朝日新聞が、8月5日と6日の二日間にわたって、自社のこれまでの慰安婦報道の振り返りと弁明を行い、過去の一部の記事を取り消しました。
朝日の慰安婦報道については、これまで産経、読売など保守系新聞や雑誌を中心に、次のような批判と疑惑が向けられてきました。
(1)吉田清治の「慰安婦狩り」証言を根拠に、「日本の官憲による強制連行があった」と報道し、今日まで取り消していない。
(2)朝鮮半島出身の慰安婦について、慰安婦と挺身隊は別のものであるにもかかわらず、「女子挺身隊の名で戦場に動員された」と書いた。
(3)1992年1月11日の「慰安婦 軍関与示す資料」の記事が、宮沢訪韓の直前のタイミングを狙った意図的な報道だったのではないか。
(4 )91年8月に植村隆記者が元慰安婦(金学順)の証言をスクープしたが、これは元慰安婦の裁判を支援した団体の幹部である韓国人の義母に便宜を図ってもらったのではないか。
(5)元慰安婦の証言の報道で、元慰安婦がキーセン学校に通っていたことを隠し、人身売買であるのに強制連行されたように書いた。
それぞれについて、朝日がどう弁明したかを見てみましょう。
(1)吉田清治の「慰安婦狩り」証言を根拠に、「日本の官憲による強制連行があった」と報道し、今日まで取り消していない。
〈朝日の弁明〉
92年に「証言」への疑惑が提起された後、97年に済州島で取材したが、裏付けは得られなかったため「真偽は確認できない」と表記した。今年の4~5月、あらためて済州島で取材し、吉田の記述を裏付ける証言は得られなかったので、最終的に「虚偽」と判断し、過去の記事を取り消す。
〈犬鍋コメント〉
92年に吉田証言の嘘を暴いたのは秦郁彦です。私は93年の『昭和史の謎を追う』で読みました。せっかく97年に独自取材までしたのなら、その時点で「真偽は確認できない」じゃなくて、「虚偽であることがわかった」として過去記事を取り消すべきでしたね。今回、取り消したことはいいことですが、いかにも遅すぎるという気がします。
(2)朝鮮半島出身の慰安婦について、慰安婦と挺身隊は別のものであるにもかかわらず、「女子挺身隊の名で戦場に動員された」と書いた。
〈朝日の弁明〉
記者は「朝鮮を知る事典」(平凡社)などを参考にした。事典の記述(項目執筆者は宮田節子)は、千田夏光著『従軍慰安婦』をもとにしていた。その資料が間違っていたので、朝日の記者も誤用した。93年以降は誤用しないように気をつけた。
〈犬鍋コメント〉
記事によれば、92年1月11日朝刊の記述は「(慰安婦について)太平洋戦争に入ると、主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した。その人数は8万とも20万ともいわれる」。
一方、記者が参考にした『朝鮮を知る事典』の記述は、「「43年からは〈女子挺身隊〉の名の下に、約20万の朝鮮人女性が労務動員され、そのうち若くて未婚の5万~7万人が慰安婦にされた」。
宮田が参考にした千田夏光『従軍慰安婦』の記述は、「“挺身隊”という名のもとに彼女らは集められたのである(中略)総計二十万人(韓国側の推計)が集められたうち“慰安婦”にされたのは“五万人ないし七万人”とされている」
朝日は「慰安婦と挺身隊の混同」を問題にしていますが、私はむしろ慰安婦の総数に関する部分の誤った引用が問題だと思います。
『従軍慰安婦』も『朝鮮を知る事典』も、「挺身隊は約20万、慰安婦はそのうち5~7万」となっているのに、朝日は「挺身隊の名で強制連行された慰安婦が8~20万」と読み取れる記述になっています。吉見教授の推計などを参考に記述を変更したんだと思いますが、一般論として書くならば『朝鮮を知る事典』を正確に引用すべきだったと思います。
(3)1992年1月11日の「慰安婦 軍関与示す資料」の記事が、宮沢訪韓の直前のタイミングを狙った意図的な報道だったのではないか。
〈朝日の弁明〉
吉見教授から朝日新聞記者に連絡があったのは91年12月下旬。翌年1月6日に吉見教授から別の文書の件で再び連絡を受け、記者が7日に文書を確認して撮影。関係者や専門家に取材し11日に報道した。秦郁彦は「文書発見から二週間も寝かせていた」と言うが、実際は記者が詳しい情報を入手してから5日後であり、宮沢訪韓の直前を狙ったわけではない。
〈犬鍋コメント〉
偶然、「絶妙のタイミング」になったということのようです。
(4)91年8月11日に植村隆記者が元慰安婦(金学順)の証言をスクープしたが、これは元慰安婦の裁判を支援した団体(太平洋戦争犠牲者遺族会)の幹部である韓国人の義母に便宜を図ってもらったのではないか。
〈朝日の弁明〉
植村隆は記事掲載の半年前に「太平洋戦争犠牲者遺族会」の幹部、梁順任(ヤン・スニム)の娘と結婚したが、テープの出所は挺対協であり、遺族会とは別の組織である。植村は「義母からの情報提供はなかったし、義母らを利する目的で報道したことはない」と説明している。
〈犬鍋コメント〉
本人がそう言うんだったらそうなんでしょう。信じるしかないですね。
(5)91年8月11日の報道で、元慰安婦(金学順)がキーセン学校に通っていたことを隠し、人身売買であるのに強制連行されたように書いた。
〈朝日の弁明〉
金学順さんが「14歳(数え)からキーセン学校に3年間通った」と明らかにしたのは、91年8月14日だった。11日の記事でキーセンに触れなかった理由を植村氏は「証言テープ中で金さんがキーセン学校について語るのを聞いていない」と話した。金さんは12月6日に日本政府を相手に提訴し訴状の中でキーセン学校に通ったと記しているが、同日別の記者が書いた記事でもキーセンについては書いていない。植村氏は12月25日の記事で、金さんが慰安婦となった経緯やその後の苦労などを詳しく伝えたが、「キーセン」のくだりには触れなかった。その理由を植村氏は「キーセンだから慰安婦にされても仕方ないというわけではないと考えた」と説明した。
読者のみなさまへ 植村氏の記事には、意図的な事実のねじ曲げなどはありません。
〈犬鍋コメント〉
植村氏の説明の書き方が微妙ですね。「証言テープ中で金さんがキーセン学校について語っていない」じゃなくて、「証言テープ中で金さんがキーセン学校について語るのを聞いていない」。あとからテープが発見されて、語っていたことがバレちゃうかもしれないので、「少なくとも記者は聞いていなかった(聞き逃した)」と言い逃れができるよう布石を打っているように感じるのは、勘繰りすぎでしょうか。
8月11日の報道はともかく、すでにキーセン学校出身であることが明らかになっていた12月25日の「金さんが慰安婦となった経緯やその後の苦労などを詳しく伝えた」記事の中で、「キーセン」のくだりには触れなかったというのは問題です。その理由は、植村氏が「キーセンだから慰安婦にされても仕方ないというわけではないと考えた」からなんだそうですが、記者の個人的な考えで、証言の内容を正しく伝えないというのは許されないと思います。
「植村氏の記事には、意図的な事実のねじ曲げなどはありません」などと書いていますが、「意図的な事実の隠蔽」があったわけです。「キーセン学校出身ではなかった」と書けば「ねじ曲げ」で、そうしたわけじゃないから「ねじ曲げはなかった」というのは理屈になっていないと思います。
なお、植村記者の義母が詐欺で告訴されたことを、以前、当ブログでご紹介したことがあります
(→リンク)。今年になって、裁判が結審し、無罪判決が出たもようです。
裁判所、日本強制動員犠牲者遺族相手に詐欺行脚をした60代女性に懲役
毎日経済新聞2014年2月11日(→http://news.mk.cokr/newsRead.php?year=2014&no=221139 ※参照するときはcokrをco.krとしてください)
60代の女性が、日帝太平洋戦争強制動員犠牲者の遺族を相手に詐欺行脚をした容疑で起訴され、重刑を宣告された。
ソウル中央地裁刑事29部(チョン・デヨプ部長判事)は11日、「強制動員犠牲者補償金をもらえるようにしてあげると言って、大金を騙し取った容疑(詐欺)などで拘束起訴されたチャン某(67歳女性)氏に懲役7年6か月を宣告した」と発表した。
チャン氏は、去る2010年3月「対日民間請求権訴訟団」を結成し、弁護人の選任と遺族会登録などの名目で、2011年初めまでに約3万人から一人当たり3~24万ウォン、計15億ウォンを騙し取った容疑などで、昨年、告訴された。
裁判所は「チャン氏が1900年~1930年代に生まれた人の遺族であれば補償金を受けとることができるという嘘をついて詐欺を働いた」、「被害遺族にさらなる挫折感を与え社会に対する不信をもたらした」と指摘した。
さらに、「チャン氏が犯行全体を告白し反省している点は、情状酌量の余地があるが、再犯防止のためには実刑が避けられない」と付け加えた。
しかし、裁判所は共謀の容疑で同時に告訴された梁順任(70)太平洋戦争犠牲者遺族会会長は無罪とした。
共謀の証拠が不十分という理由からだ。
裁判所は、「捜査機関が提出した証拠とチャン氏の証言では、共謀の事実が十分に立証されない」、「刑法上、詐欺共犯と認めがたい」と判示した。
ただし、裁判所は、「梁氏は、チャン氏のそれまでの行動に照らし、彼女が詐欺行脚を行うかもしれないことを予想し、これに対する統制・予防の対策をする必要があったのに、そうした措置をとらず、結果的に遺族会の名を張氏に貸し、犯行の名目を提供した。道徳的、民事的責任を追及する余地はある」と説明した。
植村氏も朝日新聞も、胸をなでおろしていることでしょう。
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まあ、タイトルは、一応、入れましたけど、心配してるわけではありません。思う存分、宇宙の果てまで行かれたらよいと思われます。
これだけでも相当大きな意義のある功績です。
秦郁彦さんのような論客は韓国人にとってはなんとしても過小評価、できれば無視したい存在。
韓国人の歴史観の特徴は自分たちにとって都合のよいものは過大評価、どんな誇張も許される、
一方、都合の悪いものは過小評価、あるいは無視、というご都合主義の態度でしょう。
いずれにしろ、その後の吉田証言をベースにしたクマラスワミ報告などみーんなペケ!それこそ学問的に終わっています
慰安婦についての過去記事は、今読み返しても修正すべき点が見当たりませんし、私の考えは以前から一貫していて変化しているとは思えません。
秦郁彦は、慰安婦問題を学問的に決着させた人だと評価しています。
その点Unknownさんに同感です。
学者というより、読み物作家ですね。
秦 郁彦氏は、アメリカ留学後、防衛庁防衛局に出向、その後、防衛大学校講師を務めた後。大蔵省官僚になったのですが…学問を憧憬し続けて、ようやく叶ったのが拓殖大学教授です。そのころから変節甚だしくなっていったのです。
勿論、今日では確信をもってイデオロギーを発信しているようですね。ただ、「歴史学」についての証明方法を知っていますから、無いものを在るとか、在るものを無いと捏造はしないのです。
つまり、確信犯的なのです。不都合な部分を隠ぺいし、自分の説を主張するときには事実の断片を引っ張ってきます。もはや、自分の栄達と物質的な利益に囚われてしまっているのですね。
そもそも秦氏は1999年の著書『慰安婦と戦場の性』のなかで、公娼制度とは「まさに「前借金の名の下に人身売買、奴隷制度、外出の自由、廃業の自由すらない二〇世紀最大の人道問題」(廓清会の内相あて陳情書)にちがいなかった(同書p.36)」と公娼制度が奴隷制度であることを認めていたのですが、それが、今日、立場上「変節」すること著しいのです。
何故?頬かむりするのか?
秦 郁彦氏は、戦史研究に没頭し、A級戦犯を含む多くの旧日本軍将校らからのヒアリングを実施して『日中戦争史』、『軍ファシズム運動史』を著したのですから、実は、日本軍が実質的に慰安所を管理し、時には自ら「慰安婦狩り」を行い、慰安婦に性暴力を強いていたことも知っています。
ただ、「時」と「場所」によって器用に使い分けているのです(否応なくボロは出てしまいます)。彼の言説を整理すると、【慰安婦問題】について「強制性」は認めていますし、少数の強制連行も認めています。大いに違う点は人数です。ある時は、6万人といい、ある時は2万人といいます。現在は、批判を逃れるために自分の立場を危うくする点については言説を控えて沈黙しています。
是非とも、ご自身で調べていただければと思います。
中国のプロパガンダの嘘を暴いた好著だったと思います。
廓清会の陳情書の引用は、こちらのサイト
http://d.hatena.ne.jp/dj19/20130703/p1
からのコピペだと思いますが、以前アホかさんが指摘し、私は次のように応えました。
2014-02-17 00:41:25アホかさんが引用されている部分の直前には次のような記述かあります。
悪徳業者にかかると、女の稼ぎから割高の衣食住経費を差し引くので、前借金はなかなか減らず、強欲な親が「追借」を求めたりすると、雪ダルマ式にふえる例も珍しくなかった。宮尾登美子の小説『寒椿』に登場する貞子(1924生れ)の場合は9歳のとき、200円で仕込っ子として売られ、小学校卒と同時に妓楼生活に入るが、養母の追借で6年の間に8回住み替えるたびに前借金は1800円から5500円(いずれも年季は5年)まで膨れあがり、終戦を満洲の牡丹江で迎えている。
それに続き、
まさに「前借金の名の下に人身売買、奴隷制度、外出の自由、廃業の自由すらない二〇世紀最大の人道問題」(廓清会の内相あて陳情書)にちがいなかった。
が来るわけです。ブロガー氏は、「まさに~」の前に「公娼制度とは」という主語を勝手に補っていますが、原文では、「悪徳業者にかかった場合は」、より直接的には「小説『寒椿』の貞子の場合は」からつながります。
このブロガー氏は、自分の都合のいいように引用して切り貼りするクセがあるようですね。
http://blog.goo.ne.jp/bosintang/e/9fbc23f35b9c648248687920c97ae0ea
該当個所を、是非ご自身で調べてみてください。
むしろ、「人身売買、奴隷制度、外出の自由、廃業の自由すらない」というのは、慰安所の女性に、完全に当てはまるわけですが、この点については、ホッカムリですね。
元々、秦は千田夏光を高く、評価していたように、慰安婦問題については、今よりずっと左の位置にいた人です。なんで、変節したかってのは、私には分かりませんが、昨年、南京事件で、オカルトと批判していた連中の巣食う、サンケイを利用して、河野談話批判のキャンペーンをやってたので、実のところ、よほど、危機感はあるんでしょうね。橋下市長を擁護した発言を読むと、もう単なる右翼です。
慰安婦の民族構成に言及して、内地の廃娼運動によって、「廃業させられた」女性達が北支や満州での、慰安婦の需要に応えたという、なんの根拠もない、インチキをやってるのを読んで、ビックリした記憶があります。慰安婦の総数も、似たようなインチキですね。パラメータを変えたことに、何の説明もない。
最大の問題は、よく言われるように、元慰安婦の証言に、一切、価値を認めないこと。秦がインチキ学者だってことは、じきに常識となるでしょう。そして、元慰安婦の証言が、再度、読み直される時期がくると思います。俺は、こんなインチキ学者に騙されていたと、憤激する人が多数、出現するのではないでしょうか。
私はそうでした。
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130306/1362584220