goo blog サービス終了のお知らせ 

ブリキ星通信

店主のひとりごと

ブリキ星通信/2008年7月号

2008年07月08日 | 2008年

写真は、楽家七代、長入の黒楽茶碗です。
長入は1714年に生まれているので、
江戸時代中期を生きた人です。
物の本では、「個性のとらえにくい作者」とか
「あまり上手ではない」などと書かれています。
しかし、手にするとゾクゾクするものが伝わってきます。
最近は、楽茶碗大好き人間になってしまいました。

2006年10月のブリキ星通信では楽茶碗を、
「つくり手の思いの入り過ぎている茶碗 」は
重くて苦手といっていたのに、
どうしてでしょう・・・
モノとしての美しさでは李朝の茶碗の方が凄いと思うし・・・
茶臭がするといわれる唐津の茶碗の方が、
まだ自然なたたずまいだと思うし・・・
楽家当代の楽吉左衛門さんは、
“とても使いにくい茶碗をつくる人”
というくらいにしか、よく知らなかったのですが、
少し前の芸術新潮(2008年3月号) の特集を読んで、
心を動かされました。
ああそうだったのかと、通じるところがありました。
それは、楽さんと川瀬敏郎さんの対談
「茶碗と花の苦しみと楽しみ」で、
語られていた「切実さ」についてです。
楽さんは近代のつくり手のなかで、
加守田章二さんを「あの人には作家としての切実さがあったと思う」
と評価していました。
一方、川瀬さんが、
切実さ=哀れさから解放されたらどんなに楽になれるだろうか、
というようなことを言っていた気持ちもよくわかりました。
これを読んで、私の楽茶碗の見方が、
モノとしてだけからつくり手への共感へと変わっていったようです。

「ブリキ星」をオープンして、
絵や工芸の現代作家の展覧会を今まで100回近く続けていますが、
いつもそこからいただいている刺激は、作家の「切実さ」。
私が、代々つくられてきた楽茶碗に共感するのは
(勿論、すべてがではありませんが)、
絵を見るときと同じように、
そこから伝わってくる「切実さ」なのかもしれません。

ブリキ星通信/2008年6月号

2008年06月07日 | 2008年

ジトジト季節の到来です。
こんなときには、お点前を一服がいいかもしれません。
最近、楽茶碗に興味があるので、
時間ができたら、黒楽茶碗でゆったりと
お茶をのんでみたいものだと思っています。

それはさておいて、今関心を持っているのは、
経典を書き写した文字、「写経」のこと。
私の字は、人から「読めない」とよく言われます
(時には、自分でも読めなくなる)。
字にたいするコンプレックスは相当なもので、
大人になってから筆を持つ機会をつくりませんでした。
反対に、見るのは大好きです。
写真の写経は、俗にいう“法隆寺の虫食い経”です。
奈良時代のもの。法隆寺夢殿の復興につくした
行信の発願経といわれています。
物の本によると、写経は8世紀に
国家の文化事業として盛んになり、
当時はすべて国家によって作られた
写経所の専門職員によって書かれていたそうです。
それに、その写経所はとても劣悪な職場環境で、
労働条件も悪く、誤字脱字があると賃金カットされるなど、
「成果主義」が貫かれていたといいます
(なんだか今の労働現場と似ていますねー)。

当時の待遇改善を要望する文書の草案が残っています
(正倉院文書)。

「一、人手があまっているので、写経労働者を新たに
   追加するのをやめてほしい。
 一、去年の二月以来使っている仕事着が汚くなったので
   交換して欲しい。
 一、毎月五日の休暇をお願いしたい。
 一、装丁と校正の担当者の食事が悪い。
 一、胸の痛みと足のしびれを取るために三日に一度、
   薬酒の支給をお願いしたい。
 一、以前のように毎日麦を支給して欲しい。」

(<日本の歴史三「律令国家と万葉びと」鐘江宏之 小学館>を参照)。

奈良時代の写経の字は、骨格がしっかりしていて、
美しい字が多いなと思っていたのですが、
その背景に厳しい労働があったとは…。
いつか、「写経」をやってみたい気になってきました。

ブリキ星通信/2008年5月号

2008年05月06日 | 2008年

緑のすがすがしい季節になりました。
GWの一日、「アーバンアンティークモール」に行ってきました。

そこは、埼玉県入間市の旧米軍ハウス村。
50年以上前に、米軍将校の住居として建てられた
木造平屋のこじんまりした家々が、
当時のままの雰囲気で、改修したり建て直されたりして存在し、
小さな集落をつくっています。
レストランやカフェやパン屋さん、雑貨屋さん、
歯医者さんもあります。
この「村」の一角に、アーバンアンティークスのIさんが、
4人の仲間と一緒にお店をはじめました。
5月4日にオープンしたばかりです(詳細はHPリンクを見て下さい)。
「アーバンアンティークス」は2年半前までは、
西荻窪にお店があり、いわばご近所さんでした。
そして、オーナーのIさんは、
私にいろんな刺激を与えてくれた人です。
骨董の世界に生きている人には(モノづくりの人もそうですが)、
自分らしく生きている魅力的な人が多いなあと、いつも思います。
Iさんは、たしか私と同い年。
私は自己肯定感が希薄なほうなのですが、
彼は誇り高く生きているのが 魅力的です。
私が政治的な事柄に熱中していた70年代、
Iさんは外資系の若い商社マンでした。
とある日、彼はデモ隊と機動隊の衝突を見物していて
誤認逮捕・拘留されてしまい、
なかなか釈放されなかったことがあったそうです。
ところが、拘留されていたとき、ジルバの名人と出会い、
エイト・ビートを覚えて出て来た・・・とか。
この話を聞いたとき、なんて凄い人かと思ったものです。

今回、「アーバンアンティークモール」に行って、
Iさんの店で選んだものが、写真の靴。
28センチもある英国製の登山靴です。
靴底に打ち込まれた鋲の美しいこと!
いかにもIさんみたい・・・というか、
ガツンと手ごたえを感じました。
ずっしりと重い靴を抱えて持ち帰り、
ギャラリーの天窓の下に置いてみました。
この存在感! 
同じ空間にある、奈良時代の多賀城の瓦と比べても、
遜色なし。ウーン、いいですねー。

ブリキ星通信/2008年4号

2008年04月06日 | 2008年

春になったというのに、どうも気分がすぐれません。
ちょっと、うつ状態かもしれません。
そんなとき、廣谷ゆかりさんがつくった
陶の指人形を取り出して並べてみました(写真)。
これは、先月、目白にあるブックギャラリー「ポポタム」開催の
展覧会に行ったとき、展示された人形たちの中から、
ほんの一部を分けていただいたものです。
会場には“汁場”という不思議な村(というより小国かも)の
マップがつくられていました。
村には、いろんな人たちが暮らしています。
赤オニや青オニもいて、ネオン街や色街があり、
あの世まであります。
200人近い人たち(陶の人形)が、一人一人物語をもって、
それも、とびっきり面白い人生をもっているのです。
人形にはカードがついていて、物語が記されています。
人形の顔を見ながら読むと、
思わず引き込まれてワクワクしてしまい、
時間のたつのも忘れるほどです。
ちょっと紹介しましょうか。

一番左の、あの世の男性。
私に雰囲気が似ていると言われたのですが…
 「生前は常に人と競いトップを走ってきた。
  今は安らかに、趣味の社交ダンスを満喫」とあります。
私はまだあの世に行きたくないので躊躇したのですが、
この説明文を読んで、
<小さい頃から「落ちこぼれ」だった自分とは違う>と
安心して連れて帰りました。

その右のメガネの女性は、まさこ先生。
 「岬小学校の先生。人生を教職に捧げているうちに婚期を逃がす。
  やもめとなった橋本和男とは幼なじみ」
そうだったのかあ~。
それなら「橋本和男さん」も連れてくればよかったと後悔。

持ち帰った日、ちょうど居合わせた冨沢恭子さん(織の作家さん)が、
これからポポタムに行くというので、
「橋本さん」をお願いしたところ…
立ち直れなくて酒びたりのやもめ「橋本さん」は、
すでに他の方にもらわれてしまって行方不明でした。

ウエイトレス姿の人形は、エミリ。
 「汁場ゴールデン街3丁目汁葉原のメイド喫茶で働く16歳。
  名門女子校をドロップアウトした少女」

うしろ真ん中にいるのが虫子さん。
 「桜浜小1年生。誰よりも早く登校し、
  教室の天井にひっついているゾウ虫を捕獲。
  つかまえたゾウ虫はその日1日こっそり筆箱の中で飼っている」

覆面レスラーは、ミルキーマスク。
 「汁場初、現役覆面レスラーの政界入りを果たした男。
  趣味は家庭菜園とポエム」

と、こんなふうに汁場物語はつづいて、笑ったり、ジーンときたり…。
廣谷さんの創作力にすっかり魅了されました。
少し楽しい気分が戻ってきたかな…

ブリキ星通信/2008年3月号

2008年03月02日 | 2008年

私は元来音痴なので、歌は苦手。
マイクを持って、気分よく声を出せたら
健康にもよいのになあと思います。
それでも、いいなあと感じる音はいくつかあって、
そのひとつが、お囃子(はやし)。
神社のお祭りなどで、
ピーピー、ピーヒャラ、テンテン、ドンドン・・・・
と笛や太鼓の音が流れてくると、聞き入ってしまいます。

写真は、笛の埴輪です。
「上野國新田郡出土」とされています。
長さ12~13センチの縦笛で、
穴が二つ開いています。
古代の笛からは、どんな音色がしたのでしょうか。
琴を弾いたり、笛を吹く人の埴輪が各地で出土しているので、
古墳時代の儀式には楽器がかかせなかったのでしょう。
奈良時代には、国家の機関として音楽を担当する部門があって、
唐楽、高麗楽、百済楽、新羅楽などを
演奏する人たちがいたそうですから、
古来から人間生活の営みの中には音楽が深~く
関わっていることがわかります。

最近、赤ちゃんを連れた若いお母さんたちがよく来店します。
時々抱っこさせてもらって、
幸せな気持ちに浸ったりしています(自分の子育ての時期には、
心の余裕が全くなかったことなどを思い出しながら)。
1歳過ぎの赤ちゃんが、店に置いてある鉄の机を、
手でトントン、トントン叩いてニコニコ・・・
これって、音楽の原点ですね。

本当の春はもうすぐそこまで。
長いこと風邪に悩まされているので、
「春よ来い、はーやく来い」の心境です。