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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第7章−6 転機

2020-01-24 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 六年前に魔道がニューヨーク州オルバニーの邸宅で、ヌーヴェルヴァーグ・シニアに面談してから儂の人生が始まった。

 彼は魔道に生命のすべての謎を解き明かす神導書アポロノミカンを見せようと言った。ヌーヴェルヴァーグが神導書を開いた瞬間、頭の中のプロテクターが吹っ飛んで脳髄が百パーセントの割合で機能しだした。しかし、それは一人の人間が受けとめられる限度をはるかに超えていた。

 その瞬間、誰かが叫んでいた。

 だが、その叫びは魔道自身のものじゃった。

 知ってしまった知識の重みに耐えかねて魔道は倫理や道徳心といったくだらない感傷を越えた存在、第二の人格であるこの儂ドクトール・マッドを生みだした。儂は魔道が寝静まっては起き出して脳死状態の死体を使っては、さまざまな実験を続けた。儂は一度活動停止した脳を再起動させて、ねらった命令を細胞に与えるさまざまな薬品や手術を試した。

 もう少しで研究の糸口がつかめそうになった時じゃった。

 学内から情報が漏れて儂は身を隠さねばならなくなって、こうして今、お主の目の前にいるというわけじゃ。

 マクミラ、これがここまでの経歴に関する話よ。

 研究の目的?

 儂が研究したいのはゾンビーソルジャー計画じゃ。

 人体をさまざまに変化させたゾンビ戦闘員を作ってみたいのじゃ。

 思考しないから恐れも知らず、傷ついても戦闘能力を失わず、最初から死んでいるから殲滅されるまで闘い続ける。

 彼らは、理想的なコンバッタントだとは思わないかね。

 すでに気づいているのだろうが、人類の最大の脅威は人口問題だ。資源、難民、環境、国境を巡る問題さえそうだが、現代社会がかかえる重要な問題は突き詰めれば、すべて人口が原因になっている。

 必死になって寿命を延ばそうとしている先進国をよそに、途上国では内戦、貧困、飢餓、伝染病によって毎日数千、数万の人間たちが死んでいる。ゾンビーソルジャーは期待通りに世界に混乱を招いてくれるだろう。人間が死ねば死ぬほど彼らの潜在的なメンバーが増えるとなれば、一石二鳥だとは思わないかね。

 これ以上お主に協力するにはひとつ条件がある。

 何、実験結果の公表は無理だと?

  バカを言っては困る。

 世俗的な名誉に対する興味など、とうに失っておるわ。儂が興味を持っているのは、自分の理論が正しいのか否かを検証することだけだ。

 研究には完璧を期したい。

 ついては、中西部の極右団体を使ってパイロット・スタディを行いたい。アポロノミカンにはこんな一節があった。

 

 ・・・・・・こころざしをおなじゅうする者

 南風の地につどいて戦いの宴に身をささげよ

 十字架の戦士たちと競う瞬間

 炎がすべてを包み

 死への旅路が終わりをつげ

 始まりの旅が幕を切って落とされる・・・・・・

 

 どうじゃ、カンザス州のどこぞの大学のキャンパスで試してみては?

 

       

 

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