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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第6章−2 ジェフが語る国際関係論

2019-12-06 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 

「はい、よろこんで。今のところテロ組織として認知される集団は世界で約二百九十に上ります。二十世紀のテロ組織はその目的により五つに分類出来ます。一番目は思想的背景を持つ革命指向型ですが、これは冷戦構造の崩壊に伴い衰退していくでしょう」

「わたしは冥界にいた時から知っていたけれど、それがわかっていたとは人間にしてはたいしたものね」

「二十世紀は戦争と革命の世紀です。しかし、ソビエト連邦下の共産圏の国々が民主革命によって打破されてからは世界は一つのイデオロギーによって統一されるでしょう」

「資本主義、あるいは拝金主義という名のイデオロギーにね」

「その通りです。冷戦構造という重しが取れれば、二十一世紀に向けてその他四タイプの力が増していくでしょう。二番目が政府の支配から逃れようとする独立戦争型、三番目が他民族の弾圧から逃れようとする民族解放型、四番目が同一地域内に住む異なった信者同士の宗教抗争指向型、最後が利潤追求の過程で犯罪を侵すマフィア型です」

「テロ組織にも目的があるというのは不思議な気がするわ。単に破壊そのものを目的とした組織はないということかしら」

「破壊のための破壊など無意味ですから。たとえ直接的要求がなかったとしても、間接的には相手に恐怖心を与え将来の交渉を有利に進めるという目的があります。もちろん組織によっては狂信的なメンバーを含んでいたり、自暴自棄になったメンバーが自爆行為に訴えることはあり得ますが」

「本質的にはまともな連中と変わりないということかしら。テロリストと言えば、何をしでかすか予想のつかない顔の見えない危険な連中というイメージがあるけど」

「破壊そのものを目的とはしない以上、テロリストにも家族や個人生活が存在します。存在が謎につつまれたエリート上層部や秘密工作員が存在しても、ほとんどの末端メンバーは一般人としての顔も持っています」

「テロリストにも正常な判断をしたり交渉したりする余地があるということかしら。無差別テロのような卑怯な手段には屈しないとか、テロリストは狂信的で交渉不可能な相手だというのは政府の公式見解としてよく聞く話じゃない」

「交渉可能なテロリスト集団は存在します。言葉が先にあって対応するものが生み出されるわけではなく、ある意図を持ってすでに存在する物が言語によって表象されるため生じる問題の典型ですね。迫害や搾取をしている当事者が相手にテロリストというレッテルを貼ることで交渉を行わない方便にしているのです。逆の見方をすれば、テロリストでなくなれば交渉すると言っているようなものです。かつてテロリストと呼ばれた人物が、政変によって一国の指導者になったり第三者の仲介を通じたりして交渉のテーブルにつくことは歴史的にはいくらでもありました」

「たしかに、圧倒的な武力を持つ正統政府が同じ行為をしてもテロとは呼ばれずに軍事介入と呼ばれるわね。世界を滅亡させるためにそうしたテロ組織を利用出来る可能性はあるかしら」

「巨大なパワーと国際ネットワークを持ったテロ組織は、世界に八つあります。もっとも有名なのは中東のアルカイーダです」 ジェフは付け加えた。「しかし、国際的テロ組織を部外者が活用出来る可能性はゼロでしょう」

「その理由は?」

「こうしたテロリスト・ネットワークは別の目的を持つ組織同士が共通の敵を倒すために一時的に手を結んでいるだけです。極端な場合、同じ名称を使っているだけで実質的なつながりさえないこともあります。基本的に反体制的で非合法な手段に訴えることを辞さないテロ組織を利用するのは危険過ぎます。無差別攻撃は国際社会のルール違反で事実が明らかになればヌーヴェルヴァーグ財団にとって命取りです」

「なるほど」

「別の理由もあります」

「それは?」

「互いに利用し合う関係などあてにならないからです。テロ組織を資金援助しても彼らは恩義を感じないし、状況が変われば平気で恩を仇で返すでしょう。目的が状況に応じて変わる可能性がありますし組織形態も一定ではありません。現在、世界には約七千の民族があり、三千五百が独立指向と言われています。究極的には三千五百の国ができる可能性と民族運動の火種が世界にあるということです」

「ほっておいても何らかの問題は起こるが、外部からそうした動きを利用するのは難しいということか」

「その通りでございます。ただし、外部からの干渉で動員と利用可能な組織がないわけではございません」

「それは?」

「極右組織ならば、あるいは・・・・・・」

 

 

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