一九九〇年十月。
真紅のドレスをまとったマクミラの姿は、いつビックアップルの社交界にデビューしてもおかしくないほどだった。最高級サングラスの奥の閉ざされた両眼さえ彼女の美しさを引き立てはしても減じてはいなかった。
現実には、勝手気ままな生活と引き替えにマクミラは社交界の注目を集めるどころか、親しい友人の一人さえいなかった。
誰にも心を開かない理由は、周りの波動にシンクロしてしまう特異体質だったからだ。澄んだ波動の相手と一緒なら心の澱がなくなりエネルギーが満ちてくる。逆に、いやな波動を発する相手と一緒だと心に大きな穴が空いて体調が悪くなる。
そのせいでマクミラは人付き合いをひどく限定してしまった。
特にやっかいだったのは女性の受けが悪かったことだ。
男性に対して彼女は魅力的過ぎた。たまに外出しても、病弱そうに見えると殿方に親切にされてよいわね、何も知らないお嬢様の振りをして、といった悪意の波動にさらされた。そうした誹謗中傷の波動に疲れたマクミラは、ジェフとおしゃべりをして過ごすのが常になった。
その日、マクミラはミシガン州に出かけた。
まだ三十歳代半ばの若さでゾンビーランド責任者に就任した魔道斉人(まどうさいと)と話し合いを持つためだった。かつては日本の名門大学で将来を嘱望される天才医学者だったが、禁断のプロジェクトを業を行って大学を追われたのだった。
学内の倫理委員会の許可なしに、彼は「フランケンシュタイン計画」として知られる脳死患者の人体実験を繰り返した。もっとも脳死は人間の死であると主張して、「人体実験」にはあたらないと自己弁護したらしいが・・・・・・
魔道は、中央棟最上階奥の理事長室で待っていた。
ジェフとマクミラは三匹の盲導犬キルベロス、カルベロス、ルルベロスを従えてエレベータを出るとドアをノックした。
「プリーズ、カムイン!」
男が完璧な英語で応じる。
「遅くなってごめんなさい。こちらから時間を指定しておいて」
マクミラが日本語で答えた。
黒革のハーフコートにレザージーンズを着た男が振り返った。
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