ゾンビたちはちぎられた腕や折られた膝や頭から泡を出しながら怪異な変容を遂げつつあった。
最初に倒されたゾンビがバネ仕掛けのおもちゃのように立ち上った。甲虫類のようなハサミがついた左腕が復活したのみならず首がふた回りも太くなっている。
他のゾンビたちも続々立ち上がる。
イカのようなぬるぬるした鞭のようにしなる手が復活したゾンビや剛毛に覆われた熊のような爪を持ったゾンビなど、さしずめ悪夢の展覧会場になりつつある。
だが、次の光景はナオミと孔明を真に震撼させた。
ゾンビたちのちぎられた腕がピクピクと動いて再生を始めていたのだ。
「そんな、ドール・バナナって、メイド・イン・ハワイのボケかましてる場合じゃないわね。こいつらまるでひとつ首を切り落とすと双頭の首が生えてくる冥界のヒュードラじゃない」
“ラウンド・ツー”の開始である。
「宴は始まったばかりよ。まだまだ楽しませてもらいたいものね」マクミラが言う。
「こいつらは普通にやっつけてもダメだ。死への旅路が終わりを告げ、始まりの旅が幕を切って落とされるの意味はこれだったんだ!」孔明が言った。
「どうしよう?」
「決まってるじゃないか。お前一人で逃げろ。車の運転は出来たな」
「冗談じゃないわ。どれだけわたしと付き合ってると思ってるの」
「十一ヶ月と十八日。もうすぐ一周年だ」
「冗談言ってる暇があったら何か考えなさいよ!」
「考えてるさ。時間を与えれば与えるほど敵が増えちまうのがわかった以上、ぐずぐずしちゃいられない。ビルを呼ぶんだ」
「ビル?」
「チャックやクリストフじゃ、あいつらは倒せない。だがビルが最近遊んでるおもちゃならもしかして・・・・・・自動車電話に短縮番号が入っている。“アルゴス”を持ってこいと言えばわかる。いいな」
「アルゴスね。ディオニッソス崇拝を拒否して罰を受けた都市国家の名ね。不吉だけど、それ以外に手はなさそうね」
「いや、百眼の巨人アルゴスは見落としをしない幸運の名だ。俺はあいつらがこれ以上グレードアップしないように手加減しながら戦ってみる。もっとも全力を出したとしても今度は勝てるかどうかわからないが」
でも、ユピテルの浮気相手で牛に変えられたイオの見張りをしている時に、ヘルメスの眠りの杖にうっとりしてアルゴスは斬り殺されてしまったのよとナオミは思った。結局、使命に殉じたアルゴスを哀れに思った天主の妻ヘラによって彼女を象徴する鳥クジャクの羽に百眼は残されたが・・・・・・
ワン、ツー、スリー!
孔明がゾンビたちに向かうのとナオミが車に飛び込むのが同時だった。
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