犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

中央日報の低レベルな記事

2023-11-11 23:59:00 | 慰安婦問題

写真:中央日報の「文化ディレクター」のシン・ジュンボン記者

 これまで、主に朝鮮日報の記事を紹介してきましたが、中央日報にも『帝国の慰安婦』の判決に関する記事が出ていました。

【時視各角】『帝国の慰安婦』事態を読む

「文化ディレクター」のシン・ジュンボンという記者の記事です。

 記者は記事中で、朴裕河教授の『「帝国の慰安婦」、知識人を語る』という本から次の一節を引用します。

「文学というのは(…)単一の思考では計り知れない複雑な心理と感性を持っている人間が作った過去と現在はもちろん、その過去と現在がそこまで認識できなかった構造まで考察しようとする学問でもある」

 朴教授は、単純化されがちな慰安婦問題を複雑なままに提示した本です。

 ところが記者は、記事の後半で、「ある重鎮の文人」の言葉として、「本の全般的な基調は正当だが、曖昧な表現が至るところにある」、あるいは「脱民族主義談論に長く身を置いているある人文学者」の言葉として、「慰安婦運動団体のようなナショナリストに対してはるかに深刻かつ複雑に問題を提起できたはずなのに、朴裕河がこれかあれかの単純な戦いにしてしまって局を台無しにした」を引用し、記事を締めくくっています。

 他人の言葉の引用ですが、それを引用したということは、記者の意見に近いのでしょう。

 「これかあれかの戦い」、「売春婦か性奴隷かの議論」を批判して、慰安婦問題のもつ複雑な側面を描いたのが『帝国の慰安婦』だったのに…。

 「文化ディレクター」のシン・ジュンボン記者は、『帝国の慰安婦』読まずにこの記事を書いたか、本を読んだとしたら、とんでもなく読解力が低いか、どちらかでしょう。

 「口直し」のために、判決の直後に『法律新聞』に出た記事を拙訳で紹介します。

2023年10月28日付『法律新聞』

[インタビュー]「名誉毀損無罪」朴裕河教授、「韓国社会の「知性の力」を見せた判決…学問の政治化は残念」

キム・ドオン詩人(小説家)

告発した「ナヌムの家」の所長は監獄に
起訴した検事が異動になり
私だけが残った皮肉な状況ですね


 約10年待ちこがれた判決だろう。大法院に事件が預けられていた期間だけでも6年。結局、長く待った末に無罪趣旨破棄差し戻し宣告を受けた朴裕河教授の声は、少女のように上気していた。だが、そのうきうきした雰囲気の中にも、自分の感情を制御し続けようとする特有の中庸的な態度も感じられた。彼女は大法院に同行した弁護士や知人たちと昼食をとりお茶を飲んだ後、家に帰ったばかりだと言った。

 私は朴教授の人間的な所感をもっともお聞きしたいです。法廷で宣告を聞いた直後の感情はどうだったのでしょう。

「まずは安堵と喜びを感じました。日本からわざわざ帰って来た息子も隣にいたんですよ。ともに活動してきた方々への感謝も感じました。法廷に座っている時も、まるで安心できませんでした。大法官が複数の案件の宣告をしましたが、他の案件のほとんどが棄却宣告でした。でも、破棄差し戻し判決が出てくれてよかったと思いました。その瞬間、隣にいた人たちと握手しました」

 朴教授はこれまで大法判決遅延に伴う苦痛を訴えながら、手足が自由になりたいという言葉を何回も口にした。破棄差し戻し後の二審など、まだ残っている裁判があるとはいえ、今やあれほど望んでいた自由を得たわけなので、今後の計画を尋ねた。

「実はアメリカのある大学と話がつき、1年ほどの予定で出かける計画を立てていました。ところが大法院の判決が出ず、ずっと留保の状態でした。自由がないので人生の計画を立てられなかったんです。アメリカという国から韓日関係を少し眺めてみたいです。韓国と日本は近すぎるので、もう少し遠くから両国の歴史を見てみたいです。今日、大法院の判決が出て、今後は二審判決が出ることになり、民事も始まりますが、それが終われば外国に行くこともできるでしょう」

 振り返れば、2014年にナヌムの家の安信権所長の突然の告発で始まった『帝国の慰安婦』事態は、その後予想もしなかった検察の起訴(刑事)、そして一審無罪を覆す二審有罪宣告の不運につながった。大法院の無罪趣旨破棄差し戻し宣告が下された今、自分に苦難を与えた当事者たちに朴教授はどんな怨みを持っているのか気になった。

「怨み(憾情)のようなわだかまりはありません。今になって思えば、告発したナヌムの家の所長は横領罪で刑務所に行っており、ナヌムの家の代理をしていた顧問弁護士も今は慰安婦関連では現場に全く姿を見せず、私を起訴した検事も異動になったそうですね。当事者たちは皆消えて、私だけが残っているという皮肉な状況です」

 本当に象徴的だ。一人の良心的学者に、人生をぶち壊しかねない辛苦と侮辱を負わせるほどに強固な信念を持っているかのように見えた人々が、今はみな蒸発したかのように消えうせ、ただ朴教授だけが依然として茨の道を通り抜けてきた自負心で再び慰安婦問題、韓日の歴史問題を掘り下げるというのが。

 最後に、朴教授に自分を応援し支持してきた人たち、そして誤解し反対してきた人たちに一言ずつお願いした。

「大法院判決は来年の夏ごろに出ると思っていました。それが今日判決が出たのは、世論が少しずつ変わったからではないかと思います。私を支持し応援してくれた方々の、すばらしい考えと知性のおかげで、このような結果があったと思います。心から感謝します。日本にも韓国社会の知性の力を見せることができたと思います。そして私を誤解し反対した人々の中には、様々なスペクトルがあると思いますが、一般大衆やメディア、そして運動家に対する怨みはあまりありません。ただ、学問を政治化した一部の学者たちには、多少の遺憾を表したいです」

 判決がある前、朴教授は3日ほど体の具合が悪かったそうだ。前日の夜は眠れなかったとも。彼女が今、安らかに日々を過ごすことを、私は願っているが、私の直観では、朴教授は再び学者的良心の命じるまま、別の茨の道を求めてさ迷うような気がする。そこにただ栄光だけがあることを願って。



写真:キム・ドアン詩人(小説家)


 キム・ドアン氏は、判決の前、今年の7月にも朴教授にかなり長いインタヴューをしています。朴教授の人となりのわかる文章なので、いずれ紹介したいと思います。

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