海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

書評:屋嘉比収『沖縄戦、米軍占領史を学びなおす』

2009-12-10 22:40:15 | 読書/書評
書評:屋嘉比収『沖縄戦、米軍占領史を学びなおす 記憶をいかに継承するか』(世織書房・3800円)
初出:2009年12月5日付沖縄タイムス朝刊

 待望の1冊である。著者は近現代思想史を研究しつつ、基地問題や教科書問題など同時代の課題にも積極的に発言してきた。雑誌や新聞でその評論を読むにつけ、ぜひ1冊にまとめてほしいと思っていた。書き下ろしを含め『現代思想』『EDGE』などに発表された13本の論文がまとめて読めるのは有り難い。
 書名が示すとおり本書には、沖縄戦と米軍占領史という二つの大きなテーマをめぐる考察が収められている。
 第二次大戦から64年が経ち、戦争体験者もすでに全人口の2割を切ったといわれる。戦争体験を持たない世代が、沖縄戦について考えることの意味は何か。戦争体験を共有することは可能か。
 「Ⅰ沖縄戦を学びなおす」において著者は、そのような根本的な問いから始まって、沖縄戦の「記憶」「証言」「語り」「継承」の問題に考察を進める。
 慶良間諸島やチビチリガマなどで起こった「集団自決」を著者は「強制的集団自殺」ととらえる。そこにおいて住民の生死を分けたものは何であったか。現場で発せられた「死なない」「逃げなさい」という声。死に向かおうとする「共同体的構造」に亀裂を入れ、人々を生きる方向に向かわせた「他者の声」に著者は注目する。そして、「強制的集団自殺」や沖縄戦の体験を〈自分自身の問題として「当事者性」を拡張しようとする試みへとつなげて〉いこうとする。
 著者にとって〈沖縄戦を学びなおす〉とは、証言や資料の中に歴史的事実を発見し、新たな知識を得ることにとどまらない。直接の体験がない戦後世代が、〈自分の位置から沖縄戦を絶えず再審〉し、〈体験者との共同作業を重ねることで「当事者性」を獲得する〉試みなのである。
 そのような立場、問題意識から、日本軍による住民虐殺や防衛隊、新平和祈念資料館展示物の改竄事件、命どぅ宝、教科書検定など、沖縄戦に関わる多様な問題が考察され、論じられている。
 「Ⅱ米軍占領史を学びなおす」においては、戦後沖縄の密貿易や米軍統治下の経済成長、米軍の文化政策、生活改善運動などの分析を通して、1940年代後半から60年代にかけての沖縄の大衆社会の変容が論じられている。
 基地問題や教科書問題で沖縄は今も揺れ続けている。沖縄戦と米軍占領史を〈学びなおす〉ことは、私たちにとってまさに今日的な課題であり、本書が出た意義は大きい。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
新聞名? (黒蝶真珠)
2009-12-11 17:13:28
初出の新聞名もしくは日付けが間違ってませんか?6日の屋嘉比さんの出版祝賀会では、「東京新聞」に書評掲載との情報を耳にしましたが。こちらの見落としでしたらご容赦下さい。
日にちについて (目取真)
2009-12-12 01:20:32
沖縄タイムスの書評は5日付の紙面でした。
ご指摘ありがとうございました。
今読んでます (yanagida)
2010-04-28 09:47:38
屋嘉比氏の本を今よんでます。
自分自身、まだ生まれてからの時間にしたら短いもんですが、それなりに生まれてからのバックグラウンドをもっているので、その体験や経験から「当事者性」を何らかの形でも会得できれば、、、と思ってます。

本当に得られるものなのか、また自分自身が戦後世代として何ができるのか。

もっと深く探求することへのきっかけになりそうです。

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