ブリキ星通信

店主のひとりごと

ブリキ星通信/2001年12月号

2001年12月01日 | 2001年
小春日和のある日のことです。
 「いい店だね、だけどもったいない。
  もっとちゃんとした、いいものを置けばいいのに」
はじめて来店した古物商の方は、そう言って、すぐに出ていかれました。
一方、
 「古伊万里や李朝ものより、
  最近はこういうものに引かれていくんですよ」
と、古い瓦や銅製の水筒、金鋼のカゴを楽しそうに選んで買っていかれた
京都の同業の方もいました。
人によって「いいもの」の思いはずいぶん異なるし、
また、変化もしていきます。
人とモノの関わりの面白さは、そこにあるのかもしれません。

12月。クリスマス、歳末が目の前です。
駅前の商店街はにぎやかになってきました。
ブリキ星も負けじと品揃えをしていきたいと思います。
コタツの金網、蓮台の断片、手のない招き猫(土人形)、
錆びた鉄の飛行機、アルミの弁当箱、ガラスの水筒、
江戸時代の手鞠、くり盆(明治)、
格子紋様の茶碗(江戸後期)等々のうつわ類……
さて、「いいもの」はあるでしょうか?

11月の企画展「苅谷重子墨絵展」は、本格的な日本画あり、
作家独自の線の墨絵ありと、変化に富んだ作品で、
参観者を楽しませてくれました。
17日に開催した立川叔男さんの古楽器ミニ演奏会には
10名ほどの参加者があり、
演奏者を囲んで、心地よい調べに身を浸した一夜でした。

ブリキ星通信/2001年11月号

2001年11月01日 | 2001年

開店前の1時間、店から徒歩15分程のところにある善福寺公園に、
散歩に行くのが日課になりました。
住宅街を抜けて公園に一歩入ると、目の前には大きなカジカエデが
朝日をあびて金色に輝いていました。
緑、黄、赤…
木々の移り変わりに、秋の美しさを感じる今日この頃です。

天気の良い日には、西荻アンティークマップを持って歩く人が目立つ
ようになり、ブリキ星にも初めてのお客さまが多くなりました。
古いホチキスや穴あけパンチ、さびたブリキ缶や珍しいガラス瓶、
瀬戸の人形…などに目をとめて
「欲しくなるものばかりありますね」
なんて言ってくださると‘類は友を呼ぶ’とばかりに頬がゆるみます。

10月の小島郁子展(陶~吹いている~)には、ものを創ることで
自己表現している方々がたくさん見えました。
「自分をまるごと受けとめてくれる」
「そばに置いておくと、自分の創作欲をかき立ててくれそう」
などなど、小島さんの作品を前にすると、誰もが語りたくなるふうで、
会話がはずみました。
自己表現する、特に若い人たちは燃えているなーという思いを強く
しました。
チベットをゆっくり旅したい、という小島さん。
ブリキ星で再び彼女の作品に出会えるのは2004年になります。

「as it is」という美術館をご存知ですか?
目白で古物商を営む坂田和實さんの個人ミュージアムです。
「as it is」に小島郁子さんの作品が、
古いものたちに混じって展示されていると聞き、
10月8日、久しぶりに訪れました。
そこに居ると中世の教会(実際には知らないのですが…)にでも
行ったような気分になり、日常の疲れや、たまっていたアカがとれて
いくような、ゆったりとした心地になります。
和室スペースに小島さんの陶の作品2点と古伊万里の徳利、
ダンボールの梱包用パッキンがいい雰囲気で展示されていました。
「ダンボールのパッキン」を展示する、というところが、
坂田さんの凄さです。

すぐ感激し、人やものごとに影響されやすい、と
よく言われるのですが、これからも大いに刺激をうけながら、
魅力あるギャラリーにしていきたと思っています。

「as it is」
http://members.jcom.home.ne.jp/burikiboshi/correspond/2001/asitis.html

ブリキ星通信/2001年10月号

2001年10月01日 | 2001年

格子戸をスルスルと開けて入って来た一人の女性。
軽やかな足取りで狭い店内を一巡し、
天窓を見上げてしばらく佇んでいます。
染み込んだ茶の色具合といい、継ぎめ具合といい、
なんとも味わいのある布です。
若い娘さんが、こんなものに興味があるのは珍しいな、
と思っていました。
すると彼女は
「私、学生で染色をやっているのですが、作品の撮影に、
お店の壁面を使わせてもらえないでしょうか」
と言います。
軽い気持ちで「休みの日ならいいですよ」と返事をし、
次の火曜日に写真撮りの運びとなりました。
どんな作品かと楽しみにしていたら、
幾枚も抱えて持ち込まれた布地を一目見てびっくりです。
糸をつむいで柿渋で染めた麻、木綿、
毛糸などを縫い合わせてつくり上げられたタペストリーの質感、
造形は、ゆったりとしていて、
大胆かつ緻密で、その存在感に圧倒されました(下写真)。
それは、藁の入った白い漆喰風のギャラリーの壁によく映え、
吹き抜けの高い壁にも負けることなく、
自己主張しつつ調和していました。
いつの日か、彼女の最初の作品展を「ブリキ星」でやりたい……
思わず口にすると、彼女も「ぜひ」と答えてくれました。
手伝いの友人と二人で手際よく撮影を済ませ、彼女は帰りましたが、
こちらは、しばらく余韻に浸っていました。
才能のある若い人との巡り合いは、なによりうれしいものです。

9月の企画展「内田京子陶展」は、
秋晴れの気持ちよい9日間となりました。
来店者からは異口同音に「気持ちがなごみます」との評。
「毎年企画してほしい」というリクエストもありました。
一週間程の間隔をおいて、10月10日からは
小島郁子さんの陶のオブジェが並びます。
こちらもすばらしい出来上がりですので、ご期待ください。

ブリキ星通信/2001年9月号

2001年09月01日 | 2001年
看板ができました。
錆びたブリキにガラスの組み合わせが面白く、
夜になると灯がともります。
西荻のアトリエベガで働く沼田達也さんに依頼して、
つくってもらいました。
彼は25才。センスよく腕よしの好青年です。

この夏は、自分の感覚と力を出しきって働いている
若い人の姿に随分刺激を受けました。
東京の骨董屋さんでは、麻布の'タミゼ'、
'さかむら'(アンティークカフェ)、吉祥寺の'素希商店'、
地方では、福岡の'ふくや'、京都の市瀬さんなど、
みんな20代~30代の若者で、
それぞれ個性豊かな品揃え、店構え、働きぶりで輝いています。
開店から半年、
慣れない商売にちょっとくたびれていた「ブリキ星」ですが、 
彼らのエネルギーを少し分けてもらい、
今年の暑い夏をなんとか乗り切りました。

さて、9月の企画は内田京子さんの陶展です。
ゆったりとした、やきもののよさを味わっていただけたら
うれしく思います。
期せずして、夫の内田鋼一さんの陶展が麻布十番の「うちだ」で
同じく22日から開催です。
秋の一日、美術展のハシゴなどいかがでしょうか。
ご来店をお待ちしております.
看板も見てください…。

ブリキ星通信/2001年8月号

2001年08月01日 | 2001年
今、三谷龍ニさんの「バターケース」が人気です。
山桜の厚い板をくり抜いて作られたバターケースです。
デザインもシンプルで素敵ですが、実用性もバツグン。
使い込むほどに、木に油分が浸透して肌合いが味わい深く
なっていきます。
…これは、手前味噌なんかではありませんよ。
最近出版された『平松洋子の台所』(ブックマン社)にも、
 「…ガラスやプラスティックがはねのけて汚れにしか見せなかった
  バターの切れ端も、このケースはみずからの美しさを深める手段
  にしてしまう。なんて賢い!小さなこの箱のなかで、自然の営み
  が循環している。脱帽である」(203ページ)と。
そういえば、ブリキ星開店まもない頃、先輩夫妻が来店され、
このバターケースを買ってくださいました。
そして、こんなメールが届きました。
 「 先日分けていただいた宝物の使い勝手をお伝えします。
 ……木器のバターケースは冷蔵庫に入れても乾いて割れる
  ことなく(十分に乾燥した木を使っているのだから当然ですね)、
  前に使っていた厚手のガラス製ケースと違ってバターがしっとり
  しています。付属のバターナイフもたいへん使いやすい。……」
使っていただいて、実感のこもった感想を寄せてくださる、
こんなにうれしいことはありません。

7月の企画展「本村加代子展」には、
作家がデザイン学校の先生なこともあって、
若い女性が大勢見えました。
オープニング開催のギターとコントラバスの演奏会にも、
たくさんの若い人が集い店内は満杯でした。
 「すっごく、入りづらいお店だけど入ったら、
  すっごく居心地のいい空間ですね」
彼らは口々に、そう言って、ほんとに気持ちよさそうに、
空の絵をながめながら、時間を忘れているようでした。
「入りにくい」「通り過ぎてしまつた」と、
開店以来よく言われているのですが、
それならば、と一念奮起して、いま看板を注文製作中です。
ブリキ星らしい看板をつくりますから、どうぞご期待ください。

今夏は、異常な暑さがつづく毎日です。
「人もモノも動かない」なんて、ついグチりたくなりますが、
健康に気をつけて、
人との出会いを楽しみながらやっていきたいと思っています。