何か下の話ばかり続いちゃってスミマセン。で、悲劇の続き。
形成外科の医師チームは、助教のU先生、講師のY先生、S先生、の三人で構成されている。日々の回診はU先生を筆頭にチームで来る時もあれば、Y先生、S先生、が代わる代わる回診に来られる時もある。時には研修医や学生さんも引き連れて大勢で回診にくる時も。まぁ、大学病院の性格上それは止むを得ないが。
さて、下の大小が治まってほっとした頃、つまり手術後一週間を経過したある日、恐れおののく日がやってきた。U先生以下チーム全員の回診で、
「そろそろ皮膚が定着した頃なので、ガーゼを剥がしますね。」
胸にギブスをつけたように分厚いガーゼが貼り付けられていたが、それを剥がすというのだ。これ、すっごい緊張する。
いったい僕の胸はどうなってるんだろう。皮膚が定着した頃っていうから、もうすっかりきれいな皮膚に生まれ変わっているんだろうか。
太股の皮膚を剥がして貼り付けた訳だから、足の毛が胸に生えちゃってるんじゃなかろうか。未だ痛みが強いし、なんか…ガーゼを剥がされるのが恐ろしいよ。
「じゃ、ゆっくり剥がしますね…」
動かないように幅広のテープがたくさん貼り付けられていたが、そのテープを少しずつ剥がす。もう、緊張で体全体が強張る。脂汗がジットリ。自分の胸は殆ど見られないから、ベッドの枠を握りしめて天井を仰ぐのみだ。メリッ、メリメリって音が(大袈裟なんだけどそう聞こえちゃう)。
「開けますね…」
う、うっ、い、痛…
メリッ…
い、い、痛~~~~~~ぁぁぁい
「もう少し…」
おっ、おーーー、うぅぅぅぅーーー
「もうちょっと」
あひ~~~~~
恥も外聞も無く悲鳴をあげちゃう。
「男の子でしょ、泣かないの!」なんて自分に言い聞かせても、やっぱり痛いものは痛いのよ。看護婦さんが気の毒そうに見つめる。可愛子ちゃんの看護婦さんの同情を引こうと、悲鳴にも力が入る。
あひ~~~~~~、ふふぇぇ~~~~、いヒ~~~~~~~、
ベロって音がしたようだけど??
チームの先生方や看護婦さんたちの視線が僕の胸に集中する。時間が瞬間的に止まったような、面々の凝視を受けて僕の体は緊張で硬直する。少しの間をおいて
「うん、うまく定着しているようですね。じゃ、消毒しますからね」
再び緊張が走る。
ピンセットの先には消毒薬をたっぷり含んだ綿が。移植した皮膚をなでる。
い、いいい、痛ぁぁ、おぉぉ、んん…
○△□♯×♭?
意味不明の言葉がほとばしる。
ほんと、ズッシーーンっていうかキリキリーっていうかジュワーっていうか、せいぜい2~3分の間なんだけど、僕にとってはすっごく長い時間に感じる訳。消毒が終わると、皮膚の再生を促すとかいう薬を傷口にスプレー。し、しみるぅぅ~~~。更に、分厚く大きなガーゼに何やら薬を塗り込んで、それを傷口に載せる。そして幅広のテープで動かないように頑丈にとめる。
「はい、終わりましたよ、お疲れ様です」
あ、アヒカドウコザイナス…
「明日から毎日、ガーゼの交換と消毒を行いますね」
(毎日?この痛みが?)
センセ、歯医者さんで治療する時にも、最近では笑気ガスとかいう麻酔で眠っているあいだに治療するじゃないですか
「そのようですね」
消毒の時も・・・麻酔なんかで・・・
「ん?」
眠っている間に出来ませんかね
「う~ん、毎日麻酔かける訳にいきませんからねぇ、ま、痛くないように、優しくやりますから大丈夫ですよ」
(後ろで控えていたS先生が、ふ…と笑ったような…気がした。)
消毒の後、緊張感と処置の痛みで疲れてしまい眠ってしまう。
そして、毎日のガーゼ交換と消毒の処置は繰り返されるのであったが、先生によってガーゼの剥がし方や消毒の仕方が違うのである。
主治医のU先生は優しいのね。イケメンのY先生も優しいのね(Y先生はナースセンターの憧れの君じゃないかなぁ、僕の若い頃に似ているなぁ、うん)。だが、冷酷非情・クールなマスク(でも結構美人なんだけどね)・メスをふるうのが生き甲斐なんて感じのS先生の処置、これはもう恐ろしいのなんの。鬼の平蔵もナチスドイツもサド侯爵も特高警察も真っ青(あくまで被害者意識の強い個人的イメージだかんね、フィクションだかんね、実在の人物じゃないかんね)。
「ガーゼ剥がしますね」
あ、はい、
(ベリッ)
あひ~~~~~~~~
「消毒しますね」
(ズビズビグリグリ)
おぉぉぉ~~~~
「鋏!」
鋏?????
(バチンバチン)
ギャアァァァ~~~~~せ、せん、せい…な、何を切ってるんですか?
「脂肪ね、脂肪を切り取らないと皮膚の再生が遅くなるから」
し、脂肪を…切り取る????(気が遠くなる)
バチ、
痛~~~~~~~~~~~~~~~~い!!
「はい、今日はこれで終りね」
先生が立ち去ったあと、看護婦さんが優しく
「痛かった?」
うん、痛かった、すっごく痛かった…(蚊の泣くような声で)
「可哀そ…」
(グスン・グスン)
「少ししたら痛みがとれてきますからね、」
ナデナデしてくれる?
「いいわよ、はい、ナデナデ」
(これ、あくまで希望的イメージです。現実は甘くありません)
この先生の処置の日は午前中グッタリして寝込んでしまうのよ。外科医ってさぁ、サデイストじゃないと務まらないんじゃないかなぁ。
いったい僕の胸はどうなっているんだろう。
そして、ついに、僕の胸を鏡でまともに見る日がやってくるのだ。