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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第1章−6 シンガパウムの別れの言葉

2019-06-17 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

(ナオミよ、相手と対峙してまずなすべきは?)
(闘気をまとうことでございましょうか)
(その通りじゃ。闘気さえまとえば、海中では今のお主ならまず百戦百勝。人間界でも「呼び水」さえあれば、ほとんどの相手と互角以上に戦えるはず。やっかいなのは精神界での闘いだが、現在のところネプチュヌス様とプルートゥ様の関係は良好であらせられる)
(では、いったい何がご心配で?)
 しばしの沈黙の後、シンガパウムが伝える。
(お主には人間界に行った姉が一人。おばば様によればお主もいつか人間界に行くさだめ。そこには、さまざまなものがいる)
(それは、いかなるもので?)
(殺気をはらむものじゃ)
(殺気とは?)
(殺気をはらめば、身は狂気にゆだねられ破滅そのものが目的となる。自分自身の破滅さえも。最後には、相手の殲滅を望む感情に身をまかし暗黒界に己が魂をつなぐ。暗黒界のエネルギーは魂に食らいつく。そして、いったん食らいつけば離れることはない)
(何のために、それほどの危険を侵して殺気をはらむのでしょうか? 魂を失えば、すべてが失われたも同然)
(愚か者には目先しか見えず敵さえ倒せれば後はどうでもよくなる。あくなき欲求にとらわれた人間たちは、プロメテウスが太陽から火を盗んだように、自然から力を盗みエネルギーを生み出し敵対するものの破壊に専心しておる)
(まさにおそろしきこと)
(その通りじゃ。殺気をまとったものはまことにおそろしい。闘気をまとった闘いなら勝っても負けても得るものがある。しかし、殺気をはらんだものとの闘いは勝っても負けても何かを失う)
(人間たちとは、それほどに邪悪なので?)
(邪悪なのではない)
(邪悪ではないと?)
(人間とは、本来が矛盾した存在。内に対立をはらんだ存在じゃ)
(わかりませぬ。矛盾とは? 対立とは?)
(神々には、そのような心の動きはない。神にあるのは、人間に言わせれば、たわむれ、気まぐれ、愛、そして、怒り・・・・・・)
(神々と人間たちの違いが、わかりませぬが)
(このように考えて見よ。人類の心の内には天使と悪魔が住んでいる。天使は正しき面の象徴、悪魔は暗黒面の象徴。だが悪魔はたぶらかすために美しい顔をしている。それゆえに悪魔は心弱き人間には魅力的に映る)
(それほど美しいなら悪魔にも会ってみたいものですが・・・・・・)
(生意気を申すのも今の内じゃ。好むと好まざるとにかかわらず、人間界にいけばお主も天使と悪魔に会う。時には、自らの心に両方を抱え込むことになる)
(わたくしが・・・・・・ですか?)
(両者は主導権を握ろうとせめぎ合いをしておる。人間とは幸せになればなるほど不幸を意識する。健康になればなるほど病を恐れ、富めば富むほど貧しさにとらわれ、賢くなればなるほど愚かになる。信じ深いものほど疑り深く、大胆なものほど臆病。人間とは弱き魂を肉体という入れ物につつんだ存在。たやすく心の陥穽に落ち込み暗黒世界への扉を開く。あやつらは、死の神トッド、悩みの神レイデン、戦いの神カンフ、責任の神シュルドから生涯逃れられぬ。内なる神をみずから殺し、その偶像を崇拝する愚かな存在。他の生物と共に生きる道を探ろうとしない限り、死滅する運命。そのような世界には出来ることなら行かせたくはないものじゃが・・・・・・)
 くすっとナオミが笑うとシンガパウムがむっとした。
(何がおかしい?)
(シンガパウム様がこうしたお話をされるのは、初めてなので)
(・・・・・・をからかうものではないわ)
 その後は、まるで思念を交わしすぎたと恥じるかのようにシンガパウムは寡黙な武人にもどってしまった。あの日、シンガパウムは自らを「父」と伝えたのか、「師」と伝えたのか、今のナオミには思い出すことが出来ない。
 逆らえないと知りながらシンガパウムも彼なりに娘の旅立ちを心配していた。
「旅するもの」ナオミの冒険は、二人が思うよりも近くに迫っていた。
 
   

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