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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第7章−8 ブッシュ大統領の開戦演説

2020-01-31 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 一九九一年一月、皮肉にも「弱虫」のあだ名の持つジョージ・ブッシュ大統領の開戦演説によって湾岸戦争の幕が切って落とされた。

 西洋には「正義の戦争ドクトリン(just war doctrine)」と呼ばれる宗教上の教義に近い理論があり、大統領の開戦演説などにはこうしたレトリックが用いられてきた。

 ブッシュの開戦演説も例外ではなかった。

 軍事評論家ウィリアム・オブライアンによれば、「正義の戦争」は四つの条件を満たすことを求められる。第一に、「大義」が存在すること。開戦理由は権力者の私怨や私欲によるものであってはならず、皆が納得する理由が提示されていなければならない。

 第二に、「戦争が最後の手段」でなければならない。いきなり武力に訴えるのではなく外交など平和的な手段を尽くした上で、戦争以外の選択枝がなくなって初めて武力行使が正当化される。

 第三に、「紛争という手段に見合った目的」が見込まれること。戦争には常に多大な人的コストと金銭的コストがかかるが、見合った見返りが期待できないのであれば始めるべきではない。

 最後の条件は、「正しい意図の行使」である。権力者は、武力行使が倫理にかなったものであり、人々が納得する目的を有していると説明しなければならない。

 一月十六日、食い入るようにナオミがテレビを見ているとブッシュの演説が流れてきた。「この紛争が、八月二日にイラクの独裁者(サダム・フセイン)が、小さな、そして無力な隣国に侵攻した時から始まっています。アラブ連盟および国連の加盟国であるクウェートは破壊され、クウェート国民は非人道的な扱いを受けているのです」と述べた後、五ヶ月前にフセインが始めたこの戦争に対する多国籍軍による軍事行動が国連決議と連邦議会の承認を得ていると続いた。開戦の理由が独裁者に蹂躙された小国クウェートの人民を救うためであると明言されたのである。

 さらにブッシュはアラブの指導者たちが「アラブによる解決」を求めたが、フセインがクウェートから撤退することもなく、また五ヶ月にわたる経済制裁も効果を上げなかったと説明。ここでブッシュは「世界が待ち続けている間にも」という表現を7回も繰り返し、フセインが計画的に小国クウェートを略奪していると強調。しかも保有する化学兵器に加えて核開発を企てていることを説明し、まさに「戦争が最後の手段」であると訴えた。

 クライマックスでブッシュは、「今はまさに歴史的な瞬間なのです」と始めて、「新しい世代のために、新たな世界秩序を、ジャングルの弱肉強食のおきてではなく、法が諸国の行動を支配する世界を構築する時が訪れたのです。今回の戦争を成功裡に終結させた後にこそ、真に新しい世界秩序を作り上げることが出来るのです。国連が、その創始者たちの誓いと理想を実現するため、平和維持機関としての役割を果たすことが出来るように世界秩序を」と宣言して、今回の決断が大きな意味を持つことを強調した。

 最後に、「我々の目標は、イラクを征服することではありません。目指しているのは、クウェートの解放です。イラクの人々が自分たちの指導者に、武器を放棄し、クウェートから撤退するように説得して、平和を愛する我々の仲間に再び加わってくれることを祈っています」と述べて、独立戦争に関してトーマス・ペインが書いた「アメリカの危機」から「今、我々の魂が試されているときである」という文が引用された。「たとえ多国籍軍がイラクを空爆していても、私は今なお戦いではなく、平和を望んでいます。わたしは多国籍軍の圧勝を信じると同時に、戦闘の恐怖の中で、いかなる国も団結した世界に立ち向かうことは出来ない、隣国を侵略することなど許されないのだということが認識されるだろうと信じています」と、この戦争によって「正しい意志が行使されること」を強調した。

 湾岸戦争に勝利したブッシュは九割というアメリカ史に残る高支持率を獲得するが、この演説が史上空前の数字に貢献したことは間違いがない。自分たちが神によって選ばれた「自由の新天地」の民と信じるアメリカ人にとっては、戦争によって達成される「クウェートの解放」という価値観には無限大の重要性があった。

 二月には、圧倒的な武力を持つ多国籍軍によるクェートの解放がなされて戦争はイラク敗北で終わりを告げた。

 だが、ケネスからの連絡はなく「便りのないのはよい便り」という言葉を信じて、ナオミはひたすら彼の無事を祈ることになった。

 

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