先日、とても貴重なLPレコードを入手した。1986年に発売された、早瀬優香子という女優・歌手のアルバムだ。恐らくご存知ない方も多いのではないかと思う。
早瀬優香子は、個人的にとても印象に残っている女優だ。僕が小学生だった1979年頃に日本で良く見ていた『俺はあばれはっちゃく』という全58話のテレビドラマがあり、毎週楽しみに見ていたのだが、このドラマでヒロイン役のひとみちゃんを演じていたのが早瀬優香子だった。当時彼女も小学生役だったので、恐らく13歳くらいの設定だったと思うが、僕もまだ子供ながら、彼女の魅力にすっかりハマっていた。
主人公であったあばれはっちゃくこと、桜間長太郎(演じていたのは吉田友紀)にとって、クラスメイトのひとみちゃんはとても気になる存在で、毎回ひとみちゃんとの関係がどのように進展するのか楽しみにしていたのが懐かしい。ひとみちゃんが好きだからこそ、いつもちょっかいを出していた長太郎だった。そして感動の最終回で、飛行機でどこか遠いところに引っ越すことになり、学校の友達はみんな空港(羽田で撮影されている)に見送りにくるが、なぜか長太郎だけがいない。長太郎に会えないままのお別れとなって落ち込んで飛行機に乗り込むことになってしまったひとみは悲しむが、何と機内の窓から外を見ると、羽田沖の空き地に”ひとみちゃん、これからも暴れよう!”と書かれた大きなメッセージを地面に広げ、大声でひとみに叫ぶ長太郎の姿が!とても感動的で、今でも強く印象に残っている名ラストシーンだ。このように、家族の事情による転居で突然の別れが訪れることは子供の頃良くあることだったし、僕も比較的転勤族だったのでとても感情移入してしまったのを良く覚えている。
子供時代の思い出の女優であった早瀬優香子だが、その後映画『早春物語』や、ドラマ『赤ちゃんに乾杯!』、『若奥さまは腕まくり!』、『華の嵐』などにも主演して、女優としてある程度活躍。
そして、その後1986年にシングル「サルトルで眠れない」で歌手デビュー。当時飛ぶ鳥を落とす勢いであった秋元康を作詞に迎え、デビューアルバム『躁鬱(SO・UTSU)』がリリースされた。そして今回入手したレコードが、まさにこの『躁鬱(SO・UTSU)』である。どうやら昨年LPとして再販売されたようだが、僕が入手したのはまさに1986年にリリースされた初版LP。大ヒットしたようなアルバムではないので、出回っている数も恐らく少ないと思われ、結構レアなLPである。
収録されているのは下記10曲。10曲中9曲の作詞を秋元康が手掛けており、1曲は早瀬優香子がCECILEという名前で作詞している。
(Side A)
TROIS QUARTS
サディスト
サルトルで眠れない
ピンクのCHAPEAU
去年マリエンバードで
(Side B)
蟻
Le CABARET
セシルはセシル
水曜日までに死にたいの
ララバイ
今回LPで初めて“歌手、早瀬優香子”を聴いてみた感想だが、かなり“フレンチポップ”な世界観を意識したアルバムで、秋元康の歌詞もオシャレ感を狙っている。早瀬優香子のささやくような独特な歌い方は妙にアンニュイで、とても雰囲気のある作品だ。しかし、正直特別歌が上手いとか、抜群の歌唱力があるわけでは無いので、アルバムとしてのコンセプトは評価するものの、大ヒットするまでのアルバムでは無かったのかもしれない。
この後も1980年代後半に4枚のアルバムリリースし、以降1997年に1枚、2001年に1枚アルバムをリリース。計7枚のアルバムと2枚のベストアルバムをリリースしたので、歌手として音楽業界に多少の爪痕は残したと言えるが、残念ながらメジャーな存在にはなれなかった。それでも女優から歌手としてチャレンジした早瀬優香子の貴重な当時の足どりを、今回のレコードでしっかりと確認出来たのは新たな発見と収穫であった。
早瀬優香子は現在57歳。今はどうしているのだろう。もう芸能活動からは遠ざかっているが、『俺は暴れはっちゃく』の頃の彼女が今でも本当に思い出深いし、今回ファーストアルバムでの歌声を確認出来たのはとても嬉しい振り返りの機会となった。