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白血病にグリベック/スプリセル併用投与とVX-608

2007-09-03 | 血液、リンパ腫etc
現在の慢性骨髄性白血病(CML)治療には、イマチニブ(グリベック)が用いられ、その後抵抗性、再発性となった場合にダサチニブ(スプリセル)が使用される。しかし、この2剤を初回に併用投与することによって、奏効期間にさらに良好な結果が得られる可能性があると、スローンケタリング記念がんセンター医師は語る。この研究はJournal of Clinical Investigation誌2007年8月16日オンラインにて発表された。

この両薬剤はキナーゼ阻害剤で、融合癌遺伝子BCR-ABLを標的とする。イマチニブ投与の患者は時にBCR-ABL突然変異(50種以上が報告されている)を引き起こし、耐性ができる。そのほぼすべてのイマチニブ抵抗性遺伝子変異に対して効果を表すのがダサチニブであるが、たった一つの例外が、T315I"ゲートキーパー"変異である。この変異があるとイマチニブ、ダサチニブ、およびニロチニブのすべてに耐性となる。現在、このT3151変異を克服するのは開発中の化合物VX-608(Vertex)のみである。

しかしながら、最近わかってきたことには、特に進行した段階のCML患者において初回治療奏効後には治療中に再燃する患者が多いということである。イマチニブ、ダサチニブに抵抗性となった患者のBCR-ABL遺伝子型を調べたところ、"すべての症例で、進化型の抗BCR-ABLキナーゼドメイン変異(evolving resistant BCR-ABL kinase domain mutations)が発見された。つまり、このことは、薬剤が狙い打つターゲットが変異し続けていること、またBCR-ABLが逃避メカニズムを有していることを示しており、今後もこの変異を標的にした薬剤を開発し続けていかなければならないだろうと、研究医師は述べる。

彼らの研究で17人中5人が複合変異を起こし、両薬剤に抵抗性となっていた。「これらの薬剤を初めから併用すれば、この事態は避けられたかもしれない。われわれは、この変異が起こらないことを研究室で確認した。臨床においても同様であると予測する。」と同氏は確信を持って述べた。そして、それでもなおT315I変異が起こる可能性を考慮した場合、初回治療にVX-608を加えることも議論されるべきであろう。
このことは臨床試験によって明らかにされるべきである。
Medscapeより抜粋


9 コメント

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数学的に正しいかは疑問 (くぅたろう)
2007-09-04 00:17:20
耐性の問題は、進化論における木村資生の中立説の議論と似たところがあります。
つまりある薬剤が耐性を誘導したかのように見る人たちと、もともとあらゆる方向に変異していて、薬剤が投与されると単にそれが生き残るから目立つだけと考える人たちがいます。後者が中立説的な考え方です。

中立説は進化論では正しいらしい事がわかっていて、分子時計の考え方もこれから派生したものです。

「これらの薬剤を初めから併用すれば、この事態は避けられたかもしれない」という予測は古典的で中立説はあてはまりません。研究室のように少量の細胞を使用した実験ではそうだったかもしれませんけれど、生体内にはそれより何桁も多い細胞があります。同時に使用したとしても結局T3151変異が表現系として出てくるようであれば、中立説的考え方は正しいということになります。

だから元にもどって、腫瘍幹細胞の考え方が重要になってくるのだろうと思います。
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ご講義、ありがとうございます ()
2007-09-05 00:05:42
難しいことを教えていただきました。
ー理解できたかどうかは別として、
大変面白く聞かせていただきました

分子時計、Wikiで調べました。(笑
偶然ポーリング博士が出てきました。。。
今後の研究でT3151変異が現れるかどうか楽しみですね。
私も少し弱い感じがしましたが、VX-608(Vertex)が有望そうな印象を持ちます。

くぅ先生のお名前のリンククリックしてしまいましたら迷子になりました(^^)
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ポーリング博士は (くぅたろう)
2007-09-05 16:46:08
晩年、ビタミンCの教祖とも言える御方になったのでしたね。

二十世紀科学最大の巨人ですから、
化学のそこここにお顔を出すのでしょう。
ノーベル賞x2ですし。

私もあの方がおっしゃるから、ビタミンCを無視できません。
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大きなタイトル ()
2007-09-05 22:05:43
二十世紀科学最大の巨人ですか。

あまりよく存じませんでしたが、とても興味を持ちましたので、出会ったらまた調べてみます。

最近Wikiが充実してますね。
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Unknown (Unknown)
2007-09-05 22:54:28
ヒント 01/09/2007

1→I
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Unknown ()
2007-09-05 23:51:58
原文が違ってました。ありがとうございました。
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Unknown (N)
2007-09-07 01:43:25
その腫瘍幹細胞すらも多様性があったなら、なにをターゲットにしますか? 
血液腫瘍などが顕著ですが、癌細胞0個が寛解ではないのです。腫瘍がわずかながら残っていても、顕性化せずに、身体に害を及ぼさなければよいのです。
ですからStem cellすらTargetではないといえます。agressive behaviorなcellをいかに出さないか、増やさないかが、Keyとなるのではないでしょうか。
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勉強になります (くぅたろう)
2007-09-07 19:29:32
agressive behaviorなcellをいかに出さないかって、実感としてとてもわかります。

私も原始的な方法(目視で癌を探してるだけ)だけど、ひたすらがんばろうと思いました。今日も胃の大弯も良くみるように心がけました。
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高尚な議論をありがとうございます ()
2007-09-08 08:42:27
大変専門的なご意見で、口を挟む余地はないのですが、そういう考えに繋がっていくのでしょうか。癌制御の研究の難しさを感じました。
その先、さらに気になります。
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