犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

日本人にとって易しい言語、難しい言語②

2020-11-03 23:34:40 | 言葉
 言語学者、故千野榮一氏の著書、『言葉の樹海』(青土社、1995年)に、「一番難しい言語」という文章があります。この文章が最初に発表されたのは、岩波書店の『図書』1987年1月号とのことです。

 そこには、アメリカの「外務研修所」の資料が紹介されています。約50種類の言語について、言語別に、外交官向けの必要学習時間が記され、言語の習得難易度によって、4グループの分けられています。

 前に、大学書林という出版社が出典の、同様の資料を紹介したことがありますが(リンク①)、こちらのほうが取り上げられている言語数がずっと多く、分類も微妙に異なっているので、ご紹介します。

 グループ1は、米国人にとっても最も学習しやすい言語で、学習能力の高い学習者が720時間(24週)の学習で、外交官として最低限必要な語学力を身につけられる、というもの。そして最難関のグループ4は、2400~2760時間(80~92週)。日本語は、グループ4に分類されています。


※インド・ヨーロッパ語(印欧語)は太字

 千野氏は、この表について、言語学者の立場から分析を試みています。

 まず、グループ1は、すべてラテン文字の言語で、ほとんどがインド・ヨーロッパ語。スワヒリ語は、文字はラテン文字だが、文法が英語と異なるので、なぜグループ1なのか疑問が残るが、文法的一致が重視されるという意味で、屈折的な文法に慣れている者には学びやすいのかもしれない。

 グループ4のうち三つは、表語文字(漢字)をもつ言語。もう一つのアラビア語は、アルファベットだがラテン文字ではなく、それぞれの文字に頭字・中字・尾字の区別があって形が違う。ただ、アラビア文字を使う言語はグループ3にも3つあり、英語と文字も文法も違うという意味ではヘブライ語も同じ(グループ3)。なぜアラビア語がグループ4になるかというと、アラビア語学習者は、共通語としての「文語」以外に、各地で話される口語を学ばないといけないので、実質的に1言語半学ばなければならないという点が考慮されたのだろうと推測しています。

 グループ2には、日本人にはそれほど難しいとは思われないインドネシア語・マレー語が入っている。また、印欧語・スラブ諸語の中でブルガリア語だけが入っている。これはスラブ語のうちでただ一つ、名詞が格変化を失い、前置詞が発達し、冠詞を使うという、英語と共通する点が考慮されたのだろう。

 グループ3は、文字が複雑なタイ語、ミャンマー語、文法が英語と違うハンガリー語、フィンランド語、トルコ語、クメール語、印欧語の中でも変化形の多いロシア語、ポーランド語、チェコ語、セルビア・クロアチア語などのスラブ諸語など、いろいろな理由で英語人には難しい言語がそろっている。

 千野氏は、この表が「米国人にとっての難易度」を表すものとして「かなりよくできている」と評価しつつ、「母語が英語ではない人々には違ったグループ分けが必要」と指摘し、「日本人にとっての言語難易度」の試案を出しています。

 まず、日本語には同系の言語がないので、グループ1に入る言語はぐっと数が少なくなり、「文法の変化があまりなく、発音も比較的容易で、ラテン文字で書かれている言語が入るであろう」としています。このような条件を満たすものに、インドネシア語とマレー語があります。

 グループ2には、米国人にとってのグループ1の大部分が入るが、そのうちオランダ語、デンマーク語、スワヒリ語は、さらに難易度の高いグループ3に行く可能性がある。また、米国人にとってのグループ3のうち、ポーランド語、チェコ語、ロシア語、セルビア・クロアチア語は、グループ4に行く可能性があり、逆にトルコ語、フィンランド語、ハンガリー語は、日本語と文法が似ている点があるので、グループ2に入るだろう。

 グループ4の朝鮮語は、文法が日本語に似ているのでグループ2へ。中国語は、中国語は文字(漢字)が似ているが、語形変化がなさ過ぎて別の困難があるのでグループ3か。

 なお、千野氏は、「英語」について言及していませんが、先に紹介した「島」の内容などを読むと、おそらく他の多くの印欧語と同じく、グループ2と考えているのではないかと思われます。

 以上を、先の大学書林の表と同じ形式で表すと、次のようになります。



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