海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

書評:比嘉康文著『我が身は炎となりて』(新星出版)

2011-12-13 16:48:20 | 読書/書評


 1967年11月11日午後5時45分頃、首相官邸正門前で一人の男性がガソリンをかぶり、焼身自殺をはかった。火だるまとなった男性は、虎ノ門病院に急患移送されたが、翌日の午後3時55分、息を引き取った。男性の名は由比忠之進、73歳の弁理士でエスペランチストであった。死の直前にエスペラント仲間に送った手紙には、次のように記されていた。

 今晩の会合で古切手集めの件の外の原稿を総て拒否したのを不思議に思われませんでしたか。実は私は明十一日死を覚悟しているのです。沖縄小笠原の問題、米のベトナム侵略を支持する佐藤首相に焼身自殺を以て抗議するためです。

 11日は佐藤栄作首相の訪米前日だった。その日、妻に気取られることもなく、いつもどおりに家を出た由比は、1年前から決意していたことを実行したのだった。
 本書を著した比嘉康文氏は、由比の焼身自殺の動機を四点にまとめている。

一、政治資金規正法を自民党の圧力に屈して骨抜きにされたことに対する政治への不信感。
二、沖縄・小笠原諸島の返還をめぐる佐藤首相の弱腰な対米追従の政治姿勢。
三、ベトナム反戦運動に耳を貸さず、米国のベトナム戦争に加担する佐藤政権。
四、アジアでのわが国の役割を自覚しない政治家たち。

 これらを告発するために、由比は最も激しい方法を選んだ。本書はその由比の生涯を、彼が残したエスペラント語の日記や生前発表された文章、家族やエスペラント仲間などの証言を通して描いている。そして、由比が精力的に取り組んだエスペラント運動の歴史や日本での活動の様子、1960年代の沖縄・日本の政治・社会状況などを描き、由比が戦中・戦後をどのように生きたか、焼身自殺に至った理由、背景を追求している。
 日本復帰前に「沖縄問題」に抗議して焼身自殺した人がいたことは知っていた。しかし、その具体的な事実については知らなかった。その死から44年が経っても、由比が告発した問題は継続している。本書を手にして興味を引かれ、一気に読んだのだが、歴史の中に埋もれようとしていた一人のエスペランチストに光を当てた労作である。
 


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