Negative Space

日本映画、文語文学、古代史劇映画、西部劇、フィルムノワール、hip-hopなど。

1945年のブレードランナー:『実録・私設銀座警察』

2014-11-02 | その他



 佐藤純彌『実録・私設銀座警察』(1973年、東映)

 どぶ川とごみの山のさなかにかろうじて崩壊せずにいるといった体のシュールな廃墟で黒人のGIと交わるパンパン。階下(もへったくれもないのだが)からそれをのぞき見る復員兵(渡瀬)。出征中に妻がパンパンになり、黒人兵の子供までもうけていたのだ。ソウルフルに泣き叫ぶ赤子を窓(もへったくれもないのだが)からどぶ川に投げ捨てる渡瀬。パニくって階下へ走るパン助を追い、どぶ川のヘドロにまみれて石で女を殴り殺す。
 
 焼け跡闇市のカオス状のザギンでくりひろげられるやくざたちの勢力争い。押し出しは強いが馬鹿で愚図、敵からも子分からもなめられている葉山良二を尻目に、やり手の安藤昇がのしあがる。公金横領の役人を締め上げる壮絶なリンチ場面(煮え立つ天ぷら油に手を突っ込む)にはノワールの香りも豊か。肺病病みでヤク中となった渡瀬は、兵帽のひさしに伸び放題のひげ面を半分以上隠した亡霊のようなたたずまい。しじゅう部屋の隅に転がっていて、ときおりヤクを打っては血反吐を吐きまくる。葉山の女房に不気味がられるところは笑える。渡瀬のベストの一作だろう。子分の婚礼の席に乱入し、安藤を射殺。ラストは警察に追いつめられてヤケになったやくざたちが札ビラを切って宴席の女という女を犯しまくるサイケな大乱交場面。ヤクを打つために部屋から抜け出た渡瀬が、自分の吐いた大量の血反吐にまみれながら土間で息絶えるところにエンドマークがかぶさる。

 キャメラ傾けまくったファンキーなヴィジュアル、安藤の洗練(ダボ姿の子分の誕生日に靴を贈る)、梅宮の能天気な快活さ、どれもサイコーだ。日本映画史の隠れた名作。脚本は神波史男+松田寛夫。