闇夜に輝きが走った。
真珠の戦闘服に身を包んだ姿になると海神界親衛隊員時代の記憶が戻ってきた。人間界に来てから黒髪だった髪がマーメイド時代の栗色の巻き毛に戻っていた。
右手を高く差し出すと雨でアクアソードができた。
“ラウンド・スリー”! 戦闘準備完了だ。
「ついに目覚めたわね、ナオミ」マクミラがつぶやいた。
心眼で何でも見ることが出来る彼女だが、火の玉を打ち上げた時には半径五十メートルで起こっていることなら波動のチェックによって状況を知ることができた。
コウモリには飛びながら発した超音波が物にぶつかり跳ね返って来る音によって、距離や形、大きさを把握するエコーローケーションという能力がある。盲目のヴァンパイアであるマクミラも、同様の能力を発達させていたのかも知れない。
「そうこなくては。相手が弱過ぎるゲームなど価値がない。さっきとは全然違う波動ね。かなりマーライオンの血が強い。ふーん、アクアキネシスが使えるんだ」
火を使うパイロキネシスよりも、水をコントロールするアクアキネシスははるかに高度な超能力だ。火にはほとんど重さがないが、水には比較にならない質量がある。人類の歴史上には小さな火をおこせる人々の事例はいくつか報告されているが、水を操るのはモーゼの十戒のエピソードを引くまでもなく「奇跡」のレベルに達する。
火は可燃物質の分子を高速度で振動させることで起こせるが、水を作るのは分子レベルの物質の再構成を必要とする。まだ水を作り出すことはナオミにも出来ないが、水を自由な形状に固定するだけでも大変な能力である。
マクミラが感心したのも道理だった。
二人は、すでに十数体のゾンビに囲まれていた。
カニゾンビが三匹、人喰い熊ゾンビが四匹、イカゾンビが二匹、人間型ゾンビがまだ数匹いた。
だんだんと檻のない化け物動物園みたいになってきたわね。
ナオミは両目をつぶると歩きながら刀を振るった。
アクアソードは単なる刀ではなく超高速で振動する水製チェンソーだった。カニ型ゾンビ三匹の顔が斜めに切れて次第にずり落ちた。
缶詰工場へようこそ!
おっと、もっと刻んであげないとダメかな?
だが、一息つくまもなく熊型ゾンビたちが襲ってきた。
あやういところで攻撃をかわす。だが、彼らの爪が銀杏の幹につけた深い傷を見てぞっとする。
その時、トーミの声が聞こえた。
ナオミ、ようやくお目覚めだね。相手の奪われた心の声を聞いてごらん。戦い方がわかるはずさ。
わかったわ、おばあ様。
ゾンビたちの失われた思念を読むとナオミは、憎悪に凝り固まっていた自分を恥じた。彼らは言っていた。
こ、ろ、し、て、く、れ・・・・・・
そう、苦しいのね。わかったわ。今、楽にしてあげる。
ゾンビたちは怒りや悲しみの負のエネルギーに満ちていた。怪物にされてしまった悲しみとなぜ戦うのか理解できない怒りを目の前の相手にぶつけていただけだったのだ。そうとわかれば攻撃するのでなく解放するための力を使わなければ。
ナオミは生体エネルギーをアクアソードに充填させた。
ハッ。
破邪の剣が熊ゾンビをすれ違いざま切り倒す。
同時に、相手に生体エネルギーを注入して、魔界とつながる負のエネルギーをはじき飛ばす。さらに振り向きざまに二の太刀を浴びせる。
彼の口がゆっくりサンキュウと動いたような気がした。
次の瞬間、彼の身体はばらばらになって崩れていった。まるで身体をひとつにまとめていた憎しみのにかわがはがれてしまったかのように。
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