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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第2章ー7 神官マクミラ

2019-07-26 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 マクミラは、昔からプルートゥのお気に入りであった。
 しかし、切れ者だが皮肉屋の彼女には敵も多かった。口さがない連中はマクミラも冥主の前ではうまく立ち回っているのだろうと噂した。真実は、自分の前でも態度を変えないマクミラの生意気さをプルートゥが好んでいるのだと知るものは少ない。
(マクミラよ、久しぶりじゃ。お主には人間界に行って自滅しようとする人間共の側に立ってマーメイドの娘と戦ってもらいたい。お主の父は人間に生まれついたが、冥界で叛乱を制圧した功績で将軍になった。その子であるお主に今回の任務はふさわしい)
(プルートゥ様直々に選ばれて人間界に行くのは光栄に存じます。されど、父の話は昔のことでございます)マクミラは顔色一つ変えずに伝えた。
(お主にとって過去は変えることのかなわぬ無意味な時。かといって行く末の見えた現在にも興味は持てず。お主の関心は未来のみ。その未来も、これまでは己が思い通り・・・・・・違うかな?)
(未来を思い通りなどとはおたわむれを。自分のことには予知もとんと働きませぬし運命のなすがままに生きてまいりました。むしろ未来を思い通りに動かして来たのはプルートゥ様では?)
 マクミラのほほえむ口元にドラクールの眷属の証、とがった犬歯がのぞいた。
(他のものがそんな思念を伝えれば魂を八つ裂きにし、百万年にわたって魔王たちのなぐさみものにしてくれようが・・・・・・お主の憎まれ口を聞くのも今宵限りか)
 一瞬、一同に緊張感がみなぎる。
(ミスティラ、今後はお前が代わって神官となるがよい)プルートゥは続けた。(人間たちの魂と思いを交わすたびに不思議に思う。あやつらは、何のために生まれ、何のために生きるのか。神に愛され才能を開花させた者は芸術家や導くものとしてその名を残す。だが、多くは現世的な成功を求めて争い他人をけ落としてでも上を目指す。生存競争が自然の摂理だとしても、なぜ他の生物を殺し、搾取し、飾り立てるのか? なぜ他の動物と共生する道を探らず破壊の道をひた走るのか? なぜ野辺の草花に目を向けようとはしないのか? なぜ競争をし、優劣をつけるのか? なぜ個性を尊重しようとはしないのか? なぜ肌の色の違いや、自然の恵みをめぐって殺し合うのか? なぜ助け合いお互いを尊敬しないのか? 知れば知るほど人間がわからなくなる。生きること自体が目的とうそぶくやからもいる。しかし、それは誤りじゃ。たかだか百年の寿命しかもたず七十を過ぎれば身体が不自由になり八十を過ぎれば判断能力の劇的衰えを経験する。それでは苦しむために生きるようなものではないか。「なぜ人間は生きるのか?」冥界に来た哲学者や教祖と呼ばれる者共の誰もが答えを出せなかったぞ。答えは、人間一人一人にかかっているとしか言えぬのか、ドラクール?)
 矛先が、かつての大将軍に向いた。

     

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