「自分がどうしても受け入れることが出来ない人間だよ。そんな人間は相手から見たら透明人間さ」
「透明人間?」
「目の前に存在していてもいないのと同じ。誰かに腹を立てるのは何かを期待してかまってもらいたいと思っているからだよ。でも、透明人間は回りから何も期待されないから腹を立てられることもない。お前だってどうでもいいと思っている人がどうなろうと関係ないだろう?」
「誰からも関心を持たれない、俺はそんな奴にだけはなりたくない」
「それには心のバランスを取ることが大切さ。でなけりゃ自分で自分を嫌いになっちまう。そんな人間は他人を好きになることも出来ない。でもあまりつらいことがあると、そこまでの力が湧いてこないこともあるさ」
「どういうことだい?」
「たとえば、ろくでなしに置き去りにされたシングルマザー。おっと、あたしがそれを言っちゃシャレにならないね。でもね、一度傷ついた人間は誰かに救いを求めるようになる。それが自分の子どもだった時には過度の期待を負わせてしまう。子どもにそれを望むのは要求が大きすぎるってもんさ」
「傷を負ってつらかったら他人にはやさしくしようと思わないのか」
「それができるのはやさしくされたことがある人間だけさ。難儀なもんで、いじめられて育った子どもは自分の子供をいじめるようになる。愛情を注がれて育った子どもは自分の子どもにも愛情をかけられるようになる」
「俺には他人を愛せない人間はまるで愛を知らないように見える。だけど、他人を愛せる人間が必ずしも憎しみを知らない風にも見えない」
「話はもっと複雑さ。子どもをいじめる親は自分がイヤでしかたがない。その原因を作った子どももイヤでしかたがない。それなら、子どもをかわいがればいいのに、それが出来ない自分がよけいイヤになる。イヤになればよけい子どもをいじめるのさ。お前も親になったらわかるかも知れないね」
「俺は人の親になんかなりたくない。俺は親父の愛情を知らないし、もっと許せないのはあいつは俺に憎ませさえしなかったんだ」
「だけど、ケネス、そうした子どもたちが揃いも揃って親をかばうんだよ」
ケネスは黙り込んだ。
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