果12万人以上のハンガリー系ユダヤ人がアウシュヴィッツに強制移送される
のを防いだのだという。アルフレートとヴァルターの命がけの逃亡はたくさ
んの人たちの命を救ったが、一方で彼らのために殺された人もいた。決して
繰り返してはいけない歴史である。エンドロールの際に流れる音声がその悲
しみを物語っていた。




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コメント (8)
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