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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第3章−6 ネプチュヌス

2019-08-23 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 ネプチュヌスの声が心に直接語りかけてきた。

(そのとおり、儂がネプチュヌスじゃ。ケネス、お主のことなら遠い先祖まで知っておるぞ。今日は頼みがある。ナオミを旅立つ日まで育ててくれ)

  ケネスには理解出来なかった。

  何なんだ、この親爺? 

  このシチュエーションはまるで異次元世界に迷い込んだアリスだが、出来の悪いファンタジーならゴメンだぜ。ファンタジーはあくまで「仮初め(かりそめ)の世界で遊んだら、最後は現実世界に帰っていく」のがお約束だろう。ファンタジーの方が現実世界に入り込むのは反則ってもんだろうが?

(お主、死に場所を求めておったのであろうが?)

  ネプチュヌスの思念が、高波のようにケネスの頭の中で砕け散る。

  死に場所か? 

  言われて見れば、海軍で特殊工作任務についていた二年間でこれまでどれだけの命を殺めたことか。直接倒した相手のみならず、爆薬を仕掛けたりスナイプしたりした相手まで加えると数十人、いや百人を越えるかも知れない命を奪ってきた。

「俺の望みがわかると言うのか。答えをくれると言うのか」

  次の一瞬にも自分の命が失われるかも知れない。なぜ憎んでもいない相手を殺さなければならないのか。そんな不安と疑問をまぎらわすため戦場ではほとんどの兵士がドラッグを使用する。ベッドに身を横たえるとふとしたきっかけで遠い記憶がフラッシュバックして、まんじりとも出来ない夜を過ごす。

(夢を叶えてやるぞ。「守るべきもの」を与えてやろう。さすればお主はもはや殺人機械ではない。だが、はたしてその運命がお主の期待通りかどうかは儂も知らぬ)

  唖然とするケネスの胸にネプチュヌスの人差し指がめり込んでゆく。

  ケネスは悪夢の中にいるようになすがままだった。しかし、不思議と恐怖心はなかった。

  次に感じたのは背中に熱い灼きごてを当てられたようなするどい痛み。

  指が完全に入ると全身がエネルギーに満ちあふれるようだった。まるでアフリカの大地を走る獣になるような、海をどこまでも進んでいくイルカになるような。最後に感じたのは目がつぶれるかと思うほどの閃光。

  ケネスは、ナオミが目覚める日まで頼む、さらばじゃ、というネプチュヌスの声を頭の中で聞いた。

  気がつくと入道雲は消え去って太陽が照りだしていた。ケネスのスエットスーツはボロボロに裂け上半身裸になっている。海主ネプチュヌスと眷属の姿は跡形もなく消え失せていた。

  夢か? 

  だが夢ではない証拠に何かが海に浮かんでいる。

  物体はぼんやりした白い光を放っている。海に入ってみるとクリフ代わりの巨大な真珠貝の中にまだ生後間もないと思われる赤ん坊が眠っていた。

  赤ん坊? 

  この浜にはたまにイルカやイグアナの迷い子が流れ着くことはあるが・・・・・・

「なんてこった!」

 

 

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