以下の書評は2020年3月10日発行「監視社会ならん!通信」29号に掲載されたものです。
2013年11月27日、共同通信社会部から1本の記事が配信された。翌日、同社加盟31紙がその記事を1面トップで掲載した。記事の内容は、陸上自衛隊内に総理大臣や防衛大臣も知らない秘密の情報部隊があり、海外で情報収集活動を行っている、というものだった。
自衛隊という軍事組織が、文民統制を否定し、海外でスパイ活動を行っている。その衝撃の事実を明らかにした調査報道の記録が本書である。
著者が5年余にわたる取材で明らかにした組織は、正式名を「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班」という。陸軍中野学校の流れをくむ陸上自衛隊小平学校(旧調査学校)の対心理情報過程を首席で終了した者たちを中心に構成されているという。
班員たちは自衛官の籍を抹消してロシア、中国、韓国などに渡り、潤沢な資金で現地協力者を作り、情報収集を行っている。1961年の創設当初から米軍情報部隊と密接な関係を築いてきた。というより、米軍の要望・指導によって作り出された。
非公然の「闇組織」であるから、自衛隊背広組や国会、内閣の監視、統制を受けることもない。今後自衛隊が海外で活動する際には、現地で人的情報を収集する役割を担う可能性もあるという。このような組織が存在すること自体の危険性を、著者は繰り返し指摘している。
困難な取材を重ね、記事にしていく過程は調査報道の見本と言える。護郷隊に関連して陸軍中野学校が話題になるが、決して過去の問題ではない。